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世界から冷笑される日本のエネルギー政策の愚行 I

アンモニアのエネルギーキャリアとしての利用

アンモニアの製造と世界の電力消費

 アンモニア製造には大量の電力が必要であり、世界で発電される電力の約2~3%以上がアンモニアの製造に使用されているというのはよく知られています。

Ammonia production accounts for about 2% of total final energy consumption, virtually all of it from fossil fuels, resulting in a carbon dioxide (CO2) footprint equivalent to the total emissions of South Africa’s energy system.

New IEA study examines the future of the ammonia industry amid efforts to reach net zero emissions

The Haber–Bosch process to synthesize ammonia enabled an increase in food production over the past century and, therefore, an increase in global population. Each year, around 170 million metric tonnes of ammonia are produced globally with approximately 80% used in fertilizers. However, the Haber–Bosch process consumes 1–2% of the total global energy production, 3–5% of the world’s natural gas production and produces 1–3% of our CO2 emissions.

Green ammonia synthesis

 アンモニアには工業用途もありますが、主に化学肥料の原料として使用されます。ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造技術の確立は、人口増加と密接な関係があります。

アンモニア製造のエネルギー消費

 世界では年間約1億7500万~2億トンのアンモニアが製造されています。アンモニア1トンを製造するためには一般的に約20~28GJのエネルギーが必要で、最も一般的な平均値として24GJ/トンを使用します。

世界の電力生成量とエネルギー損失

 2021年の世界全体の発電量は約27,000TWhに達しました。しかし、この数値は発電所から最終消費者に至るまでのエネルギー輸送と変換の過程で発生するさまざまな損失を考慮していません。昇圧プロセスや高圧送電中に生じるエネルギーロス、変電所や配電システムの非効率、消費者への配電過程での追加的な損失があります。その結果、利用者が実際に使用できる電力量は、公表された発電量よりも顕著に少なくなります。

 日本の送電網は世界的に見ても特に効率が高いと評価されており、送電ロスは約5~6%です。しかし、ジブチやベナンのように送電ロス率が非常に高い国では、エネルギーロスの割合が異常に高く、実際の状況を正確に反映するロス率の計算は困難です。

 これらの損失を総合的に考慮すると、公表された発電量から実際に利用可能な電力量が大幅に下回る現実が明らかになります。

アンモニア製造に必要なエネルギーの概算

 アンモニア製造に必要な総エネルギーをGJで計算し、それをkWhに換算します。1GJは約277.8kWhに等しいです。アンモニア製造の総エネルギー消費量は、1億7500万トン×24 GJ/トン×277.8 kWh/GJとなります。次に、この値を世界の年間電力生成量(TWh)で割り、パーセントで表します。

 この計算によると、アンモニア製造に必要な総エネルギー消費量は約1,166,760,000,000kWh、すなわち約1.17PWh(または1,170TWh)です。これは、2021年の世界の電力生成量約27,000TWhに対して約4.33%に相当します。

現在のアンモニア製造法

 現在、アンモニアの製造には主に100年以上前に開発されたハーバー・ボッシュ法が使用されています。この方法では、窒素(N₂)と水素(H₂)が、高温(約400~500℃)および高圧(約150~300気圧)の条件下で触媒の存在下で反応し、アンモニア(NH₃)が生成されます。

ハーバー・ボッシュ法の代替としての新しいアンモニア合成法

 東京大学大学院工学系研究科の西林仁昭教授は、根粒菌からヒントを得て、モリブデンを含む触媒とヨウ化サマリウムを使用し、常温常圧でアンモニアを製造する新しい方法を実証しました。しかし、この技術が産業界で実用化されるまでには、私は最短でも現在から30年は係ると見積もっています。

アンモニア製造に必要なエネルギー量

 アンモニア1トンを製造するために必要なエネルギー量はプラントの効率に依存しますが、約20~28GJが必要です。これは約5,556~7,778kWhに相当します。ただし、これは一般的な数値であり、使用する技術や設備の効率、熱回収システムの有無により変動が生じます。最も効率的なケースである20GJを基準にした試算を行います。

日本における石炭の熱量とCO2排出量について

 日本環境省によると、一般的な火力発電用石炭の熱量は1トンあたり26.6GJであり、CO2排出量は約2.4トンです。国際基準を見ると、石炭火力発電の効率は35%から40%の間にありますが、世界でも最高効率を誇る日本の石炭火力発電所の効率は約45%です。発電効率が50%に達することは非常に高い水準とされていますが、簡易計算のため発電効率を50%と仮定します。

世界最高水準の発電効率:J-Power

 1トンのアンモニアを製造する際に必要な石炭の量は、20GJ/(26.6GJ×50%) = 約1.5トンです。1.5トンの石炭を燃焼させると、CO2が3.6トン排出されます。このCO2をカーボンキャプチャーで処理するには、さらに大量の電力が必要です。また、アンモニアの主原料である水素を製造する過程でも膨大なエネルギーが消費されます。

 アンモニアのエネルギー利用効率は、他の化石燃料と大差なく最大でも約40%程度です。これらのことから、アンモニアをエネルギーキャリアとして利用するとエネルギー損失が極めて大きいことが分かります。

 日本政府が国際社会の批判を受けながらもアンモニア政策を強行している理由は、エネルギー収支の重要性を軽視し、金銭的な実現可能性を主要な基準にして計画を進めているためです。このアプローチの非現実性は、1ドル=100円時点(2024年3月5日現在のレートは150円)での為替レートのみを基にした試算からも明らかです。しかし、将来のインフレ率の調整や、アンモニアの需給バランスに伴う価格変動を考慮していない計画の策定にも問題があります。このような点が、計画のロードマップがどれほど現実から乖離しているかを示しています。

燃料アンモニア導入・拡大に向けたロードマップ

 ハーバー・ボッシュ法を超える効率性を持つアンモニア合成方法の開発は有意義です。しかし、アンモニアをエネルギーキャリアとして利用するアプローチは、現状では非常に非効率的で現実離れしていると言えます。そのため、日本はこのような効率性に疑問符がつくプロジェクトを速やかに見直すべきです。

 ソーラー発電を利用して無限にアンモニアを生産できるという考えは、考慮不足であると言えます。日本で必要とされるアンモニア生産量を支えるために建設する必要があるソーラー発電所の製造には、大量の高純度銅(99.99%)が必要です。しかし、ソーラー発電に必要な量の高純度銅を確保することは、世界的にも困難です。新たな大規模な銅鉱山の開発が進めば、高純度銅を確保することは不可能ではありませんが、銅鉱脈の発掘や電気精錬には膨大なエネルギーが必要となります。

 後日きっちりと計算し直してみますが、多分これ以上酷い数字になるはずです。

#武智倫太郎

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