辛酸を嘗める

 ここまでの辛酸を嘗めることとなったのは久しぶりだ、と口にも顔にも出さず、心の中で思う。 
 そう思っている間にも、目の前の状況はどんどん悪くなっていく。状況の悪化を知らせるアラームが鳴り響き、味方が慌てふためくのがわかる。
 もっとも、思っている間は状況は好転しない。
 彼は状況を好転させるための一手となる布石を打つ。
 以前状況は変わらず、アラームの音は大きくなるばかりだ。
 味方は慌てて必死の抵抗をしている。彼もそれを傍目に見つつ、味方の行動で少しでも状況が好転することを祈るが、おそらく難しいことも分かっている。
「これで、どうにか・・・・・・!!」
 最後の指令を出し、祈るような気持ちで全体を見回す。
 やがて、アラーム音が治まっていき、やがて完全に部屋に静けさが戻って来る。
 部屋に響くのはPCから響くファンの音のみ。

「今日もどうにか勝てたか」
 椅子の背もたれにもたれかかり、画面を見つつコーヒーを口に含む。
 視線の先、液晶内のリザルト表示では、互いの健闘を称えるギルドメンバーのコメントが次々と流れていく。
 そのコメントを横目に、彼は立ち上がると大きく伸びをする。
 その視線にある物が止まった。
「あ、もう日付変わってたのか・・・・・・」
 壁に掛けてある時計の時刻は早くも日付が変わって長針が2周していた。
「明日も早いし、今日はもう寝るかー」
 椅子に座ることなくPCの電源を落とすと、続けて部屋の電気も落とす。ソファに横になり、目を瞑る。今日の反省点を考えていると、いつの間にか意識は夢の中へ。
 秋の夜長、というが、ゲームをしているとすぐに夜は終わってしまうな、という思いとともに。

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