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ハレー少年 『ポニイテイル』★62★

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いったいどれくらい読みふけっていたでしょう。館内には窓も時計もないので、今が何時なのかさっぱりわかりません。ハンモックをおりたプーコは「司書パナロ」の札がかかっているカベの前に行き、姿の見えない司書に向かって話しかけました。

「ここの本はすごいですね! ひさびさに時間を忘れて夢中になっちゃいました」

何秒かすると、丸い穴からパナロがあらわれました。きみどり色の鼻には、赤いリンゴがくるまれています。

「頑張ってましたね。はい、どうぞ。皮つきだけどいいよね?」
「ありがとうございます。いただきます」

不思議な味のリンゴでした。甘いハチミツのようなリンゴは食べたことがありますが、チョコレートみたいな甘さのリンゴははじめてです! 皮まで甘いりんごをかじりながら、プーコは王立生物学校を受験する話をパナロにしました。王立学校がいかにすごい施設なのか。そこの制服がとってもかわいいこと。そこの先生たちがみんなすてきな白衣を着ていてあこがれちゃうこと。もちろんユニコーンの角をもらうことはナイショです。

「わたし王立生物学校を受けるの」

そういうと、だいたいの人は「スゴイね! 頭いいね」とほめてくれました(もちろん、あどちゃんは、何のこっちゃっという顔をしていましたが)。

「この図書館、わたしのためにあるみたい! 参考書に載っていないことまで、生物のことならなんでも調べられるし、どんな疑問にも答えてくれそう。すごい! とても幸せな気分です」

言葉がうわずって、自分でも何をいっているのかよくわかりません。それでも司書パナロは、「そうね、よかったわね」とやさしい声でうなづいてくれました。

「王立学校といえばね、この図書館の13階は『宇宙のフロア』なの。その宇宙のフロアはね、王立の学校を受験する、ひとりの少年のために増設したフロアなの。その子は王立宇宙学校を目指しているんだって」
「王立宇宙学校!」

どっひゃー!
王立宇宙学校は、王立生物学校なんかとは比べものにならないくらい入るのがむずかしいというウワサです。なにせ生徒を『1年にたった1人』しか募集していないのです。しかも合格者なしの年もあるそうです。プーコの知る限り、王立宇宙学校に入ったという人はひとりもいません。知り合いが王立宇宙学校に入っただとか卒業しただとかいう話も聞いたことがありません。王立宇宙学校について正しく知っている人なんて、プーコの知るかぎり、誰もいないのです。その学校がどこにあって、どんな授業をしているのか、過去の入学テストがどんなだったかというのもなぞにつつまれていました。たしかなのは『王立宇宙学校が、この国のどこかに存在すること』だけです。

「そ、その子は誰ですか?」
司書パナロはしばらくだまっていました。
あ、もしかして機嫌を損ねちゃった?

「あ、ごめんなさい。別にゼッタイ知りたいわけではないので、いいんですけれど」
しばらくしてパナロは、鼻をプーコの耳に近づけて、そっと教えてくれました。
「その子は、ハレー少年です」
「ハレー少年!」

ハレー少年はプーコと同じクラスの人間です!

彼は学校にはほとんど来ていませんでした。でもやめてもいませんでした。男の子にしては髪の毛がちょっと長くて、プーコと交わした会話は「やあ」のひとことくらいだったように記憶しています。天才だとか、ひどく頭が悪いとか、王家の生まれだとか、ものすごく貧乏だとか、そんな極端なウワサが、学校に来ないハレー少年にはつきまといました。王立宇宙学校みたいに、ウワサばかりのミステリアスな存在なのです。プーコのズボンのうしろのポケットにいれてある銀色の羽が、ピクっとわずかに動きました。

「ハレー少年が、この図書館にいるんですか?」
「ええ。朝早くから、たいてい新しくできた13階にいるわ。でもあの子は、もうすぐ入学試験だっていってたから、会うなら試験が終わったあとの方がいいかな」
「ええ! 夏に入試があるんですか。早い!」
どの学校も、入試は冬にあるものだとばかり思っていました。
「それにプーコさん、今日はもうおそいから家に帰りなさい。明日学校が終わったら、また来るといいわ。家まで送りますよ」

そういえば、なぜパナロは名前を知っているんだろう。ポケットの羽がまた、ピクピクピクっと動きました。そしてプーコは、信じられないことを口走ってしまったのです。


『ポニイテイル』★63★へつづく


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