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北の街の佐藤健。

北の街の佐藤健。


 「First Love 初恋」の佐藤健は、かつて【赤族】だった男を演じている。

 佐藤健が木戸大聖だった頃の描写に顕著だが、あの家族は【赤族】なのだ。やけに赤いものばかりを着ているだけでなく、属性が【赤】。かなしい出来事もあったし、それは抱えつづけなければいけないことだが、だからこそ家族は明るく熱い。

 彼女は【青族】である。

 彼が彼女を見そめたのは、彼女が愛しているブルーの色調に反応したからだった。ひとめぼれは相貌に対してのみなされるわけではなく、着ているもの、着ているものから推測される内面のようなものに惹かれるということは十分にありえる。なんなら、そのほうが純粋だし、何より本能的だ。

 顔ではなく、色。

 だから、これは【赤】の少年と【青】の少女が出逢う物語であり、少年が【青化】していく物語でもある。

 自衛官になり、空をめざすのは偶然ではない。このドラマには宇宙のイメージもインサートされるが、もちろん【青】の象徴である。

 しかし、【青化】した後、夢破れて、恋も将来も見失なう。しかし、もう【赤】には戻れない。

 佐藤健が演じているのは、【元・赤】であり、だが【現・青】とも言い切れない、宙ぶらりんな男である。

 彼にはもう、彼女も、空も、ない。だが、【青】から脱することもできず、【青】への未練がある。

 もう【青】ではなくなりかけているが、【青】の残骸とともに生きるように、佐藤健は演じている。

 つまり、外面が【青】なのではなく、内側に【青】を内包している人物。この微妙な塩梅を、佐藤健は彼ならではの未決定の情緒で体現している。だから、沁みる。

 満島ひかりは、いまもきっぱりブルーを愛している。

 彼女はタクシー運転手。彼は夜警。両者の仕事は似ているようで、仕事の取り組みはまるで違う。これが【真性・青族】と【元・赤族】の違いでもある。

 だが、だからこそ、ふたりは恋におちることができるのだ。

 ふたりをつなぐキーアイテム、ナポリタンは【赤】の象徴である。【赤族】の少年は当然のように、好きな食べ物はナポリタンと即答する。

 満島ひかりは、その記憶を失っていたが、ナポリタンを通して、佐藤健とコンタクトをとる。無意識の中に【赤】の少年は存在していたからである。

 満島ひかりは、明確な喪失を表現する。

 佐藤健は、忘れられないという淡さを伝える。

 この俳優は、人物の状態を寡黙なグラデーションに託す。だから、北が似合う。

 フィルモグラフィを振り返ると、彼が【寒色】の演じ手であることがよくわかる。

 寒々しいわけではない。凍てついているわけでもない。

 だが、多くを語らず、少しゆったりした動きから醸し出されるムードとニュアンスは、夜の訪れがはやく、朝の来訪もちょっぴりはやい北の街に、しっくりくる。

 空を飛ぶってどんな感じですか?

 そう訊かれて瞳を閉じたとき、佐藤健は【青】に回帰する。役をこえて、彼のふるさと【青】にさとがえりする。

 【青】生まれ。

 それが佐藤健であることを、わたしたちは知っている。だから、なつかしい。

 初恋を描いているからなつかしいのではなく、佐藤健が【青】にかえっていくから、なつかしさをおぼえる。

 【元・赤】だからこその憂いも、そこにはある。そう、【青】は憂いの色でもあったことを、わたしたちはおもいだす。

 close your eyes.

 【青】の記憶、佐藤健。


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