見出し画像

訳知り顔で「最近の子どもは〜」と話す人に読んでほしい一冊

先日泊まった温泉宿に置いてあった本の、読書記録です。

中嶋仁市著「しつけ・教育はこれでよいか」
昭和51年(1976年)発刊

 
昭和11年から教師をしていた筆者が、40年間の教師人生を振り返りながら「今の子ども(親)は〜」ということを書いた本なのですが、発刊年から推察するに、おそらく今50代の人たちが子どもの頃の話。
 
それを踏まえて読むと、あぁもうそんな時代からこういう状況だったんだ、ということがわかって、興味深かったです。
 
これからはもっといろんな時代に書かれた教育本を読みたいなと思いました。どなたか、お勧めがあったら教えてください。
 
以下、引用です。
 
--------

一日の出発である朝、子供は1人で起きているだろうか。今は、中学生や大学生でも、親に起こされなければ起きれないものが大変多い。これは小さい頃からのしつけ方と、夜遅くまで勉強させたからという親心から、ますます子どもを甘く育てた結果からであろう。
親は何から何まで注意し、世話を焼いていて、それで自己満足かもしれないが、永久に子どもについているわけにはいかないのである。本当に子どもが可愛いなら、なるべく早いうちに、子どもに独力で生活できるような態度と技術を教えるべきである。こう考えると現在の親は、大きな誤りを犯しているのではないだろうか。
 

 
昭和50年7月、川口市で、交通事故で入院している中学1年の長女を母親が殺し、自分も留置所の中で命を断ったという痛ましい事件があった。この長女は学業成績が良く、東京の有名附属中学校に進学した。この子供が交通事故に遭って入院し、母親は日夜看護をしていたが、これでは学校の勉強が遅れ競争に負けてしまうと思い込んで、思い余って我が子を殺したと言うのである。
 

今の子供は遊ばなくなったと言われている。日曜日に外を歩いても、戸外で遊んでいる子供の姿を見かけることが少ない。一体どこへ行っているのだろう。調査によると、家の中にいると言うものが1番多いのである。友達と遊ぶといっても、双方の家を行ったり来たりする程度だし、やることも友達がいなくてもできるような1人遊びが多い。 2人でテレビを見たり、本を黙って読んでいたりという種類のものである。
私の子供時代ではこんな事はなかった。子供の遊びといえば、家の中は考えられなかった。遊びのほとんどは外遊びと決まっていた。場所は農家の庭、藁束を積んだ田、神社や広場であった。そこへ行けば必ず仲間がいた。そこだけは、大人の社会と隔絶された子供の世界であった。思いっきり大声を出したり、走り回ったり、おしっくらをして時間の経つのを忘れていた。
遊び仲間も、決して今のように同級生や同年齢なものばかりではなかった。年長者から1年生位まで、みんな一緒であった。そして、その仲間はガキ大将によってきちんと統制されていた。仲間の中で喧嘩などがあっても、ガキ大将が始末をつけてくれた。したがって、自分だけの勝手な思いも通らなかったから、適当に我慢することも自然に覚えたし、上の人の命に従うこともしつけられた。こうして、遊び仲間の中において、子供時代の社会性が自ら身に付いていった。
さて昔に比べて、子供たちがこのように遊べなくなったのは、どうしてなのだろう。戦前の子供は、大人から干渉されなかった。干渉されなかったと言うより、子供のことを細やかに干渉するほど余裕がなかったと言ったほうが正しいと思う。どの親も、子供の数が多くて手が回らなかったし、また働くことに忙しくて、時間のゆとりもなかったのである。
ところが現在は、条件が大変違ってきた。兄弟の数が2.3名なので、子供に対して親が手をかけすぎる。
今の子供たちには、遊ぶ時間がなくなってきたことも大きな原因になっている。学校にいる時間が長く、帰宅が遅い、帰宅後も塾だ宿題だ勉強だと追い回されているので、ますます子供自身の時間がなくなってしまう実情である。
昔の子供には遊べない日なんてのはなかったが、今の子供は本当にかわいそうだ。子供たちが小学校の下校の別れ際に「今日遊べる日?」と妙な質問が出るようになった。子供のスケジュールが、塾やお稽古事で埋まっているのである。本来子供の生活は、遊びが主でなければならないはずである。それを、遊べる日を探さなければならない子供など、本当に気の毒である。
 
 
--------
 
 
他にも「社会が他人の子を叱らなくなった」ことや「利己的な態度、公徳心の低さ」などが嘆かれていました。
 
宿泊の合間の時間に読んだので、全て読破することはできませんでしたが、現代にも当てはまるな、という部分もあれば、今はもう少しマシになってるな、と思われる部分もあって、大変興味深い一冊でした。

残念だったのは、「かつてはこうだったけど、今はこう」という様に、筆者自身が育ってきた時代を「優」として、(昭和51年)現在を「劣」として終始書かれていたこと。
 
現状を批判的にみることも必要かとは思うのですが、良い面も必ずあるはずなので、その視点での筆者の意見も聞きたかったのが素直な気持ちです。
 
新鮮だったのは、筆者の方が冒頭で「どうぞご批判ください」と書いていた箇所。
 
今の時代の「批判」というと、ネット上で匿名で行われる陰湿なものが少なからずありますが、当時は今よりもっと、正々堂々お互いの意見をぶつけ合うような場があったのだろうなと思われました。
 
 


そして表紙裏には「永田区婦人学級のために」と記載が。この一冊が「婦人学級」の場で、どのように討論されたのかも興味深いです。
 
 
「今の母親は〜し過ぎる」など、子育ては母親がするものという価値観がありありと表れている記述も多いので、今の母親が読んだら、まずそこを批判したくなると思うけど…
 
当時のお母さんたちは、ここに書かれていることを、どんなふうに受け取ったのかな。。

古本って、普段あまり読むことがないのですが、この一冊がたくさんの人の手に渡りながら、どんな道を歩んできたのか思いを馳せていました。
 
#読書記録


サポートは「NPO法人フローレンス」に寄付させていただきます(貧困家庭に食事を届ける活動を応援したい)!