日本の持続可能な未来人口:約3,000万人の真実 V
瑠璃ノ蒼さんから大変興味深い質問をいただきましたので、今回はコメント欄ではなく記事として取り上げさせていただきました。貴重なご質問をありがとうございました。
質問内容:土壌劣化に関して質問です。
水を蒔き過ぎて起きる土地の塩化って、現代ではどうなっているんでしょうか?
古代文明は、農地が塩化して、使い物にならなくなって滅びています。
メソポタとかいい例です。農地に水を撒く時、微量に含まれる塩分が蓄積する。
塩化した農地から塩分を除去する事は、現代でも難しいでしょうか?
土地の塩化は日本でもありそうだと思うのですが、稲作だと2,000年くらいは大丈夫?
私の専門分野には #環境学 、地質学・資源鉱物学、宝石学、微生物学、農学、そして経済学が含まれます。専門分野が多岐にわたるため、私がどのような研究者であるかは一見理解しにくいかもしれませんが、私の研究は全て持続可能性に関連しており、灌漑農地の塩害対策も私の主要な研究テーマの一つです。
質問:水を蒔き過ぎて起きる土地の塩化って、現代ではどうなっているんでしょうか?
回答:塩害が原因で衰退した #古代文明 と、その影響を受けなかった文明の比較は、歴史の研究において一般的なアプローチです。然し、地球上の水循環を主な対象とする #水文学 (hydrology)では、この観点が意外と見落とされがちです。水文学は、地球物理化学(雪氷学)、地球化学、生態学、地理学、経済学(社会経営学、政策学)、農学(森林学)などと関連していますが、歴史学的な観点はしばしば欠けています。研究者の関心にもよりますが、筑波大学の水文科学者たちがより多角的に研究に取り組んでいるという印象があります。
この傾向は水文学だけでなく、環境学全般にも見られます。環境学は、地球上の生命誕生から現代に至るまでの環境変化や、イギリスの産業革命以降のエネルギー利用と環境への影響について盛んに研究されていますが、地球文明発生以降の環境変化については、比較的注目されにくいテーマです。
紀元前15世紀から紀元前13世紀の #ヒッタイト 文明と #鉄器 の歴史においては、製鉄技術に大量の木炭が使用されたことで、 #鉄器文明 の発展が #森林破壊 を引き起こした影響は甚大でした。
グリーン・スチール - 鉄鋼業界の持続可能性を高める
2023/05/24
「世界の鉄鋼の95%は、コークス炭と鉄鉱石を使った従来型の製法によって生産され、生産工程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出していますが、ブラジルは世界で唯一、ユーカリの木炭を使って鉄鋼を生産しているのです。」
現在でもブラジルなどで #木炭高炉製鉄 が行われていますが、世界の鉄の生産量の大部分は #石炭コークス を使用しています。このため、古代の製鉄が引き起こした環境問題(製鉄用の木炭コークス製造に伴う森林破壊)は、現代の環境学の主要な研究テーマとはなりにくい状況です。但し、私の周囲の研究者たちには鉄器と森林破壊の問題を理解していない人はいません。これはある意味で常識であり、日本国内では研究対象としては取り上げられにくい傾向があります。
#スタジオジブリ 作品の『 #もののけ姫 』は、製鉄と森林破壊、そして環境問題をテーマに扱っており、アニメのテーマとしての印象が強いです。
私自身は、植林・緑化による #塩害 地の修復や木炭高炉製鉄の研究を行っていますが、このような研究は特に日本ではほとんど注目されていません。これは、日本政府が #水素製鉄 への研究費を集中していることに起因しています。私の専門家としての見解では、ソーラーパネルで発電した電気で水を電気分解して得た水素で鉄鉱石を還元する方法よりも、木炭コークスを使用して鉄鉱石を還元する方が環境負荷は圧倒的に低いと考えています。
日本政府の資源・エネルギー政策の愚作は、水素・アンモニア関連に限った話ではありませんが、産業革命以降の農業や環境問題に限定して研究を行うと、環境問題の本質を見失う恐れがあります。
#地球文明 史から #持続可能性 について考える瑠璃ノ蒼さんのアプローチは非常に重要だと思います。そのため、ここでは塩害によって衰退した文明と、塩害の影響を受けなかった文明を比較してみたいと思います。
塩害によって衰退した文明
メソポタミア文明:過剰な灌漑により土壌の塩分が蓄積し、農地の生産性が低下しました。
インダス文明:一部の研究では、インダス川周辺の農地で塩害が発生した可能性が指摘されていますが、衰退の原因は複合的だとも言われています。
塩害の影響を受けなかった文明
古代エジプト文明:ナイル川の年間の氾濫(台風の洪水のようなものではなく、徐々に水位が上がるタイプで、 #ナイル川 上流からの肥沃な土を含んだ水がナイルデルタ全域を満たすもの)が自然に土壌を再生し、塩分を洗い流すことで、塩害の問題は数千年にわたって発生しませんでした。しかし、1970年に #アスワン・ハイ・ダム がナイル川に建設されたことで、約360万㌶のナイルデルタの農業地帯では治水による氾濫がなくなり、一方で塩害は年々深刻化しています。
中国の黄河文明:中国では灌漑システムの工夫と土地利用の管理により、一部の地域で塩害の影響を軽減することができました。しかし、農地改革以降、大量の土地が農地に転換されたため、塩害は急速に進行し、現在では世界でも有数の塩害地帯になっています。
以上の例から、自然の恵みを利用して土壌を管理していた文明と、そうでなかった文明の間で塩害の影響に差が出たことが見て取れます。
質問:塩化した農地から塩分を除去する事は、現代でも難しいでしょうか?
回答:日本の塩害問題と、以下に引用した国連大学の記事『世界の農地の5分の1が塩害に』といった深刻な塩害地域の対策は大きく異なります。海外の塩害地における対策は、技術的にはそれほど困難ではないものの、経済的な困難さが現実の問題となっています。
土壌から塩分を除去することは依然として挑戦的な作業ですが、効果的な方法は存在します。例えば、塩分を含む土壌層を深く掘り下げて除去し、新しい土壌で置き換える方法や、大量の水を使用して土壌中の塩分を洗い流す淡水化(レーチング)があります。しかし、これらの方法はコストが高く、大量の水資源を必要とするため、実施できる地域や状況は限られています。
質問:土地の塩化は日本でもありそうだと思うのですが、稲作だと2,000年くらいは大丈夫?
回答:化石燃料が無限に利用可能で、現在の降雨量に大きな変化がなければ、理論的には数千年間は問題ないかもしれません。しかし、現実にはダムの維持困難や、石炭を含む化石燃料の予測可採年数がせいぜい100年程度であることを考慮すると、現在の生産水準を維持できる期間は長くても100年程度、恐らくは、50年も持たない可能性があります。これは、今後100年間で日本の人口が約3,000万人程度に減少する必要がある問題と同様です。 #農業 では #肥料 製造に大量の化石燃料が消費されますが、農業用水のポンピングやトラクターの燃料など、農業活動には膨大な化石燃料が必要です。2024年になってからは、世界中の農機メーカーが電動トラクターの試験生産を開始していますが、十分な電力供給の見通しは立っていないのが現状です。
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