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あんな木ひろって運命感じて突っ走ってきたけど 『ポニイテイル』★22★

「あはは!」

「もう! レエさん!」

「ごめん、ふふふ。でも風太郎かぁ」

「ていうかマカムラッチは何であんなスイスイ書けるの?」

「お前じゃないから」

「ヒドっ!」

「そんなの、思いついたこと書くだけだろ。思ったことをオリャアアって、どんどん書いてけばできるじゃん」

「レエさん、ウチの家来、書くのがヤバいくらい速いんです。動き始めたら手がぜんぜん止まんないんです。キモい」

「キモくねーよ」

「すごいパワーね。マカムラくんも物語作家を目指したら」

「それはムリです。物語は絶対ムリ!」

「なんでわかんの? あんなに文、速く書けるじゃん」

「物語だよ? 感想文とか2、3枚の作文じゃないんだぜ。思いつきでテキトーにバンバン書いてたらグッチャグッチャになるよ、確実に。オレの物語なんて……前の方で死んだヤツが後ろの方で生き返ってたりしそうだ」

「それ、面白いね」

レエは「読んでみたい」とにっこり笑ったがマカムラは笑わない。ときどき、マカムラはナイスなくらい真面目だ。

「物語なんて、オレには無理だ。どう考えても」

あども同意する。

「ホントだよね。どうやったら、あんな面白い話が書けるんだろう」

「その……あんな面白い話って、まさか『バースデー物語』のこと?」

「はい。レエさんも知ってますか?」

「もちろん。だってあれ……」

レエはきわめて城主らしく、ニヤリと笑った。

「あたしが書いた本だから」

「ええ?!」

「キタ! これもまた冗談ですね?」

「自分でも信じられないけど、ホント」

「スゴっ! レエさん、もしかして、作家なんですか?」

「ちがう、ちがう」

レエは白いほほに右手をあてた。爪のマニキュアが妖しく光っている。

「あるきっかけがあって……物語を書くことになっちゃったの。それをふうちゃんが読んで気に入ってくれたらしくて。それこそ、あどちゃんの風太郎と同じで、初めて書いた本だし、自分でも笑っちゃうくらいだったけど、せっかくふうちゃんが気に入ってくれたんだし、まあいいかなと思って。表紙をつけて……プレゼントしたんだ。あれはね、あたしが書いた最初で最後の本」

「すごっ! ああ! そうだレエさん! この人、あの本にお金を払うとか、お金をドブに捨ててるようなもんだって言ってました」

「言ってねーよ」

やせパンダが慌てる。

「たしかにあれでお金は取れないよね。定価0円の世界に1冊の本」

「そっか、世界に1冊なのか。超貴重じゃん!」

「あれあれ? その貴重な本、どこかに無くしたとか言ってなかったっけ、花園さん」

「ウグッ! ユニコーンの角を見つけたウチだよ? 探せば出てくるって。ていうかレエさんに謝んなよ。ドブとかヒドいでしょ」

「オレ、ええと、ほら、実際は読んでないから。オマエらの話し方がいけないんだろ。要約がヘタなんだよ。国語力ゼロだな」

「ウチらは楽しそうにしてたじゃん! じゃあ問題。空飛ぶフライパンだぞ。ダジャレ? そりゃ引くわって言ったのはだーれだ」

「ホント、すみません」

城主は少年と少女の顔を優しく見つめた後、1つ大きく息をついて、12粒の、甘すぎて崩れちゃいそうな、クッキーみたいな物語が誕生した日のことを語ってくれた。

「バースデー物語は……入社試験のときに書いたの」

「ニュウシャ試験?」

「採用試験とも言うのかな」

「なんですか、その試験」

あどはちっともイメージがわかない。

「仕事ができるヤツを選ぶ試験だよ。ていうか花園には一生エンがないから覚えなくていいよ」

「なんで?」

「オマエを雇う会社なんていないだろ。勉強しないし、遅刻するし、トイレ近いし、風太郎しか書けないし」

「でもウチ、こういう面白いとこで働きたい!」

あどは両手を挙げて誕生日に与えられた、夢みたいなスペースをぐるりと見渡す。

「あのね、面白い仕事はメチャクチャ人気があるわけ。だから採用試験があんじゃんか。花園みたいなアホを落とすための試験が」

「は?!」

「ふふふ。アホさじゃあたし、たぶんトップレベルだったと思うよ。試験を受けた人の中で」

「え?」

「昔も今もさ、バカさじゃ負けない自信あるよ。クラスで1番勉強できなかったし、採用試験を受けた人たちの中でも断トツ1位で頭悪いヤツだったと思うよ、あたし」

レエはあどを真似て両手を挙げ、ガッツポーズを作った。城主のそのポーズがあまりに似合わないので、12歳になりたての少年と少女は思わず笑った。

「それは確実に、冗談ですよね」

城主はマカムラのツッコミを流して話を続けた。

「あたし、12歳の誕生日にね、棒を拾ったの」

「あ、さっき言ってた! スゲー! ウチと同じ!」

「あたしの場合、あどちゃんみたいなきれいな金色じゃなくて、銅色っぽいなんのヘンテツもない棒だったんだけどね。あたしの周りはお金持ちの子が多くて、みんな塾行ったり、私立を受験するとかいって6年の頃は忙しそうにしてたんだけど、あたしん家はいろいろあって面倒くさいから、公園っていうか原っぱで遊んでいたらね、草むらにその棒が落ちてたの」

ちょうど、このくらいの長さの――レエはあどが発見したユニコーンの角を手に取って、再び語り始めた。

「その棒をひろってマイクにして、誰もいない原っぱで歌いまくってたの。思いつく好きな歌を、片っ端から全部。そしたら……質問。そしたらどうなったと思う?」

「そうだな……うーんと、たぶん、たまたま歌手を探していたスカウトが通ったとか?」

「ブーッ」

「そのあたりの草や木が音を聞いてどんどん伸びてその原っぱがジャングルになっちゃった」

「あはは! それはスゴイ」

「どうなったんですか?」

「正解はね……」

あどと流輝の目には、黒装束の城主の顔は、たぶん大人なのに、大人としては映らなかった。まるで友達みたい。会ったばかりなのに、昔からの友達みたい。

「正解は……スッキリした」


花園と真神村は拍子抜けする。

「え? それが……答え?」

「そう。それでね、知っている好きな歌をとにかく歌いまくってスッキリしたら――」

城主は細い体を大きく伸ばして、しなやかな声で続けた。

「今度は知らない歌詞とメロディが体の内側から出たがったの。歌がね、そう、歌の方から言ってくる感じ。歌って! その木のマイクで歌ってよって。そのとき歌手になるんだって強く思った。あたしは天に選ばれたんだって。オリジナルの曲と歌詞を作りまくった。あどちゃんたちと同じ、小6のころから、中学に入ってもずっと」

「すごい!」

「中学を卒業したらもちろん受験なんてしないで、高校行かないでバイトしまくった。ヘンなバイトしかなかったけど、まあなんていうのかな、自分ではギリギリセーフの仕事をして、楽器買って曲作って、それをネットで流して。誰か音楽が大好きな大金持ちとか、有名なミュージシャンとかプロデューサーがあたしのことを発見してくれないかなって。思いっきり夢を見てた。毎日バカみたいに曲を作って、それをアップし続けていれば、奇跡的な出会いがあるかなって。それしか道が思いつかなかった」

「で……レエさんを発見したのが、ふうちゃんのパパ?」

「ちがうちがう――あ、でも、そういうことになるか。いつもみたいに新曲をアップしたあと、バイトの求人をネットで検索してたら……なんと図書館で働く人を募集してて。いつも見てる怪しげなサイトにはね、図書館なんてまともな職場はないんだ。しかもバイトじゃなくて館長を募集してる。さらに給料も月に100万円とか」

「ひゃくまんえん!!」

「あり得ないでしょ。学歴も関係ない、司書の資格さえいらないって。さすがのあたしも、これはおかしいと思って調べると、社長の鈴原さんは新しいことばっかりやっている人で、しかもそこそこ名前が知れている人みたいだから……ダマされてもそんなヒドイことにならないだろうって。ダメもとで名前とか住んでるとことか、興味あることとか夢とか、書けと言われたことだけをざっと書いて送信したの」

「あの……ダメもと? って何ですか?」

「ダメでもともと、って意味だろ」

「え? なんで? レエさんすごいじゃないですか!」

「あたし中卒だよ? しかも世間的にみたら有料の曲は1曲もダウンロードしてもらえない、音楽をムダに作って、怪しい服着て、こわいメイクして。アブないバイトして、いい年していつまで夢を見てんだオマエ、目を覚ませって感じじゃない?」

「そうなの? ウソ、ぜんぜんそんな風に思いませんよ!」

「ありがとう。でも自分では思っちゃうの。15歳で働きだして、10年も芽が出ないとさ、自分、才能ないのかなって。あんな木ひろって運命感じて突っ走ってきたけど、それこそ時間もお金もドブに捨ててきただけだったんじゃないかなって。でも応募してから1週間後に、自分が最終試験まで残ってることを知らされたの。採用試験会場は――」

城主の細くて長い人差し指は、ピンと立てられて天の方向を示した。赤い爪が妖しく光る。

「さっきの屋上だったの。本当は1000人以上も応募があったらしいんだけれど、なぜかあたしが残り12人に入ってた」


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ポニイのテイル★22★ 原田宗典さんのこと

自信を失ってしまったときのレエさんのように、いい年していつまで夢見てんだよ、みたいなセルフ突っ込みをしてしまうのはなぜだろう。それは思い描いている夢がかなうまでの道筋がすごく単純だからだと思う。それはたとえばマカムラくんが予想した

「そうだな……うーんと、たぶん、たまたま歌手を探していたスカウトが通ったとか?」

みたいに、ありそうな展開を想像して待っている状態。またはレエさんが言っていた、

自分ではギリギリセーフの仕事をして、楽器買って曲作って、それをネットで流して。誰か音楽が大好きな大金持ちとか、有名なミュージシャンとかプロデューサーがあたしのことを発見してくれないかなって。思いっきり夢を見てた。毎日バカみたいに曲を作って、それをアップし続けていれば、奇跡的な出会いがあるかなって。それしか道が思いつかなかった

というような状態。これを健気、ひたむき、最初はみんなそんなものここが我慢すべきところと勝手に(弱気にも)くくってしまう。

実際自分もそうだった。でも本当にそんなのものかなと疑問に思う。

「そのあたりの草や木が音を聞いてどんどん伸びてその原っぱがジャングルになっちゃった」

というあどの感覚の方が今ではしっくりくる。

私の中で、レエさんが城主になれたように、自分の世界が大きく動いた日があった。それは2作目の小説を書きあげたときのこと。2001年だったと思う。

私は当時、小説家の原田宗典さんが大好きで、その小説とエッセイにどっぷりはまっていた。妻(高校時代から付き合っていて、24のとき結婚しました)にもしょっちゅう

「原田さんが、こんなことを書いていたんだよ」

って話していた。原田さんのエッセイに登場する、娘のカナエちゃん、息子のナオヤくん、奥さんのみーにゃをまるで知り合いのように感じていた。原田さんは本当にたくさんの本を出していたので、書店に入ったらまず、原田さんの本が置かれているコーナーを探すのがお決まりだった(ネットが活用されていない時代)。

そして――

私が2作目の小説を書きあげて、とある文学賞に応募しようとしたときのことだった。どうしても受賞したいと思い、仕上げの校正をするにあたって傾向と対策を練ろうと思った。そこで審査員についていろいろと調べているとき、急に1つの疑問が浮かびました。

「そういえば、原田さんってホームページあるのかな?」

当時、インターネット歴2年目くらいだったと思う。インターネットを自由にできる環境を手に入れたら、好きな人を検索するのは当たり前だと思うんだけれど、なぜか2年間くらい、原田さんのサイトを探そうという気持ちが起きていなかった。

いくつか回っていると原田さんのファンが作ったサイトがあった。オフィシャルではないが、原田宗典公認サイトということだった。「へぇ~、こんなのあるんだ」とながらサイト内をめぐっていると、なんと「原田さんが新しくホームページを作るのでそのスタッフ=助役を募集している」という情報が! しかも締め切りがそのホームページを見たその日

私は、パソコンのスキルなんてぜんぜんないのに「パソコン、超得意です。原田さん大好きです!」という思いのたけを、ありったけ書いて送信しました。

すると・・・2週間くらいして、助役に採用されるというミラクルが。

その後何年も、私は大好きな原田さんと濃く、楽しいときをご一緒させてもらうこととなった。そして私がまるで知り合いのように話していたナオヤくんとカナエちゃんは、私の塾に通うようになり! この2人とも忘れられない時間をすごすこととなる。原田さんの奥さんであるみーにゃさんとはしょっちゅう会っていましたが、会うたびに強烈なエピソードで笑わせてくれたし、今思い出しても笑ってしまいます。なんであんなまっすぐな道で電柱にぶつかるんだろうとか。

原田さんがどんな選考基準で自分を選んでくれたのかまったくわからない。でも1つ言えるのが、あのときの自分には、スキルも実績も戦略も何もなかったけれど、好きなものを大切にする一択だった。好きな服は躊躇なく着てた。バンドの真似っこだけどロックな格好したり、明治・大正の書生風とか言って和服を普通に着てて、周りから観たらヘンな人だったと思う。

文章だって上手いとか下手に気づかず、毎日のように何らかの文章を書いて、生活を維持するための仕事はいつも「明日からちゃんとやらなくちゃ」と思っていて。美化なんてとてもできない。子どもの心を持った大人なんていいものじゃない。子どもが誰にも教育されないまま大人になっちゃった状態で、将来はきっと今と違う生活をしている、将来はゼッタイ理想通りになる、とずっと思っていた。そんな私に待っていたのは、

文学賞へ応募→受賞→デビュー

という理想の順序ではなく、

文学賞に応募しようとする→せこく傾向と対策を調べようとする→小説家の助役デビュー

という展開でした。そしてこの順だったことを幸せに思う。

どこがカギだったんだろう。毎日、毎日、夢を見て文章を書いていたおかげ? それともせこく調べようとしたところ? 落ち着け。結局応募作は一次も通らず落選だったから、失敗じゃないか。え? 今の自分を支えているあの幸せな記憶たちは、応募しようというチャレンジから生まれたんだろ。それを失敗とは思えないよ。

文章を書くと、思いがけないいいことがある。

今日の一文も、同じようなことを願って書いている。きっとこのあとに、予想もつかない面白い展開が起きるんだろう、と思って、キーボードをたたいている。

『2018年にやりたいこと』に書いたように、

ポニイテイル(2014年版)を脱稿した直後に、ポニイちゃんと出会えた。そこから楽しい展開がたくさんあった。

成功も失敗もない。正のパワーも負のパワーもまとめてパワーとして使う。自分の過去が未来を手繰りよせ、予想外の現在を作っている。本当にそう思える。強く信じる作品を書けるだけ書く。

今は、原田さんと出会えた頃の、無秩序に、エネルギーだけ発していた二十代の状態とは違う。自分で決めた精確なスケジュールと方法で、1つ1つ形にしたい。その上で、予想外の展開を楽しみたい。

大小さまざまいろんな木をひろって運命感じて突っ走ってきた

がんばれ、レエさん! と応援したくなるポニイテイル22章でした。


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