選択肢1

生徒を増やしたかったらリフティングをしなさい 『最善手ドリル』★1★

ウォーミングアップ例題はこちら

◎問題は全部で20問あります。最善手は1つです。
◎全問正解したら、ぜひ、私の塾の跡をついでください。
◎14問以上正解した人は適性があります! その才能を活かして、今すぐ塾を開いて、地域の子どもたちと楽しく勉強するべきだと思います!

◎初手は何が最善手?

スタートアップ——自力で新しい仕事を始めるときには、「初手」として「いろいろな手」が考えられます。私は外の塾で2年間アルバイトをして、最低限のスキルとノウハウを身につけたあと、自宅の引っ越しを機に独立しました。開いたのは小学生から高校生までを対象とした私塾です。教室は広さ5畳のマンションの一室。2000年ミレニアムぴったりでした。

ではドリルです。

【問題1】

あなたは新しい町で私塾を開くことにしました。「つて」「コネ」はゼロです。生徒を集めるためにとるべき「初手」はどれでしょうか。

①折り込み広告を作り、新聞配達所へ持っていく。
②ウェブサイトを作り、ネットで生徒を募集する。
③家の前でサッカーの練習をする。

制限時間2分

【解説と解答】

わざわざ選択肢に入れるくらいだから、異彩を放っている【③サッカー】が答えじゃないか、そう考えて、さっそくマヨラー(前回参照)になってしまったあなたは

『生徒を増やしたかったら、リフティングしなさい』

みたいなタイトルの本(1800円)を買いたくなっちゃうから気をつけて! 

前回のウォームアップ問題で学んだ2つのことは、

(1)問題をていねいに読み解く
(2)自分自身に目を向ける 

だった。まず(1)を踏まえて問題をよく読もう。

問題から得られる情報は、

新しい町 / 私塾 /「つて」「コネ」はゼロ /「初手」

ここを踏まえた上で、もう一度、選択肢を見直す。
【③サッカー】は珍妙でドラマチックな一手だが、「初手」としては開示された情報に対し、明らかに整合性を欠いている。ゆえに③は消える。では①か②。

【①新聞配達】と【②ネット】。第一印象だと、スマホ・SNSが発達した今(2018年)どう考えても【②ネット】に軍配が上がりそうだが、それは、たぶん新聞配達の印象が悪すぎるためだ。

大前提として「塾」には「通える距離の生徒」じゃないと来られない。そもそも情報を受け取った人に、子どもがいないと(あるいは子ども自身じゃないと)意味がない。開塾の情報を、世界中に届けたいのか、それとも限定されたエリアの人に届けたいのか。「つて」「コネ」は、ネットからも広がりそうだが、それは「予想もしないつながり」であって、スタートアップ時に「今すぐ欲しいつながり」は、地域にある。

最善手:①折り込み広告を作り、新聞配達所へ持っていく。

◎実戦の棋譜を見てみよう

①②③の中では、①が最善手だが、実際問題、2000年に私がとった最善手【①新聞配達】は、集客効果ゼロだった。

「広告を見ました」と問い合わせしてきた人はひとりもいなかった。五か所回った新聞配達所の人たちは、どういうわけか感じが悪く、行く先々で「なんだコイツ」みたいな感じで気持が沈んだのを今でも覚えている(当時24歳)。

また、折り込み広告を「印刷所」で刷ったが、自宅のプリンタでプリントアウトするのと、そんなにかわらない質のものを、多額の資金を投資して大量に刷ってしまった。オレ、何で自分でやらなかったんだろう感。

そしてなんと——

数回にわたって実施した、新聞チラシの反応もなく約一か月が過ぎ(すでにかなりの資金を消費)五月に入ろうとしたある日。

仕事がゼロで、大型連休じゃすまない事態。平日の昼食後、気晴らしに自宅の前で【③サッカー】のリフティングをしていたら、同じマンションの一人の方が、「若いのにこんな時間に何をしてるの?」と声をかけてくれた。

それで「上で塾を開いてまーす」と元気よく返したら、「うちの子を見てよ」という話になり、しかもその人は顔が広い人で、一気に10名ちかくの生徒が入ってきた

ということは初手は【③サッカー】が正解じゃないか? 

『生徒を増やしたかったら、リフティングしなさい』(1900円←ちょっと値上がり)を執筆する?!

◎最善手は自力で指そう

それでも「①②③の選択肢の中では①が最善手」と、ひと目で見抜けるような棋力を養いたい

初手【①新聞配達】の味わいはどこにあるか。届けたい「地域」を踏まえている点が良いのは先述した。それに加えて、やや回りくどい認識になるが、「印刷は印刷屋」「広く配るなら新聞」みたいな自分の思い込みを「初手」の段階で壊せるのが、じつに良い。この一手が、のちのち効いてくるのだ。

2000年のミレニアムオープンの後、私にもう一度「スタートアップ」の機会が訪れた。

息子が大きくなり、自宅ではなく、外部へ教室を設けることにした時点だ。
ふたたび「初手」を指さなくてはいけない。

今度のスタートアップは条件が厳しく、移転にかかる費用、物件のリフォーム、不動産との契約金、その後に続く安くない家賃……生徒数を「倍増」させなくてはいけないのだ。

そのとき「初手①新聞配達」の経験が役立った。

印刷所ではなく、チラシを自分で作った。質のいい、綺麗な色の厚紙を選び、デザイン候補をいくつも考え、カラーで製作。親がもらってうれしい、すごく気になるチラシを目指した。あるいは、とっておいて孫に渡すとか自分は子どもはもう大きいけど、知り合いに上げる、みたいなシチュエーションを想像してチラシ——というよりは招待状を作った。

ポスティングは新聞配達に頼らず、「ここまでなら通塾が面倒くさくない距離」を、想定できるエリアのすべてを、歩きと自転車で確かめた。主に子どもがいそうな、自転車が止まっている家をターゲットにして、自力でポスティングしていった。

数日で、募集していた定員は満員になった。人数が多くなりすぎ、その後は大変になったくらいだった。

私の2回のスタートアップを比較しよう。

まったく違うアプローチと結果に思えるが、行動だけ抽象してみると、【広告を作る→配達する】とやっている行動はそっくり同じだ。それを「自力」でやるか、「人に頼むか」の違いだけだ。【①新聞】が【①自分】になっただけである。選択肢の①は、行動としては最善手だったが、そこに自分がいなかった。

(3)最善手は自力で指そう

これが今回の教訓だ。

◎「ネット」を消せるようになりたい

本当の最善手は「地域」で「ターゲットを定め」て「自力」で「直接配る」だろう。できれば最初からこの認識にたどりつきたかった(だからこのドリルを公開している)。【③サッカー】は、実戦の棋譜では、たまたま良かったし、ドラマチックなので『生徒を集めたければ、リフティングをしなさい』みたいな飛躍的タイトルの文章を書けば、気分はいいかもしれないが「再現性」はまったくないし、サッカーをしていたところで数十人の生徒を集められない(運が良ければ集まるかもしれないが。それにサッカーをし続けてさらに良いことがたくさんあったが、私塾のスタートアップ時に欲しい即効性はないだろう)。

今回のドリルの注意点としては、スタートアップという条件を押さえていないと、【②ネット】が「良さそう」に見えてしまう点だ

おそらく「①新聞配達」と「②ネット」のイメージ比較の問題だろう。①が20世紀・地域相手、②が21世紀・世界相手、どう考えても②の方が大いなる可能性を秘めているように見えるが、そこは落ち着きたい。私塾のスタートアップだ。教訓(2)を再掲する。

(2)自分自身に目を向けよう。

見据えるのは世界ではなく、自分自身の心だ。自分はすぐ近くの人と、今すぐつながりたい。ならば、届かせる相手が明確になっている選択肢を選びたい。

自分は道を歩いている。
小学生が、その通りに面した家から出てきた。
そこにチラシを届ける(ポスティングする)能力がある。

なのにホームページを作る? ハッシュタグをつけて投稿する?!

魅力的な【②ネット】の選択肢は、自分の目的を踏まえて、即消せるようになりたい。もちろん【②ネット】は、軌道にのってきたとき・事業を拡大させたいときには、信じられないくらい大きな力になるだろう。その点はまたこの先のドリルで確認したい。

★2★へつづく


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