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第80回 資金源強奪(1975 東映)

 さて、11月11日です。ぞろ目なので色々ゴロ合わせは考えられるわけですが、だから『オーシャンズ11』だ、なんて優等生ならこんなレビューはそもそも書きません。

 オーシャンズシリーズは実は『オーシャンと十一人の仲間』というリメイク元があるのは意外に知られていません。東映がこの映画をイメージして作った珍しいクライムサスペンスが、今回紹介する『資金源強奪』です。

 北大路欣也が裏切った古巣の組の賭場を襲って大金を奪い取るという筋ですが、これに加担するのが川谷拓三と室田日出男のピラニアツートップ、更に追いかけるデカに梅宮辰夫、監督が深作欣二で脚本が高田宏治と、ボンクラ映画が好きならこれだけで期待を持たせるメンバーが揃っています。

 当時はコケた映画ですが、ヤクザ映画フリークにはこの作品を評価する向きも多く、脇役の光っていることにかけては当時の東映としてはトップクラスで、隠れた良作です。

 何より、ピラニア軍団の偽らざる精神的ホモがスクリーンからにじみ出てくるのが良いのです。深作欣二は狙っています。

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真面目に解説

ふかさくきんじ
 本作の監督は深作欣二ですが、クレジットはひらがなになっています。

 これはスケジュールや予算が厳しく、おまけにあれこれ上から介入されたので深作が怒り、会社と対立してこうなったのだと言われています。

 当時の東映は待遇が悪いので有名で、労使関係が冷え切っていたのです。深作欣二さえ例外ではないのですから、全く恐ろしい話です。


今やトップのお父さん
 北大路欣也は今では議論の余地なき大御所であり、市川右太衛門の御曹司として東映で非常に優遇されて来ましたが、その実当時は二番手のスターでした。

 右太衛門の息子なので当然時代劇で売り出されたわけですが、時代劇映画は衰退。と言って優等生のイメージがあるのでヤクザ映画には使いにくく、当時の東映ではちょっと冷遇されていたのです。

 何しろこの映画が10年ぶりの主演です。『仁義なき戦い 広島死闘篇』や『ダイナマイトどんどん』のような実質主演やダブル主演は何本かありましたが、それが当時の北大路欣也の評価でした。

 ですが、大御所というのは長生きしなければなれない物です。今や北大路欣也はヤクザ映画黄金時代を彩った最後のスターであり、あとはお客さんの小林旭、一枚下には小林稔侍と片桐竜次が残るくらいです。大御所とはそういうものです。


出所したら大幹部や
 というのは若者を鉄砲玉に使うヤクザの常套句ですが、これが守られたという話は映画でも現実でもほとんど聞きません。

 果たして本作の主人公で、羽田組の若衆である武司(北大路欣也)も反目する組の親分を殺すという大手柄を立てながら、服役中に組同士が手打ちをしたというのでこの約束を反故にされ、挙句女まで盗られてしまいます。

 そんなわけで武司は組に愛想を尽かし、裏切る決意をするのです。

 この冒頭の大立ち回りからして深作欣二全開です。あの無駄にダイナミックなカメラアングルの銃撃戦が無ければ深作作品ではありません。


琵琶湖のピラニア
 ですが、本作の事実上の主演は川谷拓三と室田日出男の二人です。これは北大路欣也当人も認めるところで、そういう無欲さが二番手で居続けた遠因なのかもしれません。

 深作欣二としてもピラニア軍団は可愛いので、小出(室田日出男)と別所(川谷拓三)の間抜けな銀行強盗がピラニアらしく盛大に強盗を失敗するシーンから映画が始まるのです。他の面々も志賀勝以外はあらかた出ています。

 そして二人は武司と獄中で仲良くなり、雄琴温泉で行われる組の賭場を襲撃して金を奪い取り、その金を巡って各勢力が争うというのがこの映画の核です。

 特に丸眼鏡で決めた川谷拓三はベストアクト級で、北大路欣也が負けを認めるのも当然と言えば当然と思わせます。ヤクザ映画はそれ自体が川谷拓三の壮大なサクセスストーリーなのです。


道ならぬ恋が好きな女
 本作の名目上のメインヒロインは武司の情婦の静子(太地喜和子)になります。名目上というのは、全く目立っていないからです。

 武司が懲役に行っている間に組長(阿部徹)に寝取られ、男の間で翻弄される悲哀を…という想定なのでしょうが、そこは深作欣二なので女はコンドームです。

 演技力は流石ですが、役回りが雑な上に脇の女優がいい味出しているので余計に埋没しています。残念です。

 太地喜和子と言えば何と言っても俳優座の看板女優であり、十数年ぶりの東映出演というので話題を狙ったのでしょうが、仕事は選ばないといけないという事なのでしょう。

 そして、太地喜和子は叶わぬ恋と知りながら芸能界最強のゲイと名高い平幹二郎に惚れぬいて全く相手にされないばかりか、突然抱き着いて色情狂呼ばわりされたエピソードがつとに有名です。

 北大路欣也も北大路欣也で、家出はオネエ言葉だとかその類の噂の絶えない男です。つまり、太地喜和子とはそういうキャラクターなのでしょう。


サツに追われん仕事
 賭場荒らしというのは強盗の中でもかなり特殊な形態と言えます。というのも、賭博はそれ自体が違法であり、賭場荒らしを食らっても警察に頼れないのです。

 盃事が行われると花会と称して賭場が開かれるというのも今では法律が厳しくて聞きませんが、リアリティがあります。

 盃事を襲撃するのはヤクザのルール違反なのですが、武司は先んじて揉め事を避ける為にカタギになると宣言しています。東映にしては脚本が緻密です。

 武司たちは首尾よく花会の上りを強奪するのに成功しますが、この後の処理が問題になります。つまり、タイトルである資金源強奪はあくまでジャブなのです。こういう所はやっぱり東映です。


強盗という職業
 当初の見積もりをはるかに上回る3億5千万もの大金を盗んだ一行ですが、強盗というのはこの後が難しいのです。

 第一に、取り分で揉めます。第二に、ほとぼりが冷めるまで盗んだ金は使えない点です。例の三億円の犯人もそうしているという武司の説明が笑わせます。

 別所と小出はあくまでピラニア軍団なので分け前に不満を持ち、ほとぼりが冷めるまでという言いつけを守れません。そのせいで事が大きくなるのです。

 ヤクザも男を売る商売(意味深)なので、泣き寝入りは出来ません。舐められてはいけないのです。

 というわけで、ヤクザはこういう場合は警察に頼らず自前でケリをつけなければいけないのです。


不良巡査部長
 こういう問題に警察を介入させるのはヤクザの恥なのですが、そこは東映のヤクザなので遠慮という物がありません。

 というわけで、ヤクザを射殺して停職中の悪徳刑事、能代(梅宮辰夫)が雇われます。

 能城は辰兄ぃなのでドスケベで、5人目の女房で19歳の洋子(渡辺やよい)にべたべたです。川浜フィフティーンが見たら失望します。大木がきーちゃんに走るのは当たり前です。

 この洋子がお色気担当で、終始薄着でけらけらしながらカメオ出演の松方弘樹と浮気したりとサービスしてくれます。実に健康的なお色気が感じられて良いのです。こんな嫁さんを貰っては蔵間が腰以外の稽古を怠るのは無理からぬ話だと思うのです。

 ですが、能代は流石に辰兄ぃなので優秀で、武司を徐々に追い詰めて実にBLな対決の構図に収まっていくわけです。


鉄火場リアル
 私が個人的に高く買いたいのが、能代が操作に訪れた競艇場の描写です。

 なんと場内の食堂でノミ屋(山城新伍!)が堂々商売をしています。ノミ屋というのは私的に投票券を売る商売で、混んでいて接客が横柄な窓口に行くよりも便利で、ツケや割引と言ったサービスもあるので重宝されていました。

 ですが、今やノミ屋などという物は当局の取り締まりとネット投票の普及で絶滅寸前です。釜ヶ崎や寿町でしか見られない絶滅寸前の商売を記録している貴重な映画です。

 能代がノミ屋を締めあげて急に金回りの良くなった客として別所をマークするというのも、東映らしからぬリアルな捜査風景です。

 そして拓ボンらしく簡単にとっ捕まった別所は殴る蹴るの拷問を受けるのです。これぞ名人芸という奴で、拓ボンはこれで主演俳優の座を掴んだのです。


金は人を狂わせる

 さて、これで簡単に能代がヤクザに与しては話が面白くなりません。洋子にマンションを買って欲しいとねだられているので持ち逃げを狙い始め、勝負は三つ巴に。更に武司サイドも仲間割れして乱戦になります。

 この各勢力が入り乱れながら金を奪い合う様が東映にしては実に手が込んでいて、珍しい物を見た気分と共に感心させてくれるのです。

 特に小出が死んだことで暴走した別所のヤンホモぶりが凄まじく、腐的にはこの映画の最大の見せ場と断言できます。

 ピラニア軍団の友情は本当にヤっていてもおかしくないレベルであって、彼らの後見人である深作欣二とてそれを知っているのでよく分かった作りです。

 しかし、この話はBL的の方に譲ります。


裏メインヒロイン
 さて、長々書きましたが、結局のところ私がこの映画について一番語りたいポイントは裏のメインヒロインが居る点です。

 武司が能代の捜査の目を交わす為に尼崎の駅前で拳銃を突き付けてガールハントした冴子(小泉洋子)がそうです。

 世界一野蛮なナンパです。北大路欣也のキャラではありません。それがお客さんにもわかったからウケなかったのではないでしょうか?

 松方弘樹なら似合うでしょうし、きつーい一発のシーンが入るのでしょう。というより『脱獄広島殺人囚』では本当にやってましたし。

 ですがそこは優等生の北大路欣也なので、能代を交わしたあとはヤるでもなくお詫びに高そうなブローチを買い与えて解放します。

 ところが、金を持って東南アジアへ逃げようとする武司にこの冴子が空港職員として立ちふさがるのです。

 事によっては銃撃戦だと拳銃を握る武司。ところが、冴子は貰ったブローチを撫でて何も言わずに通してくれて、武司は拳銃をゴミ箱に捨てて飛行機に乗り込みます。

 この映画最大の名シーンであり、小泉洋子のベストアクトです。プロデューサーの日下部五朗の愛人だったらしいので優遇してもらえたのでしょう。

 かように東映という所はMetooの巣窟で、女優はバトルヒロインになる以外出世の目が無い実質慰安婦なのです。

 ですが、こういう役を貰えたのは生涯誇れる勲章であり、決して色褪せないのです。隠れた美人女優、小泉洋子に讃辞を贈ろうじゃありませんか。


BL的に解説

能代×武司
 北大路欣也オネエ説を私は信じるので、北大路欣也は総受けです。それに、辰兄ぃが受けというのは例外です。

 カタギに戻ると称して親分に挨拶する武司と、別所をとっ捕まえて届けに来た能代は、初対面から互いに只者ではないと意識しあっています。眼力の強い者同士、目でセックス状態です。

 武司は羽田組に捕まって拷問される別所を殺そうとしますが、能代は逆に金の持ち逃げを狙って別所を買収して逃がし、二人の戦いのゴングが鳴ります。

 ピラニアコンビが悲劇的展開に陥る一方で、二人はホモホモし始めます。そして、武司がコインロッカーに隠した金を能代は奪い取り、羽田組に届けますが、羽田はピンハネしたといちゃもんを付けて礼金を踏み倒します。

 拳銃を手に抵抗する能代ですが、免職になったと知らされて引き下がる事になります。そして家に帰ると武司が。かくして二人は共闘という最高にホモ臭い展開に突入します。

 この方法というのが最高にワイルドで、清元が事務所に乗り込んでおもむろに金を取り、能代が通天閣から事務所を狙撃して援護するという格好良い物です。

 こんなの実質セックスです。下着姿でサービスしてくれた渡辺やよいさえもコンドームになりますし、そりゃあクラウディアも惚れます。アンナには甚だ悪影響だったとも思いますが。

 これだけではありません。武司ときたら北大路欣也の癖にワルを見せ、勝った方が総取りという決闘を持ち掛けます。リドリー・スコットも腰を抜かすホモ臭さです。

 別所も交えて三つ巴の勝負となり、能代は敗れます。しかし、能代は死んだふりをして金に覆いかぶさっていたのです。

 かくしてこの手の映画には珍しく、両者金を掴んで映画はハッピーに終わります。ですが、小泉洋子はコンドームではありません。むしろ彼女の為にこの映画はあるのですから。


小出×別所×小出
 本命はこっちです。ビジュアルはともかく、この崇高な愛が分かればBL的映画鑑賞の免許皆伝です。

 そもそも川谷拓三と室田日出男は酔った勢いで掘って掘られてしていてもおかしくないし、スターさんにケツを掘られたことが無いはずがありません。従って同軸リバです。

 二人は一緒に銀行強盗を働いで失敗して刑務所に入った仲です。BL的にはもうこの時点で獄中でアンコカッパの仲になるのが当然です。

 年長で妻子持ち故に弱気になりがちな小出のオッサン、爆弾製造の技術があるので多分学生運動上がりですが無鉄砲でアホの子の別所。実に尊い凸凹コンビですが、オッサンが妻子持ちというのがポイントです。

 刑務所や軍隊で欲求不満になるのは独身者よりむしろ妻帯者である事は多くの証言があります。つまり、妻の身体を恋しがって身体をうずかせるオッサンに、別所がケツを貸すという展開です。そしてその後はオッサンが貸します。

 なので二人は武司の計画に乗ります。オッサンが妻子をおもんばかって躊躇するのを別所が押したのを忘れないでください。

 別所が催涙弾を作っている最中にオッサンが薬品をひっくり返して誤爆したりと、この二人は終始コミカルで楽しく、夫婦漫才を観ているような気にさせます。現場もそれを楽しんでいたのでしょう。

 能代に捕まって羽田組のピラニア仲間に拷問される別所は、拓ボンの癖に凄まじい粘り強さで決して口を割りません。

 これは銭金の問題ではありません。オッサンの為です。愛は拓ボンを健さんに変身させるのです。

 それだというのに、二人に対してオネエ疑惑持ちの分際で攻め様体制だった武司は別所を暗殺して口を封じようとします。多分二人とも掘ったのでしょう。だとしても、二人の心は互いにあったのが後の行動から明白です。ケツは向いても心は向いていないという事です。

 それを証拠に、別所は能代に助けられるなりオッサンを訪ね、二人で仲良く能代に寝返ります。借金苦のオッサンを必死で説得する別所。例え一人で大金を手に入れられる道があったとしても、オッサン抜きであれば彼は断ったでしょう。二人にとってもはや金は事後に使うティッシュに過ぎません。

 二人は武司に分け前を寄越せと脅迫電話をかけます。二人で頬を寄せ合っている光景は実にキュートです。

 待ち合わせ場所の尼崎駅前の喫茶店で二人待つシーンもまるでデートです。武司などコンドームです。

 しかし、武司は冴子を殺人的ガールハントで捕まえてデートのふりをして能代と二人をかわして逃走します。

 武司と冴子がホテルにしけ込んだすきに武司の車のトランクから二人は金の入ったカバンを奪い取りますが、能代が立ちふさがります。

 ここで別所がなんとオッサンを逃がす為に自ら身体を張ります。苦楽を共にし、共にスターへの階段を上がって来た二人だからこそできる演技です。

 しかし、二人はピラニア軍団なので幸せになれない運命にあります。オッサンは逃げる途中でトラックにはねられて死ぬのです。しかも、鞄の中身は新聞紙。オッサンは犬死です。

 まこと悲しい悲恋物語ですが、ここからが本番です。武司に羽田組が迫り、武司と静子を殺す為に子分が差し向けられます。静子の命乞いは太地喜和子の流石の名演技ですが、これを深作作品で出すのは無駄骨に過ぎないのです。

 武司が抵抗している最中に、なんと別所が殴り込んできます。そして迷うことなく子分の一人(名和宏)を刺し殺すのです。拓ボンがこんなに強い映画を他に見た事がありません。愛の力です。

 武司は一応恩を返すと称して負傷した別所を助けてくれますが、別所はオッサンを殺した武司を許す気は毛頭ありません。完璧にヤンホモ化しています。

 特に騙したら骨が砂利になってもお前を殺すという宣言はまさにホモは文豪としか言いようがありません。三島先生でもこれに思い至るかというと怪しい物です。

 別所の目的はもはや金ではなく、オッサンの敵討ちに変質していたのは明白です。武司がこの際面倒事を増やしてまで分け前をケチる事は考えにくいのに、別所は火炎瓶を作って隠れ家で待ち構え、自分をほったらかして決闘の相談をする武司と能代を襲撃するのです。

 拓ボンが北大路欣也と梅宮辰夫を向こうに回して三つ巴の決闘。そりゃあ北大路欣也も負けを認めます。

 結局別所は敗れ、爆死して果てました。しかし、それで良かったのです。例え金が手に入ったとしても、オッサンの居ない人生など別所には生きる意味がありません。

 言うなれば、この決闘は二人の事実上の心中だったのです。極楽の蓮の葉の上では金など必要ありません。二人の愛さえあれば十分なのです。

 武司も能代も彼を憐れむのも、偽りなき本心だと私は思います。スターではあっても、彼らもピラニア軍団と共に居たのですから。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『暴動島根刑務所』(1975 東映)(★★★★)(ほぼ同じメンツが大暴れ)
『河内のオッサンの唄』(1976 東映)(★★★★)(ピラニア大暴れ)
『ローガン・ラッキー』(2017 米)(★★★★)(姉妹作ならぬ従姉妹作)

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 マンションに一度くらい住みたい

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