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石化覚悟で、城主のきれいな顔を 『ポニイテイル』★20★

レエは続いて屋上へ2人を誘った。

ツリーの最先端、ティフォージュ城のもっとも高い場所に、屋上展望デッキがある。ちょうど、クリスマスツリーの箱から、ツリーの先端だけがピラミッドのように飛び出た感じの、四角すいの部屋だ。

寝ころべるデッキチェアとハンモックがあり、望遠鏡と双眼鏡が東西南北に2台×4か所設置されている。こっちからしか向こうが見えない特殊なガラスが巡らされた360度パノラマ。

空調がしっかり効いていて高い位置の部屋なのに涼しい。
ちょうど夕方が終わり、夜にバトンタッチする寸前の、空が複雑な色彩に輝く美しい時間だった。

「あ、小学生はそろそろ帰らなくちゃいけない時間だね。ママに怒られちゃうかな。ちゃんと、お城じゃなくて図書館って言うんだよ」

「そこは大丈夫」

あどは意に介さない。

「うちらボッチだから。ね、マッキー」

「ああ」

「ボッチ?」

「待ってるヤツなんていない。自由なボッチだから。おい花園こっち来い、あれ、学校じゃね?」

「そうだ今日は七夕じゃん! 天の川はどこ?!」

レエは背後から2人に近寄り、あどの黒髪をそっと撫でる。

「残念だけど、いくらこの城が高くても、東京は東京だから星は微妙ね。でも望遠鏡や双眼鏡はいくらでも使っていいよ」

「コレ、お金入れなきゃ動かない?」

「お金? まさか。あどちゃん、ギャグセン高いね」

「こんな……夢見たいな場所があるなんて。信じられない。しかもブースまで。今日は何度もハメられちゃってるけど……やっぱりウソとか冗談とか言わないでくださいよ」

「学校が見えるの、なんかヘンだね」

「おお。学校の近くに、こんなとこがあるなんて」

「マカムラッチ、もしかしてこれはミラクルって奴?」

「これが、12歳の誕生日か」

「2人とも、いつでも待ってるよ、ここで。明日から――」

城主レエは無頼ヘアーをそっとなでた。

マカムラは石化覚悟で、城主のきれいな顔をまっすぐ見つめた。

「ホントにありがとうございます。夢みたいです」

「ありがとうございます!」

「いい誕生日になったね」

「ヤベェ、どうしよう、急にスッゲー嬉しい。本当に夢みたいだ。これウソかな、夢かな。夢としか思えないよ。ありえない。オレみたいなヤツに部屋が出来て、めっちゃキレイな優しい人が現れて」

「マカムラッチ! 逃げなくてよかったよね、ウチらさ」

レエは視線を外し、空を見上げた。

あども顔を上げる。

神を信じることから最も遠いようなマカムラもそれを追って夜空へ願った。

「もうぜんぶ夢でもいいや。一瞬、サイコーだったから」

「夢のはずないじゃん。ほら、ウチもいるし、レエさんもいるよ」

「バカ、こんな都合のいい話があるかよ。夢だ」

「そう? コレ夢なの? ねぇ、レエさん」

流れもしないフツーの星たち。

七夕なのに美しい星雲からぽつんと離れちゃった星たち。

「この城を任されるとき、ふうちゃんのお父さんからあたし、忘れるなって言われたことが1つあるんだ」

夜も明るい東京で、ただ人々の頭上にあるだけの、暗くてちっとも輝かない、名もなくひたすらぼんやりとしたパッとしない星たちに向けて、レエは力強く言葉を放った。

「どこから見ても夢としか思えないものを実現し、表現するのが人の使命であり人の仕事だ」

そうだ、そう言われたんだっけ――レエはあらためて思い出す。

「誰よりも夢を信じているからこそ、キミを選んだ」


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ポニイのテイル★20★

ポニイテイル20までたどり着きました。ここまでで1か月弱・・・週末に1~10、11~20とマガジン分けします。

午前中にあった出来事を「昨日」とか「この前」と言っちゃうことがあります。旅行中だったり、展開が激しい濃い1日のときです。★1★の放課後の教室の場面から場面はいろいろ変わったわけですが、数時間しか流れていません。数時間の間に「今、大きく動いている」と実感できることがあります。きっとこの子たちにとって、この七夕の日はとてつもなく大きいことだったと思います。

思惑が違う人が混在している社会・状態に、疲れてしまうことがあります。ピュアさ(と思い込んでいるナイーブすぎる個人的な思い)が簡単に利用され、数や自分の好みでない何かに還元されてしまうこと。その当事者になったり、それを目の当たりしたり、お互いさまだよそれは、という流れの中に身を置くこと。利用したりされたりが基本で、それでいいと思わなくては打ち負かされてしまう。その上でどうするという話だと思います。抽象的ですけど。

塾の仕事を始めた18年前、まだ起業なんてもてはやされてなくて、最初は全然お客さんがいなくて、チラシを作ったり、新聞にはさんでもらったりしていた時期があって、そのときが一番すさんでいたというか。自分で広告を作っていて、こんなゴミをもらったら嫌だよなと思ったり。自信がなかったのも大きいと思います。

広げる、まず最初の一歩をとどける、という大事なところに対して、これは苦手な分野、早くこの状態を抜け出したい、という一心でした。あのときに似た感情が今、少しあります。急激に外に働きかけていくときの自己嫌悪。静かなところから、つながりを求めて出ていく心もとなさ。それらは昔とは比べ物にならないくらい小さいはずだけど、ほんのりと、そして粘り強く残る、自分や世界を信じていいのかという不安感

誰よりも夢を信じているからこそ、キミを選んだ

自分に向けられた言葉じゃないし、ましてや物語の中のことだけれど、そう思ってやるしかない。堂々とやらないのは見ていてすがすがしくないから、小さな自己嫌悪や、すぐに発動するナイーブさは振り切り、子どもたち、そしてかつての自分や未来の自分、違う思惑を持っている人々と共にこの世界を生きるのみだな、と改めて思いました。

今回もみんなのフォトギャラリーから写真を選びましたよこいちさん、ありがとうございました。

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