見出し画像

『空飛ぶ円盤と平和的帰結』/掌編小説

平べったい円盤状の未確認飛行物体の目撃が相次いでいた。

時間帯はバラバラ。
明け方の空に、太陽の眩しい正午ごろに、夕方の西空に、朝刊配達の奨学生が、屋上でお弁当を食べる高校生が、公園帰りの親子が、円盤の写真を次々とSNSへ投稿した。
目撃情報は1日に300件を超え、前代未聞のUFOフィーバーだった。
近ごろはなりを潜めていたテレビのUFO番組も趨勢を取り戻し、動画投稿サイトやSNSから拾い集めた情報を全国のお茶の間へ拡散した。

円盤の正体は?円盤の目的は?政府の対応は?ニュースコメンテーターの芸人や社会学者、元政治家、アイドルたちがありとあらゆる言説を喋り散らす。宇宙人か未来人か?善いものか悪いものか?攻撃しないのか?遺憾表明は?UFOゴシップによって、日本中が熱気を取り戻していた。

銀河系の遥かすみっこに点としてある青い惑星。そんな小さな存在が注目されたのは生息する生物の多さからだった。
円盤の存在にとって最も必要なものは生命の発するエネルギーであった。あらゆるものを創りだし、光速を超えうる存在もこればかりは創ることができなかった。
彼らはいくつもの銀河系を巡りエネルギーを根こそぎ手に入れてきたが、このちっぽけな青い惑星で起きたことは想定外の新たな現象だった。

すぐに滅ぼすのだから発見されても問題ないとまずは偵察に来たが、そこで彼らは奇妙なきらきらとしたエネルギーを浴びた。
人々がUFOに向ける純粋な好奇心、驚きと発見、鼓動の高鳴り、きゅんと締め付けられる恋心にも似た心の動き、それは混じりけのない純真エネルギーだった。

彼らはなぜこの惑星の生命体が未知のエネルギーを発するのか理由はわからなかったが、これを利用しない手はなかった。彼らは直ちに計画を練り直し、エネルギーを効率的に収集するためあらゆる趣向を凝らし始めた。ピカピカと光ってみたり途中でふっと消失したり、空にスモークでハートを描いてみたり。
一番人気の演目は円盤5体によるアクロバティック飛行。
人々は大喜びで喝采を送った。


この記事が参加している募集

宇宙SF

よろしければサポートをお願いします!日々の創作活動や生活の糧にさせていただきます。