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Brexit後のイギリス社会の重層化と均質化のなかを家族は泳ぎ続ける!ブレイディみかこ著「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2」

こんにちは、aicafeです。
40代、人生時計で14:00頃に差し掛かったところです。
これからの人生の午後の時間の過ごし方を模索中です。

ブレイディみかこ著「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2」を読みました。

今更ながらなのですが…
本書の「1巻」である「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」は、2019年に発売した直後にすぐに手に取りました。
イギリスという、わが家にも多少縁のある国で日本人の母が男子育てする話であるということ、音楽好きな母ちゃんだということ、息子の年代が近いこと、などから勝手にシンパシーを持って読み耽ったものです。
息子さんの瑞々しい感性で切り取られるイギリス現代社会を描くエッセイであり上質なルポルタージュ。読後の充実感は代え難いものがありました。

それから2年後の2021年に発売されていた本書ですが、手に取る機会なく時間が経ってしまっていました。
なんとなく、「2」って、手に取りにくいですよね。「1」がよかったら尚のことです。

ではなぜ、今回手に取ることになったかというと、夫が買ってきたからです。
夫が、息子の春休みの課題図書に選んだのが、
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」と
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2」だったのです。

広島旅行の合間に、わたしはこの本を貪るように読んでおりました。
息子も「1」と「2」を一気に読んでいたようです。
今回も、イギリス社会の混迷ぶり階級意識の濃淡多様性の包摂ジェントリフィケーションの進行など、本当に、本当に、考えさせられることばかりで読み終えてなお脳内興奮が冷めやらぬ広島の夜でありました。

ブレイディみかこさんのイギリス社会に向けるまなざしは鋭敏で、フラットです。彼女が「底辺託児所(と称されていた英国の平均収入・失業率・疾病率が最悪の地区にある無料託児所)」で保育士として働いた経験所以かと思います。読んでいて、迫力があるし、希望も絶望もそのまま感じられる臨場感があります。

フリーランスで働くことを想定したGCSEのビジネスソサエティの授業、ノンバイナリーの教員、国語のスピーチの課題で摂食障害やドラッグやLGBTQについて取り上げる生徒たち、住み慣れた街が少しずつ異質に変化していく様相。いずれも、遠い社会の出来事ではなく、「わかる」と実感できるのです。

著者の「師匠」と同じ「導く(LEAD)ということは、前から引っ張るということだけではなく、ときには一番後ろに立ち、後部が離れてしまわないように押し上げる(PUSH UP)こと」という意識が息子の中に芽生えていることを知った著者が、「教育とは、教え導くことではなく授けることであり、授けられ、そして委ねられることなのかもしれない」と思う場面。
「雇用も生活の安定も奪われた希望なき現代の労働者階級の家庭」のティムが、GCSEなんて関係ない、とその他の子供たちとその家庭が次年度に向けて準備をするためにバンド練習にこれなかったことを責め、それに同調する息子さんの拗れていく人間関係。
どれも胸に迫るものがあります。

近くの図書館の跡地にシェルターを建てるか否かという問題で揺れるご近所コミュニティについて、スピーチ課題に取り上げた息子さんが「社会を信じられるか」という問題に昇華していくところには、感嘆してしまいます。

また、地域で評判の高い”いいカトリックの小学校”に通っていたところを著者である母親の勧めで今の”多様性の高い”中学校に入った息子さんが、「いまの学校にしてよかったか」と問われて「わからない」と答えるところもいい。母親目線で読むわたしには、ぎゅっと胸を掴まれるような気持ちになります。
「でも、ライフって、そんなものでしょ」
そう言った息子さんがギターで奏でるビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」を真似た曲を階下で聴く著者。読者も一緒に息子さんの成長の喜びと一抹の寂しさをかみしめます。

今回は父親の登場が多かったのも印象的でした。
ティーンの男子の心の成長に、「労働者階級」の父親の存在がいかに関わるのか。それが実にコミュニケーションを豊かにし、深みと現実味を与えていて、大変興味深かったです。

この「2」では、2019年当時の日々が綴られていますが、今やそれから5年が経過しています。この「2」の帯には「『一生モノの課題図書』、ついに完結。」とあります。
ファンとしてはさらなる続編を読みたい気もしますが、この息子さんの思春期間近ならではの透明感のある感性と、それに寄り添い対峙する母だからこその物語だとも思うので、これは「2」で完結でよいのだなとも思いました。

この息子さんならば、今頃立派なGCSEの結果を引っ提げてA levelを戦い抜いていることかと思います。
うーん、やっぱりその辺も、知りたいかな!!

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