第9夜😺大人5人の家にネコが来た！　先代マレスケ物語②

相棒たちとの暮らし方

相棒たちとの暮らし方

我が家の家族構成はちょっとユニークで、母方の祖母の妹さんと一緒に暮らしていました。
今の私と同じ独身者（どくしん・もの）で、我が家では“おばあちゃん”と呼ばずに、苗字、又は”与志（よし）さん”と名前で呼んでいました。

与志（よし）さんとマレスケ

　与志さんは、結婚して間もない嫁ぎ先で夫の戦死通知を受け取りました。そして、こどもが居なかったこともあり嫁ぎ先を出て、住み込みで働ける場所を探す事になりました。

　ある日、求人広告に出ていた住込みで専門の資格も取れるという好条件の勤め先を見つけました。それは、東京の大学病院に勤める看護師の募集です。与志さんは夜学に通いながら看護師となり、放射線科の師長となって定年退職するまでその大学病院で生活をする事となりました。２交代制の勤務だったからでしょう。定年までずっと病院の寮で生活をしていました。そして与志さんは、東京大空襲もその病院で経験しました。

大人しかいない世界で生活していた与志さんは、子どもの扱いは得意ではありませんでした。むしろ、どう付き合ったらよいかもわからずで、苦手でした。

　私の母が高校生の時に、その母親から「将来、“妹の養女”になって一緒に暮らしてほしい」と告げられました。　この『養女』とう言葉は母を長い間とても苦しめました。自分が実の母親から捨てられたと思い込んでしまった母は、母親の妹に当たる”与志さん”を快く思う事など出来なくなってしまいました。
　客観的に考えれば母が養女にと言われた事は、なんら特別な事でもありませんでした。
長男は実家を継ぐ、長女は既に嫁いでいる。残っている子どもが母ひとりだった。ただ、それだけの事でした。

　しかし、母が戸籍上の『養女』になろうと決意したのは、与志さんが定年退職を迎え、いよいよ同居が始まるという時でした。母は、既に結婚をしていて２人の娘を生んでいました。丁度、私が小学校１年になった春のことでした。

　この頃の法律で、母が与志さんの『養女』になる条件は父が婿養子になる必要がありました。これは社会的な問題にもなっていて、近々改正すると噂されていたそうです。このため、それぞれの別の苗字で家族と成れるまで、『養女問題』は延期となりました。
　そして、晴れて２人が養女・養母の関係になったのは、同居が始まってから８年も経っていました。戸籍上の家族になってから、与志さんのようすが急に穏やかになった事を今でも強く覚えています。

　しかし、母のわだかまりは直ぐに消えませんでした。与志さんが100才で亡くなる数年前までずっと、心の中でふつふつと「実の母親に捨てられ自分は養女になった」という思いは続いていました。

　そんなユニークな家庭の状況と、母と与志さんとの距離感をマレスケよく察知していました。

　仕事が休みの日の夕飯は、与志さんも含め家族全員で同じテーブルを囲みます。　マレスケは、夕飯が食べ終わる7:45頃になると与志さんが座る椅子の下へ移動し、お尻をちょいちょいと叩きます。「あら、また来たよ。そろそろ、時間かい？」と、嬉しそうに食事を終わりにする与志さん。
　マレスケは、この時間になると与志さんに部屋へ帰ろうと、促します。8時から時代劇が始まることもあって、与志さんはいそいそとマレスケを先頭に部屋へ戻っていきます。マレスケは部屋で与志さんから“カワハギ”をもらい食べ終わると、また食堂に戻って来ます。

　そして、今度は母の膝の上に飛び乗り、手を折るマレスケ。

　与志さんが部屋に戻ると、「あぁ~、やっと行った」と、何故かひとこと悪態をついてしまう母。

　母にとって、自分の苦手なヒトを部屋へ連れて行き、その後、直ぐに戻って自分に甘えるマレスケは、とてもかわいく。そして、自分を守ってくれる味方でもあり、よき理解者でもありました。

与志さんと母の２人を満足させ、更に自分もご褒美のカワハギをもらうマレスケ。その姿に、いつも２人の間を取り繕う父からは「猫は調子がいいなぁ」と、おカブを取られたとでも言うような、やっかみ声が入ります。

私と妹は、そんなマレスケの姿をみて「あの調子のよさは、まるで亡くなった祖父がマレスケの中に入っているようだね」と、よく笑って話していました。

母とマレスケ

　マレスケは、昼寝をしている母のお腹の上でよく寝ていました。
不安定なお腹の上で呼吸と共に上下しながら気持ちよさそうに手を折って寝るマレスケ。その姿は幸せそうでいて、とてもシュールな絵ずらです。

　ねこのグルグル音は体の調子をよくする効果があるそうです。
お腹の上に乗るのは、母にだけでした。もしかすると、母の体調が悪かったのを直していたのかもしれません。

父とマレスケ

「猫を飼うなら、私が出て行く！」と、ネコを飼う事を大袈裟に拒んでいたと父は、いつの間にかマレスケとは付かず離れずのよい距離感になっていました。

　ある冬の事。父が石油ストーブの近くで横たわり暖を取るマレスケに向かい「馬鹿だぁ~、こうすればもっと暖かいんだよ」と言うと、いきなりよつんばいになってマレスケに向かい「ニャーニャー」と言いながら、石油ストーブの周りを囲む災害予防用の柵に手を掛けて、お腹をストーブに向ける動作を見せました。　そして、次に「ニャーニャー」と云いながらマレスケの前足をつかみ、柵の上部を前足でつかませ、お腹をストーブに向けます。

そう、父は体を温めるためにお腹をストーブに向ける方法を「ニャーニャー」といいながらマレスケに目の前で実践して教えていたのでした。

「猫の言葉が分かるんですか？」と尋ねると。
「やっぱり、コミュニケーションは猫語じゃないとね」と、サラリと当たり前にように返えす父。
「へ~」と、こちらも驚いた気持ちを平然と装うように、低く、そして深く頷き返しました。

マレスケは直ぐにそれを覚え、ヒトのような立ち姿で暖を取るようになりました。

父は誰かしら来るたびに、「ネコはバカだから、私が教えてやったんだ」と、マレスケが立ってお腹を温める姿を、変な上から目線で自慢げに語っていました。

マレスケが連れて来たともだち猫

　またある時、見知らぬ赤茶の大型猫が家の中でマレスケのご飯を食べている時がありました。

　マレスケは網戸を開ける事が出来たので、外から友人を連れて来たのかと思いきや。しかし、どう見ても餌をカツアゲされている。そんな雰囲気です。

　赤茶色の猫がマレスケのエサ皿でカリカリを食べる姿を、少し距離をおいて背中を丸めてそれを見つめるマレスケ。
「マレ、お友達つれてきたの？」と尋ねると　知らなぁ~いとばかりに目を背けるマレスケ。
ヒトの言葉が聞こえても平然としている赤茶は、食べ終えるとそのままサァ～っと外へ走り去って行きました。友達ネコがご飯を食べに来たのは、そのとき、1度だけです。

　そして、いつも勇ましく顔にケンカ跡の引っかき傷を残すマレスケが、気まずそうにした姿を見たのも、その時だけでした。

マレスケ先生

イメージAI画像

　マレスケは、私と妹には教育熱心で、何かあると直ぐに指を甘噛みします。私たちは、『マレスケ先生の教育的指導』と呼んでいました。

マレスケ先生は、何がよい事で、何が悪い事か？を私達にいつも示します。

　例えば、口論をしている私と妹の間に入り、正論な方に向かって「もうやめ止めとけ」とばかりに一喝します。更に、口論が激しくなっていると、正論をいう方の胸元に飛び乗って来たり、足を噛んできたりしました。
　家族の中では、マレスケに怒られなかった方が『負け』という判断になっていました。マレスケは、争いごとの終わらせ方、そして引き際を私たちに教育していました。

　また、“ネコは挨拶変わりに、ヒトの指を甘噛みするもの”だと誤解するほど、何かにつけて私たちの指を噛み、コミュニケーションを取っていました。マレスケの意に介さず従わないと甘噛みは徐々に強くなって行くという教育的指導方法でもありました。

　マレスケは起床時間を伝えておくと起こしに来る猫で、目覚ましが鳴る頃に足の指を甘噛みして起こしにやって来ます。

　朝、妹が起きてこない時など「起こしてきて」と伝えると2階へ走って行き、起きるまで足の指を甘噛みしていました。その甘噛みの強度は、当然、起きるまで徐々に強くなります。

　余りにも自然に行っていたので、どの猫もやることだと思ったほどでした。

そして、起こすだけではなく、夜中の見回りもマレスケの特性でした。

家族全員が寝ている事を確認した後に、自分の寝床である段ボールの中に入る。これが、マレスケの夜のルーティンでした。

　私がベットに入っていると、マレスケは寝息を確認するように口元に自分の鼻を持ってきます。それが寝息であると彼なりに確認すると、別の部屋へスーッと確認のために移動する。そんな夜回りネコでした。

夜回りがルーティンなので、家族全員が帰って来るまで待っています。

　私が、飲み会で遅くなり、てっぺん(12時）を過ぎて帰宅した夜。

夏の蒸し暑い玄関で1匹、冷たい床で体温を下げるように伸びきった姿で外に顔を向けてマレスケは待っていました。暗い中で、長くの伸びた白い生き物がもさぁ～と動く姿は結構な迫力でした。
キラリと光る軽蔑しているような、眠気と戦っているような目つきも怖いです。そんな姿を目の当たりにすると「ごめんなさい!　もっと早く帰ってきます！」と、謝る以外はありません。
　その夜、私がベッドに入るまで、付かず離れずの距離でマレスケの監視は続きました。

③へ　つづく

23-8-8【相棒猫との暮らし方】第9夜　ゲスト：あん