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秋の物語

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2016年9月の記事一覧

騎士と司祭と壁子爵 2

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 ほんとにあいつバッカじゃないの!?
 メイラは表面上はいつもの穏やかな笑みを浮かべつつ城内の廊下を歩きつつ、内心では荒れ狂う感情を感情のままに荒ぶらせていた。だって表に出さなければ誰の迷惑にもならないし。
 もっとも、そう思っているのは本人だけであり、その荒ぶる感情はメイラの体を突き抜けてその身を覆っており、すれ違う人すれ違う人皆が皆思わず一歩壁際により道を譲る有様だ。
 両親とた

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騎士と司祭と壁子爵

次話

「秋風に吹かれて佇む城の外。思い思うは城の中。後悔すれども入城叶わず」
 秋晴れの空の元、拍子にのせて歌う男がいた。銀髪のその男は、目の前にそびえるようにして佇む鉄扉を見上げる。男の名はテンリ・ノマオシュロナ。目の前にある城に仕える騎士の一人である。

 バンワンソ子爵といえば、爵位こそそれほど高くないが、その治世の様は大陸の端に響き渡るほどの名君で知られている。しかし、子爵領の民たちの子

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辛酸を嘗める

 ここまでの辛酸を嘗めることとなったのは久しぶりだ、と口にも顔にも出さず、心の中で思う。 
 そう思っている間にも、目の前の状況はどんどん悪くなっていく。状況の悪化を知らせるアラームが鳴り響き、味方が慌てふためくのがわかる。
 もっとも、思っている間は状況は好転しない。
 彼は状況を好転させるための一手となる布石を打つ。
 以前状況は変わらず、アラームの音は大きくなるばかりだ。
 味方は慌てて必死

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読書の秋

 秋の夜長のお供にオススメの本です。
 ・・・・・・興味を持ったらあなたの負けです。手に持ってレジへ行きましょう。

 いつもはこない書店の中を歩いていると、目の端でおもしろそうな謳い文句を見つけた。
 平積みされたハードカバーを前に、国嘉は思わず立ち止まってしまう。そこにはまるで挑発するかのような謳い文句が。
 興味を惹かれ、中を検める為に、一冊手にとり・・・・・・その重さに驚いた。というよりも

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食欲の秋

「もう食べられん・・・・・・」
 そう言ってソファに横になるケイジを、椅子の背もたれに体重を預けながらナルセは内心で激しく同意していた。
「あら、もう食べないの?まだまだあるよ?」
 台所から、料理の乗った食べ物を持って出てきたのは、この家の主人であるマコトだ。いつもと変わらない笑顔が、今は恐ろしい。
 
 果物をもらいすぎたから、腐る前に食べに来て欲しいと言われてこの家に来て早2時間。ひたすら皿

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おまじない

「どんぐりころころどこへ行く・・・・・・っと」
 木々が生い茂る森の中で、木漏れ日に照らされながら身軽な格好でシュウは歩いていた。時折立ち止まっては、地面に落ちているどんぐりを拾い、それを真上に投げる。そして、地面に着地した時、先端の尖った部分が向いている方向に進む。シュウがそんなことをしているのは目的があるからだ。シュウは、一度立ち止まると、周りを見渡し、自分の望んだ結果がえらえていないことに落

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トンボ狩り

「ひーでみーつくーん。いーきまーすよー」
 家の外から聞こえる声に、英光は出かける用意をするその手を早めた。
「もうちょっと待って!!」
「英光、もう出るかい?気をつけていってらっしゃい」
「うん。もう行く。大丈夫だよもう慣れたから。暗くなるまでには帰ってくるから」
 土間まで迎えに来た母とそれだけやりとりすると、英光は壁に立てかけてあったものを取って玄関をくぐった。
 家の外では、秋の日差しの中

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秋の1日 another side

 隣の家の方から聞こえる叫び声で浩二は目を覚ました。
 昔は日の出とともに目が覚めていたというのに、最近はめっきり目覚めが悪くなってしまった。それが顕著になったのは、妻を看取ってからか。もっとも、看取る、といえるほどのものでもなかったが。昔のことを思い出し、自重の笑みを口元に浮かべる。
 上体を布団から起こし、カーテンを開ける。そのついでに窓も開ければ、冬の近づきを知らせるかのように少し肌寒い風が

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秋の1日

「おぉ、今年ももうすっかり秋だなぁ」
 ドトウィがつぶやきながら見る先には、窓に立て掛けるようにしておいてある格子がある。その格子には糸瓜のツルが巻き付き、地面に近い所の葉は茶色くなり枯れてしまっているが、格子の中ほどでは立派な糸瓜の実があった。ドトウィの家の秋の風物詩だ。近くに越してきた異国人の家で見、教えてもらったのだが、夏はそれで陽の光を遮ってくれるのでなかなか助かっている。おかげで今年の夏

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秋の庭で

前の話

 カンナが庭の香りを楽しみながら歩いていると、庭にある芙蓉の木の陰から楽しげな鼻歌が聞こえてきた。その鼻歌を歌っている主の心当たりをつけながら、歌い手に気づかれないように芙蓉の陰を覗き込む。
 そこには案の定、しゃがみこみ、芙蓉の根元で雑草を刈っている女性の姿があった。淡い金髪をショートカットにして頭に麦わら帽子をかぶった彼女は、庭仕事をするには向いていない、白いワンピースを着ている。そ

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心細さの裏返し

前の話

「さて、じゃあ今日は山にいくか・・・・・・」
 一時的に雇われている相手が、殴られた腹部をさすりながらそう呟く。男が腹をさすっているのを、殴った当人は冷めた目で見るだけだ。
「いや、なんか言ってよ・・・・・・。周りからしたら一人でなんか言ってる危ない奴に見えるじゃないのよ」
「それ、私がしゃべっても側から見ても変わらないんじゃないの。私、やっぱり普通の通行人には見えないみたいだし。さっき

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台風

 テレビをつけると、どれだけチャンネルを変えても海上の低気圧のことについての話題ばかりだった。朝、芸能人のスキャンダルだけが一日を乗り切る糧となっている彼にとっては非常に嘆かわしいことに。
 諦めてテレビを切り、昨日の残りを朝食とすると、歯磨き洗顔と続け、テレビの音がないだけのルーチンをこなす。身だしなみを整えると、それまで着ていたジャージからスーツに着替えると出勤準備完了だ。
「さて、今日は午後

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穴惑い 続

「邪魔になります」
 そう言って案内されたのは里長の家だ。家に入る男の背後には好奇の視線を向ける姿が多くある。男はその視線を遮るようにして家の扉を閉じた。
「うちの村の子がお世話になりました」
 扉を閉じた男の背に、それまでに生きてきた年月を感じさせる声が響く。聞き手を安心させる不思議な声だ。
「いえ、俺も森にいましたので。あそこであの小僧が穴惑いに柿をぶつけてしまっては俺の命も危なかった。礼を言

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穴惑い

「あんまり山の中歩き回るんじゃないよ?この時期は穴惑いが出るからね」
「わかってるー!!」
 秋。この時期になるとどこの親も子供に言い聞かせる決まり文句を、彼もまた家を出るときに言われる。穴惑い、穴惑い、と大人たちはいうが、それがどのようなものかを聞くと、皆一様に口をモゴモゴとさせるばかりで、実際にどのようなものかを具体的に説明してくれたことはない。ただ、近所の婆様が、「恐ろしいものだ。あんたも会

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