おまじない

「どんぐりころころどこへ行く・・・・・・っと」
 木々が生い茂る森の中で、木漏れ日に照らされながら身軽な格好でシュウは歩いていた。時折立ち止まっては、地面に落ちているどんぐりを拾い、それを真上に投げる。そして、地面に着地した時、先端の尖った部分が向いている方向に進む。シュウがそんなことをしているのは目的があるからだ。シュウは、一度立ち止まると、周りを見渡し、自分の望んだ結果がえらえていないことに落胆のため息をついた。

 森の中を、どんぐりの導きだけで進めば異界につながる。
 それが、シュウの周りで最近流行っている噂だ。
 しかし、シュウの住んでいるところは都会であり、近くに森などない。だから誰も本気にすることなく笑い飛ばしていたのだが、シュウはどうしても異界に行きたかった。異界に対する憧れは当然あったが、その憧れよりも学校のある生活が辛いから、という方が強い。
「やっぱり噂は噂か・・・・・・」
 立ち止まり、座り込むシュウ。秋もすっかり深まり、紅葉した葉が地面を彩っている。
「さて・・・・・・帰るか。さすがに森の中で遭難するのはやだなぁ。間違いなく捜索されて迷惑かけるし」
 立ち上がり、周囲を見回す。
「・・・・・・あれ」
 再び周囲を見渡すが、ここがどこか一切わからない。
「・・・・・・はぁ、どうしようっかな・・・・・・」
 ふたたび座り込み、虚空を見つめる。
「もぅいいか。もうちょっと時間が経ってから考えれば」
 しばらくして、母から着信があり、現実に引き戻される。遠くまで来たと思っていたが、電波が届く範囲内にいたのだな、と思うと虚しくなった。もしかしたら電波の届かないところならうまくいくのかもしれないな、と思い、母との通話を切ると、シュウは下山を始めた。

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