見出し画像

デジタル化の光と影:デジタルで変えられなかったこと

 デジタル化は私たちの日常生活を便利にし、さまざまな業務を効率化してきました。スマートフォンの普及やクラウドサービスの導入、生成AIの急速な発展は、個人や企業に新しい可能性をもたらしました。

 しかし、『これからの未来につながるデジタルの可能性』を見出すためには、デジタル化のポジティブな側面ではなく、ネガティブな側面に焦点を当てる必要があります。『デジタルは私たちの生活やビジネスをより便利にするもの』と誤解しているICT企業は、ネガティブな側面に目を向け、その問題の解決策を提供することで、デジタル社会の利便性と安全性を両立させることが重要です。これは、成熟しかけているICT企業にとって、義務であると同時に、大きなビジネスの飛躍につながる機会でもあります。

 特に、環境問題やセキュリティリスク、そして社会の持続可能性に対する影響は深刻です。ここでは、デジタル化がもたらした変化の中で解決されていない課題や、逆に悪化した問題について考察します。

デジタル化がもたらした課題

 デジタル技術の進展に伴い、情報倫理やAI倫理の問題が顕在化しています。特に、生成AIの急速な普及は、これまでの技術とは異なる新たな課題を生んでいます。例えば、AIが生成するコンテンツの信頼性や透明性は、私たちの社会に深刻な影響を与えています。さらに、AI技術の進化に伴い、プライバシー侵害や情報の誤用、生成AIのブラックボックス問題がますます懸念されています。これらの問題は、デジタル化が進むほど深刻化し、解決が難しくなる一方です。

 また、デジタルインフラの進化は、新たな環境問題を引き起こしています。高速通信ネットワークの普及やデータセンターの増加に伴い、GHG(温室効果ガス)排出量が急増しています。特に、2023年に起こった生成AIブームにより、データセンターの消費電力はさらに増大し、GHG排出量の増加に拍車をかけています。旧GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)は、カーボンニュートラルの目標を掲げていますが、生成AIの急成長により、これらの目標の達成が非常に困難になっているのが現状です。

 具体的な例として、GoogleのCO₂排出量が4年間で約1.5倍に増加したことが挙げられます。生成AIの運用に伴う電力消費の増加により、Googleが掲げる温室効果ガス削減目標は実現不可能なものとなりつつあります。例えば、2023年には、GoogleのCO₂排出量が約1430万トンに達し、これはCO₂換算で約14.3億ドルのコストに相当します。この金額は、Googleの2023年の純益約73.7億ドルの約19.4%に相当し、将来的にはさらに大きな負担となる可能性があります。

 さらに、日本国内でも、デジタル化がもたらす環境問題は深刻です。日本は再生可能エネルギーの導入余地が限られており、GHG削減コストが非常に高くなっています。カーボンプライスが100ドル/トンCO₂に達すると、企業の純益が大幅に減少することになります。もし500ドル/トンCO₂に達すれば、純益が完全に消失する可能性さえあります。これらの問題は、企業だけでなく、最終的には消費者に転嫁され、私たち一人一人が負担を強いられることになります。

デジタル化が引き起こすセキュリティリスク

 デジタル化の進展は、サイバーセキュリティの脅威も増大させています。特に、分散型の小規模ソーラー発電所の制御システムがサイバー攻撃の対象となり、日本のエネルギーインフラが危機にさらされる可能性が高まっています。これらの発電施設は、IoTデバイスを通じてインターネットに接続されており、その脆弱性が悪用されることで、不正送金や発電の停止といった重大な問題が発生しています。

 実際に、中小規模の太陽光発電施設がサイバー攻撃を受け、監視システムが不正アクセスされて発電量が操作されるなどの事例が報告されています。このような攻撃が増加すれば、日本全体のエネルギー供給が不安定になり、持続可能なエネルギー社会の実現が危ぶまれるでしょう。

 また、日本特有の問題として、ペーパーレス化やハンコ(判子)レス化が期待された効果を上げていないことが挙げられます。ペーパーレス化を進めようとした結果、逆に紙の消費量が増加したり、電子署名によるハンコレス化がかえって新たな押印の必要性を生んだりする現象が発生しています。これらの問題は、デジタル化が必ずしも効率化につながらないことを示しています。

日本のDXの遅れとその影響

 日本のDX(デジタル・トランスフォーメーション)は、国際的な基準から見て遅れており、その結果、デジタル化の恩恵を十分に享受できていない状況が続いています。多くの政治家や企業経営者がDXの本質を理解しておらず、そのために日本のデジタル化は世界水準に追いついていないのが現状です。

 具体的には、日本の官公庁や企業におけるDXの導入が進まず、従来の業務フローや文化が根強く残っています。このため、デジタル技術の導入が逆に業務の複雑化や非効率を招くケースが増えています。例えば、デジタル署名や電子契約が普及しているにもかかわらず、依然として紙の書類や判子が必要とされる場面が多く見られます。このような現象は、デジタル化が進んでも日本の業務プロセスが変わらない、あるいは改善されない一因となっています。

 さらに、日本のDXの遅れは、国際競争力の低下にもつながっています。デジタル技術を効果的に活用できないことで、企業の生産性やイノベーションの速度が遅れ、結果として世界市場での競争力が低下してしまうのです。特に、生成AIやビッグデータ解析といった先進的なデジタル技術を活用できないことで、グローバルな競争において遅れを取るリスクが高まっています。

結論:デジタル化の限界を理解し、持続可能な未来を築くために

 デジタル化は多くの利便性をもたらしましたが、その一方で、解決されていない問題や新たなリスクも生んでいます。デジタル化が進む中で、私たちはその限界を正しく理解し、課題に向き合う必要があります。特に、情報倫理、環境問題、セキュリティリスク、そして日本のDXの遅れといった問題は、今後のデジタル化の進展において解決すべき重要な課題です。

 これらの問題に対処するためには、逆説的な発想が求められます。デジタル化の限界を認識し、それを乗り越えるための新たなアプローチを模索することが、持続可能な未来を築くための鍵となるでしょう。デジタル技術は決して万能ではありませんが、その限界を理解し、逆境を乗り越えるための努力が必要です。私たちは、デジタル化の光と影の両方に目を向け、より良い社会を築くための道を歩んでいく必要があります。特にデジタル負債国の日本にとっては、GAFAMでさえ解決できていないネガティブな側面に焦点を当て、その解決策を提供することが、最大の商機となるでしょう。

武智倫太郎

#デジタルで変わったこと #GX #DX

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?