消え入る

カンバスにそっと手を触れた
泣いていたのか、手汗なのか、雨なのか、
とりあえず手が濡れている
それだけは確か
記憶がない

カンバスにそっと手を触れた
中世の画家が描いた名画
私の手の軌跡が
作品に加わる
一体となる
好きだ

カンバスにそっと手を触れた
外で夕立が降っている
名もない画家は何を書いているのか
今日売れた絵はあるか
分からない
私にはどれも同じに見える
名声があるか無いかに違いはあるか
偉そうな学者は
物質しか見ない
きっとそれっぽく機械が描いた新作は
見抜けない

カンバスにそっと手を触れた
完璧なものは破壊したくなる
何言ってんのって言ってる目
とろんとまどろんだその目だ
でも君も一緒だろ嘘つくなよ

カンバスはそっと触れてきた
この凹凸に
新しいから
何でもかける
今日は、明日は、何を描こう

きっと今描いた至高を
100年後の自分が嗤うだらう