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てれび

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名優 錦戸亮の帰還。

名優 錦戸亮の帰還。

 名優・錦戸亮が還ってきた。
 映画『羊の木』の吉田大八監督との再タッグ「No Return」(2020年。Amazon Music Originalの15分短編。Amazon Prime Videoで視聴可能)では堂々たる映画スタアぶりを発揮していたものの、長尺の映像フィクションはここ4年ご無沙汰だった。
 現在、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(NHK)が放映中。そして

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コロナ以後、生活の質量。「きのう何食べた? season2」

コロナ以後、生活の質量。「きのう何食べた? season2」

「きのう何食べた?season2」は、season2というより、「正月スペシャル2020」のその後であり、さらに翌年の『劇場版』のアフターとして作られている。誠実にして切実なものづくりと呼ぶしかない。

よしながふみの原作漫画に最大限に敬意を表しつつ、西島秀俊と内野聖陽がリアライズする実写ならでは作劇とコーディネートを追求した良質な連続ドラマが最初に世に出たのは2019年春。まだ、コロナの影も形も

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割り算のドラマ「だが、情熱はある」

割り算のドラマ「だが、情熱はある」

 オードリーの若林正恭。南海キャンディーズの山里亮太。漫才師の枠を超え、ソロでの活躍も顕著な二人は、「たりないふたり」としてテレビ番組内でコンビを組んでいたことがある。

 両者それぞれの、芸人未満だった時代から「たりないふたり」解散ライブまでを描く。第3話までは、セパレートされたドラマが交錯されたかたちで紡がれた。

 いずれも多芸で、文筆家でもある。そのためエピソードには事欠かない。報われない

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丁寧に生きても、上手くいかないことはある。「夕暮れに、手をつなぐ」の真実。

丁寧に生きても、上手くいかないことはある。「夕暮れに、手をつなぐ」の真実。

 丁寧に生きても、上手くいかないことはある。

 「夕暮れに、手をつなぐ」は、この真実を、深刻ぶらずに、人肌のぬくもりで紡いでいるドラマである。とりあえず第三話までは、そのように描かれている。今後、変わっていく可能性はあるが、生きるということの残酷さに、決して残酷には映らない筆致で迫っていく肌ざわりは、おそらくキープされるだろう。

 学生時代から付き合っていた婚約者にフラれた九州育ちの女性と、東

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相田冬二賞2023審査委員長特別賞「錦戸亮」ステイトメント

相田冬二賞2023審査委員長特別賞「錦戸亮」ステイトメント

相田冬二賞は、わたくしの独断で決定されていると思われがちですが、そんなことはありません。大晦日当日ギリギリまで、審査員たちの厳格で徹底的な合議が行われ、時には殴りあいにまで発展することもあります。もちろん、わたしも審議に参加していますが、誰が受賞するか、12月31日の発表直前まで、ほんとうにわからないのです。

「審査委員長特別賞」は、あらかじめ候補者を明示することなく、わたくしの独断で決めること

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北の街の佐藤健。

北の街の佐藤健。

北の街の佐藤健。

 「First Love 初恋」の佐藤健は、かつて【赤族】だった男を演じている。

 佐藤健が木戸大聖だった頃の描写に顕著だが、あの家族は【赤族】なのだ。やけに赤いものばかりを着ているだけでなく、属性が【赤】。かなしい出来事もあったし、それは抱えつづけなければいけないことだが、だからこそ家族は明るく熱い。

 彼女は【青族】である。

 彼が彼女を見そめたのは、彼女が愛している

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夕暮れに、手をつなぐ。sideパリ

夕暮れに、手をつなぐ。sideパリ

映画には、ものすごく悲しいシーンに、あえて明るい曲を流す手法がある。
「夕暮れに、手をつなぐ」のハッピーエンド(と呼ばれているもの)は、闇に添えられた副菜や薬味である。

皮肉や悪意ではなく、それが人生だよ、と突きつけてくる。でも生きていかなきゃいけないんだよと。

だれもがルーザー。

あまりに悲痛な一篇の映画を観ているようだ。

比較する必要などないが、「100万回言えばよかった」は人が死に、

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夕暮れに、手をつなぐ。side音

夕暮れに、手をつなぐ。side音

音を謎の人物として捉えると、このドラマの位相は大きく変わってくる。

音は積極性に欠ける人物として描かれていた。どこか受け身で、だからセイラの存在も受け入れた。
創作に対しては頑固かもしれないが、彼は誰に対しても優しい。セイラにも。磯部真紀子にも。響子には従順で爽介には憧れていた。だが、それは本当の優しさなのだろうか。

状況が滞りなく進むことを何よりも優先しているように思える。すべてを肯定するの

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夕暮れに、手をつなぐ。side空豆

夕暮れに、手をつなぐ。side空豆

夕暮れに、手をつなぐ。

複雑で、ビターな味わいの幕切れだった。

空豆と音が積み重ねてきた轍をおもえば、ふたりは結局、ピークで結ばれることはなかったのだと気づかされる。

まわり道、ではなく、喪失。それを受け入れることで、二人は一気に老けこんでしまった。

ラストカットの空豆と音は、もはや老後。

すれ違いの代償は、邂逅のときめきをもってしても、どうにもならなかった。

お互いの諦めの上に、今が

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初めて平野紫耀を見た日と翌日のメモ。

初めて平野紫耀を見た日と翌日のメモ。

「クロサギ」。第1話だけ観た。
わたしは平野紫耀に一切の先入観がない。なので直裁に語るが、かなり変わった役者で、そこが面白い。声も芝居もファニーで、二枚目じゃない。役柄的にメリハリはあるが、ダークネスもかなり浅漬け。

オリジナル「クロサギ」を演じた山下智久とは全くタイプが違う。ジャニーズの中でも異形。スタア性はほぼ封じられていて、演技アプローチはバイプレイヤー的、さらに言えば芸人が起用された時の

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オッドタクシーは世界を冷笑しない。世界とbuddyになろうとしている。

オッドタクシーは世界を冷笑しない。世界とbuddyになろうとしている。

オッドタクシーのキャラクターたちが希求している関係性はbuddyもしくはpartnerである。小戸川を中心に、ドブ、剛力、柿花、山本、そして白川。ヤノは関口、ドブ、二階堂にとっての山本、馬場。柴垣をめぐる馬場、長嶋。
黒田、タエ子、今井、樺沢、呑楽は不特定多数のセカイと相棒になろうとしてる。

わたしたちがこの素晴らしきアニメーションに親近感をおぼえるのは、動物キャラによるものではなく、単一の関係

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無邪気で、用意周到で、屈託がなく、抜け目なく、あからさまで、謎めいている。「クロサギ」の平野紫耀について。

無邪気で、用意周到で、屈託がなく、抜け目なく、あからさまで、謎めいている。「クロサギ」の平野紫耀について。

「クロサギ」。2006年の人気作(山下智久主演)のリメイクだ。
父親が詐欺に遭い、一家心中に追い詰められ、九死に一生を得た少年が成長、シロサギ(詐欺師)を騙すクロサギとして、復讐の詐欺を繰り広げていく。
詐欺師のみを標的にする策略の痛快さ。一方で、家族を壊滅させた男たちを追い詰めていく主人公の絶望的リベンジが凝視される。
軽やかさの底辺に激情が仕舞い込まれた物語には、普遍性がある。詐欺の手口は年々

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紅白直後の平野紫耀のsignから、キンプリという現代とmessageを考える。

紅白直後の平野紫耀のsignから、キンプリという現代とmessageを考える。

紅白では、歌詞をまったく見てなくて、彼らのダンスに集中していた。吸い寄せられ、ダンスの渦のなかにいるような(かごめかごめ遊びの真ん中にいるような)感覚だった。

正直、ichibanというタイトルを忘れていた。

NHK紅白の公式twitterに、ビハインドとして、本番直後のキンプリの姿がおさめられている。

あそこで平野紫耀は、テレビカメラに向かって(わざわざ手を組みかえて)“いちば〜ん”とメッ

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平野紫耀とは【まえぶれ=前兆】のことである。2022年最高の映像体験「クロサギ」最終回の一瞬について。

平野紫耀とは【まえぶれ=前兆】のことである。2022年最高の映像体験「クロサギ」最終回の一瞬について。

最終回。31分。

佐々木蔵之介「わたしも殺しますか」

そのあと、平野紫耀は食事を終え、ナイフとフォークが皿に当たる音がする。

佐々木の台詞と、あの音のあいだに、平野が醸造した【沈黙】がはさみこまれるのだが、あのときの彼の左(向かって右)の口元の微かなひきつりが、とにかく豊穣だった。

じっと凝視しないとわからないくらいの、ひきつり。だが、わたしたちは確実に凝視する。なぜなら、彼の【沈黙】が吸

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