第76回 007 サンダーボール作戦(1965 英)
007シリーズの製作費は第1作の『ドクター・ノオ』では100万ドル、これが『ロシアより愛をこめて』で200万ドル、『ゴールドフィンガー』で300万ドルと徐々に増えていき、それに伴って派手になっていきます。
第4作『007 サンダーボール作戦』ではこれが一気に900万ドルになり、ドンと派手になりました。
爆撃機を乗っ取って原爆を盗み出したスペクターとボンドがバハマで対決するのですが、何しろバハマなので水中アクションが大胆に取り入れられ、007っぽさが強化されています。
予算が増えたので道具も大掛かりになり、軍の協力も取り付けて豪勢です。サメが印象的に活躍する為ある意味サメ映画とも言えます。
そして、バハマという事は露出度高めであり、バハマはアメリカと目と鼻の先なのでフェリックスとのバディが強調されていて、ホモもノンケも視覚的に大満足です。今風に言えば水着回というわけです。
しかし、この映画のBL的な見どころはサブキャラクターとの絡みにあります。ボンドの股間のサンダーボールが大活躍です。もう一人のボンドガールに刮目下さい。
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真面目に解説
最後の007
男の子好みの大変に格好良いタイトルですが、本作は厳密にはイアン・フレミングの作とは言えません。
映画が大当たりしてご機嫌のフレミングはそれなら自分で映画を作ろうと狙い、ケヴィン・マクローリーとジャック・ウィッティンガムという若手の脚本家に映画向けに書かせ、後からフレミングがノベライズした経緯があります。
このため権利面で揉め、原作は三人の連名になっています。そして、映画化ありきなので派手な脚本です。
結局これがフレミングの書いた最後の007になり、原作のストックを使い果たして今はオリジナル脚本です。そういう観点からは、本作は007シリーズの一つの転換点なのです。
また、007シリーズの外伝である『ネバーセイ・ネバーアゲイン』は本作のリメイクであり、パロディである『オースティン・パワーズ』にもプロットが踏襲されている名作です。
息をのむOP
OPのアブノーマルさは少しトーンダウンし、今回は水中ショーです。ですがシルエットなのでお色気は控えめです。
その代わり主題歌が実に格好良く、下半身ではなく上半身で男の子を狙っていきます。
最初は前作同様シャーリー・バッシーに別の曲を頼む予定でしたが、土壇場になって主題歌とタイトルは同名でという事になり、急ごしらえでトム・ジョーンズに吹き込んでもらったものです。
何しろ急ごしらえだったので伴奏のキーが高かったらしく、ジョーンズはどうにか歌い終わった途端卒倒したという伝説があります。
あの大声とこの根性があればこそあの人は今でも元気なのでしょう。この映画を見た少年はボンドガール水着に欲情するとともに、ジョーンズやボンドや、若山弦蔵のようなイケボになりたいと必ず願ったはずです。
爆弾野郎
本作の筋は案外単純で、スペクターがNATOの爆撃機を乗っ取り、搭載されていた2発の原爆をカタに英国政府に身代金を要求するという物です。
この爆弾の奪還作戦にMI6が付けたコードネームがサンダーボール作戦というわけです。命名したM(バーナード・リー)もやはり男の子だったということなのでしょう。
手口はパイロットの一人を殺して替え玉を送り込み、爆撃機を不時着水させて水中から爆弾を頂戴するという物です。この幕開きからして全面的に海洋アクションで行くと示しているわけです。それに、英国の核兵器は全部海軍が持っています。
水中での撮影はその性質上特殊なノウハウが必要で、これは水中撮影の経験のある連名原作者であるケヴィン・マクローリーの肝煎りによるものです。
水中銃やナイフでのダイバーの水中戦などは思い付きはしても実際撮るのは危険かつ難しいものであり、技術的な観点からもこの作品は高く評価されています。
ボンドの休日
パイロットのダーヴァル少佐(ポール・スタシーノ)を替え玉と取り換えたのがスペクターのナンバー4ことリッペ伯爵(ガイ・ドールマン)で、少佐が保養施設でナンバー12ことフィオナ(ルチアナ・パルッツィ)に誘惑されている間に始末して、少佐そっくりに整形したパイロットを送り込むという方法です。
ところが、この保養施設にたまたまボンド(ショーン・コネリー)が居たのが破綻の元でした。原作では本作は『ロシアより愛をこめて』の続きで、クレッブ大佐の靴ナイフで死にかけたボンドがリハビリをしていたことになっています。
本作ではOP前にフランスでナンバー6ことブヴァール大佐(ボブ・シモンズ)を始末してその帰りという事になっています。シモンズは007シリーズで長くスタントを務めた人で、シリーズに欠かせざる重要人物なのですが、これは後述します。
マッサージ嬢を誑し込んで絶好調のボンドですが、たまたま居合わせたリッペ伯爵を怪しみ、しょうもない殺し合いを展開します。こういうコミカルな要素も007には必要なのです。
ブラック企業スペクター
ブロフェルド(アンソニー・ドーソン=まだ秘密扱い)は相変わらずシャムネコを抱いて威張っています。そして、今後恒例になる幹部を平気で殺すワンマンぶりを発揮し始めるのです。
ボンドとのコミカル暗殺合戦に敗れたリッペ伯爵は早々と粛清され、幹部を並べての収支報告ではナンバー11が横領していると強引に決めつけ、電気椅子になっているソファでその場で処刑します。これでよく反乱が起きないものです。
面白いのはナンバー5が列車強盗の顧問料として25万ポンド儲けたと報告するところです。これは本当に当時のイギリスで起きた事件で、郵便列車から260万ポンドが奪われたという日本で言う三億円事件のような大事件です。
ただし、犯人一味は殆ど捕まり、一人ブラジルに逃げおおせた犯人が事件を語り継いでいた点で異なります。
ローションガール
ボンドガールがコンドームから大きく進歩しているのも見逃せない点です。明らかに今までとは掘り下げ方が違います。
ナンバー12のフィオナからして身体を利用してボンドに接近しようとし、アクション面でも頑張ります。タニアへのセクハラが最大の山場だったクレッブ大佐とは根本的が違うのです。
そして、バハマでボンドの助手を務めるポーラ(マルティーヌ・ベズウィック)は見覚えがあるはずです。『ロシアより愛をこめて』でキャットファイトしていたあのロマ娘です。これなた前回とは打って変わってそれなりに見せ場を作っていきます。
何より、メインヒロインであり、ラルゴの愛人で殺された少佐の妹であるドミノ(クローディーヌ・オージェ)は明らかに従来のメインヒロインとは違った存在です。
ライダーは存在感が希薄、タニアはハッキリ言えば役立たず、ガロアは唐突に現れた便利な女でしたが、本作はドミノの心理描写に多くの尺が割かれ、主演と言いつつ実質助演女優であった従来のメインヒロインとは全く格の違う扱いです。
もっとも、最後は使い捨てであるのはボンドガールである以上避けがたい宿命なのですが。
若頭登場
原爆強奪の首謀者がナンバー2ことエミリオ・ラルゴ(アドルフォ・チェリ)です。イタリアのギャングで、特に説明もなく原作には影も形もなかった眼帯を着けていて実に強そうです。海賊っぽさを演出したかったのでしょう。
アドルフォ・チェリはイタリア人で、英語が喋れたそうですが訛りがあり、声はやっぱり吹替です。しかし、組織犯罪の本場シチリアの生まれでマフィア面なので有無を言わせぬボス感があります。
このラルゴがバハマに持っている仕掛け満載の水中翼船、ディスコ・ヴォランテ号とその周辺海域が主戦場になります。
ラルゴはいかにも悪そうな手下とサメを飼っているプールの付いた別荘も持っていて、怪人抜きでも十分やっていける仕上がった男です。本作はラルゴ自身が怪人のドクター・ノオ方式なのです。
ドミノを火責めと氷責めで拷問する残酷さがポイントです。水着美女にノンケ男が興奮するのはごく自然な事ですが、こいつは今風に言えばリョナです。あくまでもアブノーマルな方向へのサービスを忘れないのが007なのです。
フェリックス頑張る
バハマと言えばアメリカの目と鼻の先にある国です。もっとも、当時はまだ植民地でしたが、今作からカツラになったコネリー同様英国植民地は減る一方の時代です。
頑張って泳げばフロリダという所に原爆が隠されているとなるとアメリカも放っておけません。というわけで、フェリックスが協力します。
今回はリク・ヴァン・ヌッターに役者が代わり、前作より若返りました。しかし、姿が変わってもフェリックスはボンドのアメリカ妻なのです。
今作は特に二人のバディ面が強化され、ボンドのバックアップに大活躍です。従ってBL的には非常に美味しい事になっています。
Q大活躍
本作は予算が増えたので秘密兵器も大幅に増強されています。つまりQ(デスモンド・リュウェリン)が大いに腕を振るったのです。
ブヴァール大佐の暗殺でボンドが逃げるのに使ったのはなんとジェットパックです。理系男子の二番目の見果てぬ夢をQは成し遂げたのです。一番は勿論セクサロイドですが、これは実現が遠そうです。
今回のQはロンドンから離れてバハマまで出張してきます。わざわざとか言いつつアロハシャツでご機嫌なのが萌えます。
水中カメラにガイガーカウンター、信号銃、水中モーターと、今では店で買える物が大半ですので、ボンドはやっぱり真面目に聞きません。
しかし、人間水中では息ができないので、携帯用酸素ボンベは気合が入っています。結局ボンドはQに命を預けるのです。
また、発信機代わりになる放射能カプセルなる危なげな代物も飲ませます。Qは化学にも強いというアピールだったのかもしれませんが、これが役に立った形跡は有りません。
スペクターサイドも絶好調で、ミサイル搭載バイクだの水中戦車だの、男の子が精通しそうな代物を揃えています。
こんな道具を揃えるくらいラルゴは科学に理解のある男なので、原爆の起爆装置を開発するためにクーツ博士(ジョージ・ブラヴダ)なる物理学者を雇っています。この博士が色んな意味でいい仕事をするのですが、詳しい話は後です。
サメ映画?
本作での大きな見せ場はサメによってなされます。なので本作は実質サメ映画です。
ラルゴはサメを別荘のプールで飼っていて、ヘマした部下を食わせて絶好調です。ラルゴは男の夢を体現しています。
海の行く先々にもサメがうようよしていて、サメにボンドがどう対処するかがアクション面での肝になるのです。
特に別荘に潜り込んだボンドがプールの中でサメとすれ違うシーンは有名です。ガラスで仕切ってサメを通したのですが、コネリーはビビって大急ぎでプールを出たという微笑ましいエピソードもあります。
ダイバーが水中銃とナイフで乱闘する気合の入った水中戦闘シーンもありますが、サメがやってきたことで半ば収まってしまうのも面白い所です。サメが怖いのはお互い様なのです。
In the NAVY
本作は英国海空軍、米国海軍に沿岸警備隊の協力を取り付け、男の子を大いに興奮させて募集事務所へ走らせました。
原爆を積んでいたのは英国のバルカン爆撃機で、ラルゴの原爆回収はパラシュートで海面に降りたダイバーに阻止され、ディスコ・ヴォランテ号は軍艦の砲撃で破壊されます。
挙句ボンドとドミノは最後はロープ付きの気球を飛ばし、これを飛行機のフックでひっかけて回収するフルトン回収システムという当時の最新鋭システムで救助されます。CIAの肝煎りで開発された物ですが、よく許可が下りたものです。
とにかくこの映画が世界の海に与えた影響は大きく、直撃世代のダイバーにはこの映画に影響された人が多いとされます。『トップガン』に憧れてパイロットになるよりはいくらか容易なのです。
BL的に解説
ボンド×リッペ伯爵
ボンドとリッペ伯爵の出会いは全くの偶然でした。そこにボンドが居なければこの計画は完璧だったのに。これは神様の引き合わせです。
互いが敵とも知らずマッサージ嬢の取り合いをする二人ですが、リッペ伯爵の腕に「中」という刺青がしてあるのをボンドが発見した事から破綻が始まります。
これはマカオの秘密結社の印だというのでマネーペニー(ロイス・マクスウェル)に電話して確認してもらうボンド。マネーペニーは一番ボンドを思っている女なので休暇中に無茶をしようとしているボンドを慮ります。
しかし、ボンドは「お仕置きがお望みなのかな?」とマネーペニーの子宮を鷲掴みにしに行き、マネーペニーは欲情した挙句OKします。この二人はやはり半端じゃありません。
ところが、ボンドの怪しい動きを察知したリッペが先手を打ちます。髪の毛と反比例して増えたように見える胸毛を見せびらかしてマッサージ嬢に強引にキスした挙句、背骨牽引機なる変な健康器具にかけられたボンド。
背中を伸び縮みさせる往復運動で身動きの取れないボンドを直接殺せばいい物を、伯爵はマシンの速度を最大にする回りくどい方法を取ります。
ヅラも取れる勢いの前後運動で背骨を痛めつけられて悲鳴を上げるボンド。実にホモエロティックです。しかし、マッサージ嬢に運良く助けられ、責任を感じた彼女を口止め料代わりに頂いてしまいます。全くの逆効果だったわけです。
女を食ってすっきりしたボンドは古風な首だけ出すタイプのスチームバスに入っている伯爵を見つけ、閉じ込めて火傷させて一転攻勢に成功します。
リッペはその間に少佐を替え玉にすりかえますが、これをボンドはまたも察知し、警察に通報した為にリッペ伯爵はブロフェルドの怒りに触れます。
帰るボンドを車で追いかけて銃撃戦を仕掛けるリッペ伯爵。ボンドはQ入魂のアストンマーチンに乗っているので応戦しようとしましたが、追いかけて来たフィオナのバイク搭載ミサイルで先んじて始末され、非業の死を遂げます。
リッペ伯爵の失敗は、伯爵もまたボンドに魅せられた男であったことです。スペクターで伯爵なんてホモに決まっています。映画において伯爵と名乗るのは男色家であると言っているに等しいのです。
背骨牽引機にかけられて身動きできないのですからその場で殺してしまえばよかったのです。なのにマシンを全開にしてボンドをヒーヒー言わせるという抗いがたい魅力に負けてしまったのが死を招いたのです。
ボンドに魅せられた男は回りくどくボンドの死を演出しようとして破滅する。リッペ伯爵もそうだったというごく単純な話です。
ボンド×ラルゴ
ラルゴはナンバー2だけあって相当なホモっぷりが見て取れます。バハマとジャマイカはご近所ですし、ドクター・ノオとも浅からぬ関係にあったのでしょう。
第一に、ラルゴはドミノを愛人として連れていますが、それはあくまで作戦のキーマンである少佐を絡めとる為の手段である事が明示されます。
それを証拠に、ラルゴにはドミノの他に女っ気がありません。秘密兵器満載の水中翼船を持ち、サメ用プールを屋敷に構えるような道楽男で、あんなにも男前なくせに愛人は一人とは不自然です。
その反面ガラの悪い手下を大量に従えています。これはどういうことか?そう、彼らが愛人なのです。ラルゴは限りなくホモ寄りのバイであり、ドミノと寝るのは仕事というわけです。
ドミノも夜の生活に大いに不満を持っているうえ、重度のブラコンの気があるので、ストーカー同然に付き纏うボンドに兄の面影を見て露骨に好意を寄せます。
少佐は顔が濃く、お洒落で女好きで度胸があり、ボンドと似ているところがあります。ここからラルゴの行動に説明がつきます。
つまり、ラルゴもドミノ同様ボンドに少佐の面影を見ていたのです。また、ボンドもドミノに少佐の面影を見ているのでしょう。ラルゴもまたボンドに魅せられた男だったわけです。少佐も愛人であったのでしょう。
なのでラルゴはボンドをスペクターの不倶戴天の敵と知りながらドミノといちゃつくのを平然と許し、屋敷を案内して一緒にクレー射撃なんかしちゃってご機嫌です。明らかにドクター・ノオと同じ道を歩いていますが、恋は盲目なのです。眼帯付けてますし。
また、フィオナはラルゴがボンドを抹殺しようとするのはドミノに手を出すからだと思っていましたが、ラルゴはスペクターの仇敵だからだと言い切ります。
そりゃあそうでしょう。ラルゴにとってドミノはコンドームであり、ブロフェルドとボンドへの愛に燃えているのですから。
そんなフィオナなので、ボンドを色仕掛けで消そうとして案外簡単に始末されてしまいます。クレッブ大佐よりは強かったとしても、ボンドガールは使い捨てです。
だとしても、ドミノの扱いは明らかに良くなっています。ボンドは生きていれば良きホモ達になれたであろう少佐を悼み、またブラコンのドミノの為に、少佐の敵であるラルゴを一緒に討とうと持ち掛けて潜入捜査をさせます。
ボンドが隠していた原爆を回収しようとするダイバー集団を襲えば、ドミノはガイガーカウンターを手に船を家探しします。捕まって拷問されるドミノでしたが、クーツ博士の裏切りとボンドの活躍で命を拾います。
ボンドは水中戦に単身挑んで一旦は敗れますが、フェリックスに頼んでダイバー部隊を差し向けてもらって一転攻勢を狙います。サメが乱入してきて大乱戦になりますが、ラルゴは作戦失敗を悟ってボンドと取っ組み合いした末に船に逃げ込みます。
船の後ろ半分を切り離して男の夢のような船で逃げようとするラルゴ。しかし、ボンドと海軍が迫ります。
ブリッジでかわるがわる舵を取りながらの決闘は高度な実質ホモSMです。海と髪の第一人者の若大将もビックリです。
危うくラルゴに撃たれそうになるボンドですが、その後ろからドミノが水中銃で乱入して勝利します。ラルゴはホモである為に敗れたという事です。こうしてスペクター地獄支部兼ボンドに心を掘られた男の会は続々とメンバーが揃っていくのです。
ラルゴ×ヴァルガス
手下がラルゴのハーレムなら、誰が正室なのか。これはノンケでも想像が付くでしょう。一番ヤバそうな右腕のヴァルガス(フィリップ・ロック)です。
ラルゴはボンドを屋敷に招待し、ヴァルガスを酒も煙草も女もやらないと含みたっぷりに紹介します。
こいつは殺しだけが楽しみの危険人物だぞという脅しですが、BL的に見ればヴァルガスはガチホモという解釈になるわけです。
ヴァルガスはドミノの監視役ですが、これもまた意味深です。右腕なので当然と言えばその通りですが、これはラルゴにドミノを盗られる事を恐れているのです。
ハニートラップを仕掛けたフィオナと協力してボンドを抹殺しようとするのもヴァルガスです。ドミノなど殺そうと思えば簡単ですが、ボンドは剛運とフェロモンの化身です。どっちが危険に見えるかは明白です。
フィオナとボンドの痴話喧嘩をつまらなそうに眺めるヴァルガスの表情が彼のガチホモっぷりの証明です。女なんてつまらない物にどうしてラルゴもボンドも執着するのか分からないと言わんばかりです。
フィオナを始末し、沈んだ爆撃機を見つけてドミノと敵討ちを目指していちゃつくボンドを物陰から狙うヴァルガス。しかし、ドミノに見つかってボンドに水中銃で始末されます。
ともすれば、ヴァルガスもラルゴもホモ故に男女の愛という生物学上欠かせざる根源的勘定を過小評価し、その為に敗れたのです。愛に敗れ、愛に殉じたヴァルガスとラルゴは地獄のアダムとアダムとなるのです。
ヴァルガスが死んだと悟って船内を嗅ぎまわるドミノを拷問しようとするのはラルゴもまたヴァルガスを愛していた証拠です。こんな事ならさっさとドミノなんて殺しておけばと思っても後の祭り。ならばヴァルガス好みの方法で生贄にしてやろうというわけです。
そして、他の子分達もまたラルゴの側室であり、そのケツ束は強固です。ラルゴが水中翼船の後ろ半分を切り離して逃げ、置いて行かれた手下たちの行動がそれを裏付けます。
フェリックスの通報で駆けつけた海軍が彼らを砲撃します。投降すれば助かったはずなのに、彼らはそれを良しとせずに無謀な抵抗をし、砲火に消えるのです。
これは日本が世界に誇るガチホモバーサーカー軍団、薩摩武士が関が原で見せた「捨て奸」です。手下たちは愛するラルゴを逃がす為に命を捨てたのです。
結局ラルゴは死にます。ですが、ラルゴとそのハーレムは地獄を薔薇色に染め上げるのです。これでオペラが出来るレベルです。
ボンド×フェリックス
フェリックスがボンドのアメリカ妻である事は散々力説してきましたが、今回はいよいよバディ物の側面が強くなってきます。
ホテルにボンドを殺しに来たラルゴの手下を二人仲良くあしらう姿を御覧ください。フェリックスが部屋に入って来るなり007と呼ばれそうになって慌ててぶん殴って阻止するボンドを御覧ください。二人の間に言葉は必要ないのです。
今回のフェリックスはヘリの操縦が得意で、何かというとボンドと一緒に飛んで偵察と称したデートに行きます。
『ゴールドフィンガー』はナポレオンソロ風だったので、今回は南の島らしく私立探偵マグナム風に行こうというわけです。MI6出身のヒギンズがボンドと知らぬ仲とは思えないですし、初代フェリックスはマクギャレット少佐だったので、このハワイアンスタイルは最適解と言っていいでしょう。
サメのうようよする海に沈められた爆撃機を見つけ、ボンドがフェリックスに銃でパックアップさせながら潜って行くシーンなどは二人の絆を物語るものです。
サメを撃って共食いさせてその隙に済ませようというプランですが、こんな危険な作戦を任せるというのはただ事ではありません。
話が反れますが、昔の日本のある地域のポンプ漁師は、夫が潜って妻が手動ポンプで空気を送るというスタイルが徹底されていました。
これは他人に空気の供給のような大事な役目は任せられないし、また大事な夫の為なら腕も折れんと頑張るだろうという夫婦の絆が前提になった慣習です。
そう、この作戦も構図的には全く同じなのです。アメリカ妻のフェリックスが控えているからこそボンドは潜って行けるのです。
この海に沈む夕日よりも美しく、小田原城より堅固な愛の前には、サメなど板にへばりついたカマボコの欠片に過ぎないのです。
水中戦に敗れて今や観光名所になっているという洞窟に閉じ込められたボンドを沿岸警備隊のヘリで助けるのもフェリックスです。
水中翼船で逃走を図るラルゴに軍艦を差し向けて砲撃するのも相当です。もっと安上がりで高速なヘリで事足りるのですから。
とすればこれはアメリカ妻としての示威行為です。騎兵隊の到着だ!感を出す為の演出に海軍を利用したのです。カウボーイでインディアンで軍人でネイビーとは、ストーンウォールの反乱はフェリックスが指揮したと言われても驚きません。
とすればフルトン回収システムのような最新鋭かつ必要以上の方法でボンドとドミノを救出したのもフェリックスの策略です。
男の子なら一度はあれをやってみたいと思うはずですし、ドミノも所詮は使い捨てられる運命です。とすれば、フェリックスはボンドに未知の快楽を教え込んで自分から離れられないようにしようとしたのです。手ごわいライバルであるQに学んだわけです。
ボンド×M
Mは原爆が奪われたという大事件にあたってヨーロッパ中から総勢9人のダブルオー要員を呼び戻し、会議を執り行います。
最後に着いたのはやっぱりボンド。Mは嫌味を言いますが、そんなボンドがたまらなく可愛いのは言うまでもありません。
ブロフェルドの生音声脅迫テープを息子兼夫達に聞かせ、サンダーボール作戦という若々しい作戦名をぶち上げるM。
考えてみればこの名前は意味深です。原爆二つだからサンダーボール。フレミング日本通なので金玉という単語知ってる説を『ゴールドフィンガー』で提唱しましたが、これが生きてきます。
そう、これはボンドへのサインです。お前の股間のサンダーボールで俺の尻の避雷針を痺れさせてみろと言うわけです。
というわけでボンドは搭乗員のプロフィールの中から、少佐とドミノの兄妹がバハマで撮った写真を見つけ、カナダ行きを命じられながらバハマ行きを志願します。
Mは「海と美人が好きじゃ理由にならんぞ」とホモ特有の可愛いジェラシーを燃やしますが、ボンドは保養所で少佐が死んでいるのを見たと不可解な主張を展開します。
連絡将校は有り得ないと一蹴しますが、Mはなんと「見たと言うなら見たのだ」と言い切ります。Mはボンドを心から信頼しきっているわけです。半端じゃありません。
マネーペニーは例にもよってボンドといちゃつきながらドミノ目当てだと言います。挙句否定するボンドに「ご老体は騙せても」とMをディスっているところを見つかってMに怒られてしまいます。
これはMがマネーペニーを恋敵として恐れているという説の裏付けです。Mは彼女の相対的な若さに醜いジェラシーを燃やしているのです。
首相の使い走りで来た内務大臣(ローランド・カルヴァー)はスペクターの要求する1億ポンドをこの際払おうと及び腰で、Mはこれを露骨に嫌がります。
内務大臣は「期待させるだけさせておいて」とボンドをディスりますが、Mは必死に庇おうとします。しかし、Mはボンドは常に滑り込みで世界の危機を救う事を知っているのです。
何しろイギリスの政治家はブラックジョークとホモセックスの達人なので、MI6はQのハーレムだという嫉妬交じりの悪口くらいは聞こえてくるはずです。とすれば、これは内務大臣を完璧に屈服させる為のマッチポンプです。
結局ボンドは作戦を成功させ、内務大臣は恥をかくことになります。こうしてMは女王陛下でも手出しできない治外法権のハーレムを築き上げたのです。
ボンド×Q
今回のQはロンドンから出てバハマまでアロハシャツで出張してきます。「わざわざ」などと言いつつ嬉しそうなのは、バハマ観光が楽しみなわけではないのが明白です。
伝統の夫婦漫才を披露する二人。携帯酸素ボンベだけはボンドも褒めます。そして、このボンベが最も活躍するのです。
つまり、二人の関係はもはや神に祝福された絶対の物であり、ボンドは説明など聞かなくてもどの道具が自分を助けてくれるか直感で分かるのです。
また、無害と称していても放射能カプセルなどというあからさまに危険そうな代物も、ボンドは当惑しつつも飲みます。
それがボンドのQへの愛の証明だからです。このせいでハゲたという解釈もできますが、そうだとすればQによる策略です。Qはハゲが好きなのです。
そして本作の謎の一つが、このカプセルが役に立った気配がない事です。だとすれば、これは単にQがボンドを試す為に飲ませただけで、実は男にだけ反応する惚れ薬とかだとしても驚く事ではありません。女に反応してマネーペニーとデキちゃうと困るのはM同様承知でしょうし。
とにかく、新ボンドがゲイなら嬉しいと現Qでゲイのベン・ウィショーは言っていますが、それが実現して遂に結ばれるのではないかと思うと私はたまりません。
マネーペニーだって『スカイフォール』で実質ボンドガールになったことで掘り下げられたのですから、同作でデビューしたウィショーQがボンドボーイとして尻を掘り下げられても許されるはずです。Q攻めも勿論大歓迎です。
ボンド×クーツ博士
クーツ博士は原爆の起爆装置を作る為にラルゴに雇われたノーベル賞モノの優秀な科学者ですが、どうでもいい存在のように思われました。
次に姿を現すのは拷問されたポーラの自決を目の当たりにしてドン引くシーンですが、ここに及んでもどうでもいい存在に見えます。
しかし、ドミノをラルゴが拷問するのを目の当たりにしてこの男に強烈なスポットライトが当たります。
残虐極まるラルゴには付いていけないと博士は腹を決め、ドミノを勝手に解放してついでに当局へのとりなしを頼むのです。多少の下心もあったのでしょう。ノンケなら当然です。
そのおかげでドミノはラルゴを自ら殺す事が出来、ボンドも命拾いしました。つまり博士は二人と世界を救った恩人です。
ラストに泳げない博士を放ってボンドとドミノだけで飛んで行ってしまったのは本作最大の笑いどころですが、現実的には博士は後から助けてもらったのでしょう。
当局としてもスペクターの情報を多少持っていて、結果的に助けてもらった博士を悪いようにはしないでしょうから、証人保護プログラムを受けて新しい人生をスタートしたはずです。
そして、ボンドは受けた恩は忘れない男です。カリフォルニアあたりで悠々自適に暮らす博士の所へ押しかけていくのです。
BL的には恩というのは身体で返すと決まっています。ボンドのサンダーボールがうなりを上げ、博士の尻が核爆発します。男の快楽に溺れる博士の脳裏からはドミノの事など消えてしまうのです。
ボンド×ブヴァール大佐
BL的にはOP前にメインディッシュが供されます。ジャック・ブヴァール大佐こそ今回のボンドボーイであり、ボンドガールです。今流行りの男の娘ですよ。
まず第一にホモ抜きで注目して欲しいのは、演じるシモンズが本作のスタントマンである点です。このキャスティングが彼に花道を作ってやる為の計らいであるのは明白です。
コネリーにしたって自分に代わって身体を張るシモンズに恩義を感じていたはずです。だからこそ二人の決闘は壮絶であり、気合が入っています。
明らかに二人の関係は精神的ホモを内在しています。シモンズはコネリーが降りた後も長きにわたってスタントを務めた功労者です。
そんな大事な人物をないがしろにするコネリーではなかったはずです。それを証拠にシモンズの自伝のタイトルは「私の愛したスパイ」という洒落た物です。
フランスの悪徳将校である大佐はMI6のエージェントを2人も殺したボンドの宿敵です。しかし、ボンドが始末するより先に死んでしまいます。その葬式のシーンから本作は始まるのです。
棺のJ.Bというイニシャルがボンドと同じだと現地のエージェントに言われて「まるで自分の葬式だね」とちょっと寂しそうなボンド。自分の手で殺したかったと言いますし、それは事実でしょうが、腐ならばこの時点で色々察してしまいます。
しかし、ボンドは大佐の未亡人が自分で車のドアを開けたのを不審に思い、ボンドの部屋を訪ねて来た未亡人にいきなり殴りかかります。
なんと未亡人の正体は女装した大佐だったのです。そして豪華な家具を破壊しながら壮絶なファイトが展開されます。これぞシモンズの一世一代の心意気です。
大佐は暖炉の火かき棒でボンドに手傷を負わせますが、その火かき棒で逆に首を絞められて息絶えます。
かくしてボンドは敵討ちを果たし、追っ手が来たので逃げるついでに花瓶の花を大佐に投げつけてQ特製のジェットパックで見事にげおおせるのです。
ボンドが敵に花を手向けるというのは今までになかった展開です。それはつまり、大佐が特別な存在であったという事です。
また、この顛末には一つ謎があります。ボンドは大佐が死んだと信じ込んでいたのに、大佐はそのチャンスをフルに活用しなかったのです。
面の割れていない手下に爆弾でもマシンガンでを持たせて教会でぶっ放せば事は済んだのです。なのに女装までして自らボンドを殺しに行った。これは明らかな手抜かりです。
つまり、ボンドがそうしたかったように、大佐も自らボンドを殺したかったのです。大佐もまたボンドに魅せられた男なのです。
今でも厳しいというのに当時は軍人がカミングアウトできる時代ではありません。それを知っているからこそ、本note的に隠れバイであるボンドは大佐の堂に入った女装に「同志」の姿を見て花を手向けたのです。
しかも、投げた花がピンクのチューリップです。花言葉が「愛の芽生え」というのは出来過ぎであり、スタッフがゲイばかりだという説が本当ならこれは狙っていたのでしょう。
ボンドにとってもこの対決は思い出深かったようです。保養所で大佐に火かき棒で殴られた傷をマッサージ嬢に見とがめられて「大佐の奥様にやられた」と言っちゃいます。
これは機密の観点から問題のある行動です。そして「女じゃなかったの」と継いだものですからマッサージ嬢はドン引きです。きっとボンドが大佐の男妾と痴情のもつれで喧嘩を起こしたと思ったのでしょう。
しかし、それで半分正解なのです。そんなボンドに誘惑されてメロメロになってしまうマッサージ嬢。彼女はきっと腐女子です。
ブロフェルド×大佐
ここで大佐がフランス軍人である事にも注目しましょう。フランス軍はワーテルローで英国に敗れましたが、男では負けていません。
フランスはナポレオン法典によって西欧で最初に同性愛を合法化した先進国であり、ナポレオンも両刀だったとも言われています。この時代に至ってもホモのホモ嫌いが同性愛者を去勢していたイギリスとは次元が違います。
つまり、映画評論家や演歌歌手がそうであるとされるように、フランス軍将校団にもナポレオンを頂点とした男のピラミッドがあるのです。40世紀とは言いませんが、男色の歴史が見下ろしているのです。
ナポレオン軍団の強さの根幹は、将校≒貴族という時代にありながら、将校に身分を求めなかった事にあります。平民の兵隊でも勲功で元帥になれるのがナポレオン軍団なのです。
しかし、裕福な名門貴族が有利なのも事実です。ナポレオンからしてコルシカの名ばかり貴族の次男坊で、裕福な貴族との競争を避けて人気の無かった砲兵将校になったのです。
従って将校は常に上官に尻を差し出す覚悟は必要でしょうし、おそらくナポレオンもそうしたのでしょう。そして、歴史は繰り返すのです。長い薔薇色の線です。
また、フランス軍というのは先の大戦で敵味方に分裂して再統合した寄り合い所帯であり、両者には軍隊に限らずフランス社会全体で埋め難い溝があります。
おまけに戦後のフランス軍は植民地の独立戦争で負けまくっているので、今なおこれらの影響でやさぐれた気質があるとされます。
そしてフランス人は役人嫌いです。常に国の言う事の逆を行く民族であり、負けてばかりの軍隊に敬意を払ってくれるかというと甚だ疑問です。
きっと大佐はうっ憤をためていたのでしょう。歯を食いしばって尻の痛みに耐え、密林や砂漠を駆け回ってきたというのに、世間は軍人と同性愛者にあまりに冷たいのです。
気晴らしに女装してハッテン場であるブローニュの森へ男漁りに行った大佐の元に現れたのが、やはり男漁りに来たブロフェルドだったわけです。
スペクターにスカウトされ、必要とされる喜びとメスの快感に打ち震える大佐。ダブルオー要員などなんとするです。愛はしょぼくれ将校をナポレオン兼ジョセフィーヌに変身させたのです。まあ、百日天下だったわけですが。
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