元素代替研究開発:ディスプロジウムを使わないネオジム磁石

これは以前、ディスプロジウムフリーのネオジム磁石について調べた時のことである。

元素代替研究開発として、挙げられるのは、物質・材料機構が行なっているネオジム磁石の研究である。

ネオジム磁石は、ネオジム、ホウ素,鉄を主構成元素(Nd2Fe14B)とする希土類磁石である.永久磁石のうちでは最も強力とされている。

ネオジム磁石は,磁束密度が高く、非常に強い磁力を持つという特徴から、ハードディスクドライブのヘッドやCDプレイヤー、携帯電話の小型のものから、電車、ハイブリットカー、エレベーターの駆動モーターにまで利用されている。

一方で、この磁石は、温度上昇に伴い、保持力が低下するという欠点がある。これの改良法として、ディスプロジウムDyを添加するということを行なってきた。ディスプロジウムを添加することで、ネオジムの一部が、ディスプロジウムに置き換わり、その結果、保持力が向上する。

実際に、ハイブリットカーの駆動モーターの駆動部は、動作により200℃程度になる。そのため、この部位には、ネオジムの40% をディスプロジウムで置き換えたディスプロジウム含有磁石が用いられている。

ところが、このディスプロジウムを用いることに関して、問題が生じている。ディスプロジウムは、重希土類元素(重レアアース)である。ディスプロジウムは、地球上の存在比が10% 程度であり、かつ90% 以上が、中国で算出されたものである。

そのため、輸入国との外交上の問題による供給の不安定性や埋蔵量の問題が生じる。従って、大量供給の必要のある磁石は、ディスプロジウム量を少なくともレアアースの10%以下に削減することが求められている。

そこで、物質・材料機構では、ディスプロジウムの代替研究として、この元素を用いずに原料であるネオジム磁石の粉”だけ”で、保持力を高める方法の研究が行われていた。この研究では、水素化・不均化・脱水素・再結合(HDDR)法で製造されるネオジム磁石粉にネオジム銅合金を拡散させ、粉の中にある無数の微細結晶の界面組織を制御することにより、ディスプロシウムなどの希少な重レアアースを使わなくても、保持力を高めることを実証した。従来のディスプロジウム量を削減する方策としては、磁石の表面からこの元素を結晶粒界に沿って拡散させ、結晶粒界部分のネオジムだけをディスプロジウムで置換し、使用量を減らすという方法を用いていたが、この方法では、結晶粒界部分に、重レアアースを使う必要があると考えられていた。

しかし、今回の物質・材料機構の研究により、結晶粒間の磁気的な結合を切り、磁気的に孤立させることにより、保持力を強化できるということがわかり、融点の低いネオジム銅合金を結晶粒界に沿って拡散させ、結晶粒界のネオジム組成を改善することが判明した。よって、焼結磁石ではなく、約一桁微細粒径を持つHDDR法による磁粉に適用し、磁気的孤立化による高保磁力を実証し、ディスプロジウムを全く使用せずに、保持力を高めることが可能であるということが判明した。

このように、物質・材料機構では、重レアアースであるディスプロジウムを添加しないで、ネオジムとボロンと鉄の元素だけを含む磁石で、高保持力を得る研究が行われていた。

参考文献
[1] 独立行政法人 物質・材料研究機構,”重希土類元素ジスプロジウムを使わない高保持力
ネオジム磁石”,< http://www.nims.go.jp/news/press/2010/08/p201008301.html>
[2]加藤哲男著,”新コロナシリーズ㉛磁石の世界”,コロナ社,1995

講評
元素戦略について、詳細まで調査してまとめた良いレポートである。元素戦略が日本の材料技術の向上に大きな寄与をしていることを知ってほしい。

(ここまで)

それにしても、今はどういう感じになっているのだろうか・・・?

最近は、このディスプロジウムに関するニュースは聞かなくなったが。

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