第30回 ローガン・ラッキー (2017 米)

 アメリカは広い国です。NYやLAといった大都会と奥地の田舎ではもはや別の国です。アメリカは最高と唱える人が言うアメリカは前者(それも裕福な人だけ)であり、アメリカの嫌いな人の言う戦争と差別とアメフトさえあれば満足な白人が多く住むのが後者です。

 映画に描かれる現代アメリカは前者寄りが多いのですが、今作『ローガン・ラッキー』の舞台であるウェストバージニアは後者に属します。登場人物は皆貧乏で無教養で、戦争とアメフトが深く関わっています。

 黒人差別は露骨に描かれませんがメインキャストは今時珍しく全員白人です。もっとも、ウェストバージニアは黒人が少ないのでおかしい話ではないのですが。

 フットボールのスター選手だったジミー・ローガン(チャニング・テイタム)は大学で負傷して選手生命を失い、土木作業員として働いていましたが、それさえクビになります。

 人生に行き詰まったジミーは弟でイラクで左腕を失ったクライド(アダム・ドライバー)を誘い、作業現場であったレース場から売上金を盗み出そうとするクライムサスペンスです。

 こんなテーマでご存知『オーシャンズ』シリーズのスティーブン・ソダーバーグ監督が作るのです。面白くないはずがないのです。

 そしてソダーバーグ作品がホモ臭くならないはずがないのです。基本的に誰も不幸にならないハッピーで楽しい映画です。

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真面目に解説

ウェストバージニアという土地
 ウェストバージニア州を中心に本作は進みます。日本人の大半はウェストバージニアがアメリカのどこにあるかさえ知らないはずです。

 ノースダコタはアメリカの千葉だとホモしか出てこない漫画で唯一のノンケ(ロリコン)が馬鹿にされていましたが、この理論に基づくとウェストバージニアは高知でしょうか。

 貧乏な田舎ですが山河だけは美いので観光客には人気があり、独立十三州の一つであるバージニア州から、黒人奴隷を必要とするという理由で分離したほどアナーキーな人が住み、歴史の要所要所にやたらと顔を出す、そういう土地です。

 州の歌でもあるジョン・デンバーの『故郷へ帰りたい』も作中印象的に用いられます。私は『耳をすませば』に拒絶反応を示す人種なので、この曲を断じて『カントリーロード』と呼ぶつもりはありません。

 デンバーがこの曲をウェストバージニアに行ったことがないのに作ってしまった事も冒頭でいきなりジミーは娘のセイディ(ファラ・マッケンジー)に赤裸々に話してしまいます。特に高知と縁がないペギー葉山が『南国土佐を後にして』を歌ったのにも符合します。

 その他オールディーズミュージックが効果的に用いられる映画です。私はこういうの大好きです。


フットボーラーの末路
 アメリカンフットボールと筋肉が事実上のアメリカの国教です。従ってフットボーラーは学校で威張りまくっています。特にNFLへ行けるような有望選手なら殺人以外は何をやっても許される特権階級です。たまにいじめた相手に銃で仕返しされるのはご存知の通りです。

 そして彼らはたとえ字が読めなくても奨学金を貰って大学へ行けます。そしてNFLに進んで大活躍すれば大金持ちです。

 しかし、このコースから外れるとどうなるか?地獄です。誰にも相手をされません。NFLで成功したって選手の8割は引退後に破産すると言われています。彼らは蛍と同じです。光る力を失ったら踏みつぶされるばかりです。

 主人公のジミーはスターで、ルイジアナ州立大(去年の全米王者)に進み、NFLで大活躍間違いなしの逸材でしたが、右足を負傷してコースから外れ、妻とも離婚して携帯代さえ払えない貧乏暮らしをしています。

 ジミーは携帯電話を嫌う変わり者ですが基本的には善人であり、作業員としてちゃんと働いてはいるし、離婚はしていますが娘をとても可愛がっており、家族を大切にしています。これさえできないアホが大勢います。

 しかし、足の怪我がネックになり、保険代がかかるからというアメリカンな理由で作業員をクビになります。ここでジミーは本格的な犯罪に手を染める決意をするのです。


紫の車の人
 何しろ『オーシャンズ』の親戚のような作品なので、あらゆるものが伏線になります。クビになったジミーは時間が出来たので、妹のメリー(ライリー・キーオ)の働く美容室にセイディが出るミスコンのリハーサルの送り迎えに行く旨伝えに行きます。

 メリーはカーマニアで、近辺のあらゆる道路事情を知り尽くしています。ライリー・キーオなので、『マッドマックス 怒りのデスロード』でV8の信奉者と良い仲になっちゃったのをオマージュしているのでしょう。

 お客さんのパープルレディは紫が大好きで、ジミーの母校でジャージが紫のルイジアナ州立大も好きです。当然車も紫です。目立っていささか悪趣味ですが、これさえ伏線になります。二回は観ないと本当の面白さが分からない映画です。


チアガールの末路

 フットボーラーが威張っているように、チアガールも威張っています。その実フットボーラーの慰安婦であるのはエロ漫画の読み過ぎとは言い切れない程度にリアルです。

 ジミーの元妻のボビー・ジョー(ケイティ・ホームズ)も直接言及は去れませんがそういう女であったことが示唆されます。しかし、金持ちの亭主と再婚して裕福に暮らしています。アメリカンです。

 もっとも、この映画に根っからの悪人は出てこないので、ボビーもセイディを虐待することもなければ、別れたジミーと付き合う事も許してくれます。

 ジミーが送り迎えの件で謝りに行くと非情に不機嫌です。代わりに送ってくれたメリーはスピード違反をした挙句、警官を"メリー・マジック"と称する色仕掛けで誘惑して誤魔化そうとしたのです。

 娘に悪影響だというわけですが、子供はこういうちょい悪な親類に懐くものです。それに変な宗教を強要するよりはいいのはケイティ・ホームズは元亭主の一件で身をもって知っているはずです。

 一方ボビーの新しい夫であるムーディ(デヴィッド・デンマン)はボビーと比べるといい加減な男で、子供たちに『ワイルドスピード』を見せに行くつもりです。ポスターは似ていますが、今作と違って子供にはあまり見せたくない映画です。二人の息子も父親に似て下品です。

 つまり、ボビーはダメ男について行ってしまう体質の女です。まあ、利口な女は遅かれ早かれ破滅するフットボーラーとは結婚しません。


兵隊さんよありがとう
 ジミーは大いなる野望を持ってクライドが切り盛りするバーへ向かいます。クライドは元軍人で、イラクで左腕を失って精神を病んでいます。

 ローガン家は代々不幸に襲われるので呪われていると病んだ事を言っています。ジミーはまだメリーは不幸な目に遭っていないと反論しますが、クライドは「縁起が悪い」とあくまでマイナス思考です。

 そこへたまたま大金持ちのマックス(セス・マクファーレン)が取り巻きと一緒に訪れます。こいつだけは明確な悪人なのでクライドの腕の事を茶化しますが、器用に片腕でカクテルを作るクライド。

 それを見てマックスはSNSにアップするためにもう一回作れと要求します。そこにジミーが怒ります。傷痍軍人に敬意を払えと至極当然のことを主張しますが、マックスは「腕の無い弟と足の悪い兄貴で二人で一人前」と最低な事を言います。

 自衛隊員の子供を思想にかぶれた教師がいじめるような国に居ると忘れがちですが、一般には軍人に国民が敬意を払うのは当然の事です。ましてそれが傷痍軍人なら尚の事です。命がけで国の為に義務を果たす人たちなのですから。

 ジミーはマックスがエナジードリンクのCMに出ていた男だと気づき、自撮りをするふりをして殴り掛かり、喧嘩が始まります。

 その隙にクライドはウォッカを持って店を出て、外に停めてあるマックスの車を即席の火炎瓶で焼きます。フットボーラーと軍人の完璧な連係プレーです。

 そしてジミーは証拠を撮影する取り巻きのスマホを取り上げて車に投げ込み「カリフラワー」と謎の一言を残して立ち去ります。元がQBなので物を投げるのが得意なのです。


カリフラワー
 クライドがジミーの家を訪れると、壁になんと強盗の計画書が貼ってあります。「カリフラワー」とは二人が悪ふざけをする合図なのです。それでクライドは少年院に入ったことがあり、嫌がります。

 しかし、自分好みの朝食を作ってくれたことと、計画が意外に良く出来ていたことから話を聞きます。クライドの性格を見抜いたジミーの作戦勝ちです。

 ジミーが働いていた作業現場はノースカロライナのシャーロット・モーター・スピードウェイ。アメリカのモータースポーツの中心地です。大変な額の金が動く場所で、警察や刑務所まで自前で持っているそうです。

 レース場が地盤沈下を起こし、その修繕工事の為にジミーたちが呼ばれたのです。ウェストバージニアは炭鉱が主要産業で、当地の業者は穴関係は得意なのです。

 わざわざ段ボールでレース場の模型を作ってプレゼンするジミー。落盤事故のどさくさで、場内の売店から地下の金庫へ金を送るパイプを見つけました。カプセルに金を詰め込んで地下の金庫に送る、ラブホテルでよくある奴です。

 金庫の場所がわかったので、地元のスーパー主催のモーターショーの日に金庫を破壊して金を奪おうというわけです。パッとしないイベントなので警備も手薄です。


悪そうな奴は大体友達
 とはいえ金庫を破壊するのは大変なので、助っ人を頼む事にしました。地元の名高い金庫破り、ジョー・バング(ダニエル・クレイグ)です。何しろジェームス・ボンドなので腕は確かなのでしょうが、刑務所に入っています。

 二人はバングに面会に行きます。ジミーとは知り合いですが、かなりイカれた男です。流石にダニエル・クレイグです。

 兄弟はジョーに協力を頼みますが、もうジョーは金庫破りから足を洗うつもりです。しかし、家の庭に埋めた隠し金はかみさんが持ち逃げしてしまったことを知らされて愕然とします。

 仕方ないのでもう一仕事を決意したジョー。警報装置は工事中だから切ってあるし仕事は簡単だというジミーの説明ですが、出所直後にやったら自分だとバレると難色を示します。

 もっと根本的な問題は、ジョーはまだ5か月刑期が残っているということです。決行は5週間後。なんと兄弟がジョーを一時的に脱獄させて、仕事をしてすぐ戻すという作戦です。ジョーはこの大胆な作戦に結構乗り気です。


兄弟愛
 ジョーは二人の弟を仲間に入れることを条件に承知します。一方ジミー達もメリーを引き入れ、家族で遊園地に遊びに行くふりをして対面します。

 メリーは古いシボレー・ノヴァに乗っています。このチョイスは只者ではありません。車好きなら間違いなく惚れます。

 ムーディは自分のフォード・マスタングと比較して馬鹿にしますが、V6エンジンのオートマなんて有り得ないとやり返されてしまいます。スピードを楽しむならV8のマニュアルじゃないとというのがメリーの主張です。

 確かにスポーツカーでオートマは見る人が見たら馬鹿にします。オートマしか乗れない人はマスタングよりもキャデラックとかにしましょう。

 兄弟はジョーの弟のフィッシュとサムに会いに行きますが、どうしようもないアホです。コンピューターに詳しいという触れ込みですが、まったくあてになりません。

 しかも、法を冒してもいいと思える理由が無いと参加できないと難色を示します。モーターショー主催のスーパーでしょっちゅう万引きしていたことをジミーは指摘しましたが、昔の事だと変な返事です。

 しかし、クライドがメリーがスーパーで働いていて副店長にお触りされたという真偽不明のエピソードを披露して説き伏せます。かくして本格的に計画が動き始めます。


車の色々
 フィッシュとムーディはジョーの指示で森に熊(の着ぐるみのオッサン)から道具を受け取り、クライドはわざとコンビニに車で突っ込み刑務所に入ります。傷痍軍人なので情状酌量され、90日で済みました。いうまでもなく脱獄の手引き役です。

 メリーは護送車の型をチェックして、ジョーとクライドに何やら木工場で作らせます。カーマニアなので車の寸法はばっちり知っているのです。

 ジミーもセイディのミスコンの準備の間にアールという懇意の自動車工と何やら車に細工をします。そして合間にコンビニで食事をしていると、背の高い綺麗な姉ちゃんがマックスと喧嘩した時の怪我を見とがめます。破傷風の危険があるそうです。

 このシルヴィア(キャサリン・ウォーターストン)は医者で、ボランティアで無料の移動診療所をやっています。ジミーに抗生剤を打ってくれますが、診療所の財政は思わしくないようです。そしてジミーのハイスクールの後輩だそうです。

 ジミーは診療所のバスの整備状態が悪いのを見抜き、アールを紹介して別れようとします。しかし、ジミーのシルヴィアの記憶はあやふやです。キスした事があるようですが、ハイスクール時代のジミーはモテモテだったのでよく覚えていません。


NASCARという祭り
 ジミーの家ではメリーがゴキブリを養殖して色を塗るという身の毛もよだつ作業をしています。必要な道具も少しずつ揃っていきます。

 ジミーは元職場に忘れ物を取りに来たふりをして、現場の図面を盗み出します。しかし、予定より早く工事は終わってしまったことを現場監督から知らされます。予定が1週間早まり、メモリアルデー(戦没者追悼記念日)に行われるNASCARのビッグレース、コカ・コーラ600の日に決行することになります。

 NASCARはアメリカで一番人気のある派手なモータースポーツで、田舎のアホな白人に絶大な人気があります。ボビーの元亭主の『デイズ・オブ・サンダー』で描かれたレースです。

 NASCARはこの映画に全面協力していますが、前述のとおりファン層がハリウッドの住人とは真逆なので変な描かれ方をされる事を心配したそうです。しかし、ファンの眼にも嬉しいように描かれています。レーサーがちょい役で出ているあたりソダーバーグはファンのツボを分かっています。

 アメリカのどのレース場でもNASBARが一番客が入ります。そしてシャーロットはNASCARの本拠地です。アメリカでコカ・コーラ600より客の入るレースとなるとインディ500やケンタッキーダービーくらいのものです。当然作戦の難易度が高まりますが、ジミーは諦めません。


ゴキブリ達の意地
 レース場のグリーマという職員に送り主不明のバースデーケーキが送られます。金庫で皆で食べていると、グリーマの車が当て逃げされたという知らせが届きます。その間に金庫はケーキを残して閉まってしまいます。

 そこへメリーの育てたゴキブリが配管に流し込まれます。その間に刑務所のジョーはネイマンという囚人仲間に良からぬ相談を持ち掛けます。

 翌朝、金庫を開けると食べかけのケーキにゴキブリが群がっています。清掃員としてもぐりこんだフィッシュとサムがゴキブリの色がピンクなのを確認し、どのパイプが金庫につながっているか確かめることに成功しました。

 かくして決行当日、場内は大盛り上がり。NASCARのピットの風景などが興味深く描かれます。ソダーバーグ作品はホモ臭いですが公平なのです。ジミーは寝過ごしたアホのフィッシュとサムを叩き起こし、作戦決行です。

 セイディのミスコンと重なったのでメリーがヘアメイクの為に付いて行く運びになりました。ムーディは乗れもしない新しいマスタングを買って自慢します。V8のマニュアルです。


暴動モンロー刑務所
 ジョーはわざと当地の質の悪い水をがぶ飲みし、吐いて医務室に入ります。メリーはミスコン会場から抜け出し、ムーディの車を盗んで使います。エンジンはお馴染みのコード直結です。

 ジョーはクライドの介抱でトイレに行き、トイレの抜け穴から木工場へ入り込み、メリーの調べた寸法に合わせて作っておいたカバーを護送車の床下に取り付け、その中に隠れます。当然護送車の床下は調べられますが、そうと分からないように偽装されています。

 そしてコカ・コーラ600が始まろうとしたとき、ネイマンがわざと喧嘩を起こして暴動をおっぱじめます。このどさくさで二人が消えたことを誤魔化すわけです。

 フィッシュとサムは熊から貰った爆弾でレース場の発電機を爆破して売店のクレジットカード決済を不可能にします。売店の決済は現金のみとなり、いきおい金庫に入る金が増えるわけです。

 護送車がガソリンスタンドに停まったすきにジョーとクライドは待っていたメリーの車に乗り込み、レース場へ向かいます。ジョーはボンドなのでメリーに色目を使っちゃいます。ボンドにあるまじき下品なアプローチで。

 メリーはスピード違反上等で大急ぎでレース場へ車を走らせます。警察の取り締まり情報もメリーは当然知っています。

 一台だけ危険なパトカーが居るそうですが、フィッシュとサムの爆発は紫ずくめの婆さんがやったとジミーが警察に通報を入れ、教会に行く途中のパープルレディがパトカーに捕まっている間にメリーは行ってしまうのです。


NASCARらしさ
 コカ・コーラ600はデイトン・ホワイト(セバスチャン・スタン)という長く休養していたドライバーの復帰に注目が集まっています。アスリート気取りでヨーロッパ風の豪邸で食事制限やヨガで復帰に備えています。

 こんなのNASCARドライバーじゃありません。ドライバーも南部のアホな白人でなきゃNASCARじゃありません。クラッシュしたらその場で殴り合いを始めるのが名物なのですから。

 しかし、これとて伏線です。なんとチームオーナーがマックスなのです。マックスはデイトンにエナジードリンクを飲むことを強要してご機嫌です。

 ジョーは店員をナンパしつつビールとグミを買って娑婆を満喫していますが、刑務所では所長と囚人の交渉が行われています。

 ゲームオブスローンズの新刊を図書館に入れるというアホな要求を署長は飲みましたが、知っての通りゲームオブスローンズはドラマの方が先に進んでいるので、囚人との交渉は拗れて決裂します。

 一方レース場では国歌斉唱が行われ、軍の全面協力で星条旗が掲揚され、空を戦闘機が飛びます。国歌の終わるタイミングで戦闘機が飛んでくるのが本当ですが、ズレるのがお約束です。ちゃんとこういう小ネタも描いているのでファンは喜びました。


金のなる球根栽培法
 ジョーとクライドはダストシュートから地下に潜り込み、ジョーはジミーに用意させたビニール袋入りの漂白剤に減塩の塩とさっき買ったグミを混ぜ込み即席で爆弾を作ります。

 ジミーとクライドはこんなもので爆弾ができるわけがないと半信半疑ですが、ジョーに言わせるとセキュリティの厳しい中で用意できる材料で作った傑作です。

 思えば栄養ドリンクから毒ガスを作ってテロを起こした宗教団体もありましたし、化学に詳しければこういう爆弾も作れるのでしょう。

 壁に穴などあけなくても、この爆弾をカプセルに入れてパイプから入れれば十分という事ですが、爆発しません。それどころか機械がエラーを起こしてクライドの手元に戻って飛んできます。

 ビニールの調整が悪かったということで、直してもう一回入れると今度はちゃんと爆発しました。しかし、煙が売店に流れ込んできてしまいます。

 警備員が調べに来てしまいます。警備員の一人がトップドライバーのブラッド・ケセロウスキーです。典型的アホなアメリカの白人の兄ちゃんです。NASCARで一番警備員向きでない男です。

 結局煙は警備員に化けた整備士のアールが煙草を吸っていたからという結論で深く追及されません。


アメリカの清濁
 一行はコンプレッサーで金庫から金を吸い出し、ごみ袋何杯も金を手に入れてご機嫌です。まるで税務署が目を付ける前のコミケの人気サークルです。

 ところがクライドの義手が吸い込まれてしまいます。慌てて取り出そうとしますが、ジョー兄弟は止めます。金がまだまだ残っています。

 クライドが軍に行ったのはジミーがフットボーラーとして活躍していたコンプレックスからだとジョー兄弟に指摘され、ジミーがブチ切れます。

 フィッシュとサムは「エロい妹の復讐なら」「NASCARは清らかなアメリカそのもの」と理屈をこねます。NASCARはアメリカのジャンクな部分そのものだと思いますが。

 ジミーは逆上して二人に襲い掛かりますが、ジョーが上手い事なだめ、回収しておくからとジミーがクライドを説得してどうにか納めます。


トラブル発生
 金はフィッシュとサムがゴミ捨てのふりをして運び出し、クライドとジョーは刑務所で戻ります。

 ところが、レースではデイトンがマックスに無理矢理飲まされたドリンクのせいで血糖値が上がってクラッシュし、通路で喧嘩になります。そこへ二人が鉢合わせです。当然マックスはクライドの顔を覚えています。

 二人はメリーの車に乗り込み、ジミーは似合わない綿あめを食べながらトラックに金の入ったごみ袋を詰め込んでレース場を後にします。

 刑務所ではネイマンが捕虜の看守から奪った鉛筆をコンセントに差し込んで火をおこし、火災報知機を作動させます。

 所長は評価を恐れて通報を拒否していましたが、ここへきて消防署にようやく通報を入れます。消防署には消防服を着込んだクライドとジョーが隠れていてこっそり消防車に乗り込んで刑務所へと戻ります。


コンテスト必勝法

 メリーは大急ぎでミスコン会場に戻り、セイディはメリーに髪をセットしてもらってミスコンに出場して歌を歌います。

 最初はリアーナの『アンブレラ』を歌う予定でしたが、会場にジミーが駆けつけたのを見つけ、急遽『故郷に帰りたい』に切り替え、観客も一緒に歌いだして見事優勝を飾ります。審査員に寄せるというコンテストの戦術を彼女は学んだことでしょう。しかし、あの歌唱力でアンブレラは無理だと思います。

 その一方ムーディはボロボロになったマスタングを見て愕然とします。メリーは間に合わせる為によほど無理をしたようです。

 そして、ジミーは何を思ったのか、金を積んだトラックをそのままコンビニで乗り捨ててヒッチハイクで帰ります。当然金は警察に見つかり、意気消沈するメンバー達。

オーシャンズセブンイレブン
 事件は『オーシャンズ・セブンイレブン』という手前味噌そのものの名前が付けられて注目を集め、FBIが捜査に入ります。

 ブラッド(メイコン・ブレア)というやけに美人な捜査官が調べ回りますが、やがてマックスからクライドが犯人だと通報が入ります。

 クライドに殴られてマックスは治療中です。しかし、出会った経緯が恐ろしく後ろ暗い為強盗事件の発覚まで黙っていたうえ、居合わせたデイトンは証言を拒否。証拠になりません。

 そのうちクライドが出所しました。マックスの証言は採用されず、刑務所に入っていた事になっているのでアリバイは完璧です。そして退役軍人局から何やら荷物が届いています。

 ブラッドは刑務所にも捜査に行きます。当日何かあったとブラッドは睨んでいますが、所長はボヤが起きただけで何もなかったと言い張るのでやっぱり証拠は見つかりません。

 ジミーの線も狙ってみましたが、ジミーは携帯電話は止められているうえ、車は古くカーナビも付いていないので居場所はつかめません。あるのはミスコンに来ていたという証言だけです。捜査は完全に暗礁に乗り上げてしまいます。


Fortunate Son
 出所したジョーはクライドの店に行きます。クライドもジミーとは長く会っていないようです。金の取り分を貰い損ねたジョーは不機嫌です。ご機嫌なのは新しく届いたスターウォーズチックなクライドの義手だけです。

 レース場も損害は保険で補填されるので別にいいという姿勢です。しかし計算がややこしく、被害総額は不明です。レース場も何やら後ろ暗い事をしたようです。

 家に戻っても不機嫌なジョー。誰かがドアをノックしましたが、そこには誰も居ません。しかし思い立って持ち逃げされた金を隠していた庭のブランコの下を掘ってみると、そこには金を入れたゴミ袋が。ここで『Fortunate Son』が流れ始めます。この曲大好きです。

 全てはジミーの策略だったのです。ジョー兄弟が金を運び出すのに手間取るように仕向け、その間に更に金を盗ってゴミ箱に入れ、赤い結束バンドを目印にゴミ処理場からゴミ袋を掘り出して回収したのです。

 ジョーの後に出所したネイマンは金の入った封筒を積んだリムジンが出迎え、車を当て逃げされたグリーマの車にも金の入ったケーキボックスが。そしてシルヴィアの診療所にはジミーの治療に使ったマイリトルポニーのテープで封をした匿名の寄付金が届けられます。

 クライドの店で祝杯を挙げる一同。金を盗りに行くタイミングもジミーは計算していました。FBIが電話を盗聴していると睨み、電話料金を滞納して電話が止まるのを待ったのです。止まれば諦めたという事です。

 シルヴィアとすっかりいい感じのジミー、一方ジョーもメリーにボンドらしく接近します。こうなるとクライドは余りですが、証拠はないけど察しは付いているブラッドが店にやってきます。実に後味良く映画は終わります。

BL的に解説

Fortunate Sonに外れなし。
 『Fortunate Son』はやけに映画に使われる曲です。そしてこの曲が使われる映画に外れなしです。『フォレストガンプ』『ダイハード4.0』『バトルシップ』ちょっと思いつくだけでもこれだけあります。

 そして気付くはずです。どれも濃厚なホモ映画じゃないかと。私はダンフォレよりババフォレが好きです。別の意味でSonがFortuneteです。


ソダーバーグ作品
 ソダーバーグの映画はそもそもがホモ臭いのです。意味もなくホモの役が出てきがちです。

 そして今作が作られる以前、ソダーバーグはかなりの間一線を離れていました。この前に作ったのは『恋するリベラーチェ』です。リベラーチェですよあなた。

 ホモ過ぎてスポンサーもスタジオも軒並み断ったという問題作です。『ボヘミアン・ラプソディ』より見る価値のある映画だと私は信じています。

 ジミー役のチャニング・テイタムも『マジック・マイク』で男のストリッパーを演じて世界のゲイの熱視線を浴び、出世作としました。あんな映画ノンケが撮れますか?

 ソダーバーグが実際ゲイなのかどうかははっきりしませんが、ソダーバーグ作品は腐女子なら観に行って損はないと断言します。


クライド×ジミー
 軍隊、アメフト、いずれもホモ要素に溢れています。そして二人とも大きな挫折を経験しています。そして何より、この兄弟は仲が良すぎます。

 アダム・ドライバーも大概ホモ臭いキャリアを歩んでいます。カイロは『スターウォーズ』でもっとも腐女子人気が高いキャラクターの一人です。そしてチャニング・テイタムと兄弟。ソダーバーグの役得としか思えません。

 そもそもクライドはジミーの悪戯に付き合って少年院に入る程ジミーを信頼していました。少年時代のアダム・ドライバーが少年院に入って無事で済むはずがありません。

 そしてスーパースターになっていくジミーにコンプレックスを抱くようになります。その一方自分には何もないのです。

 そしてクライドはジミーに近付くために軍隊に入りました。軍隊で英雄になればジミーに並べるのです。何ですかこの尊いバックボーンは。

 その結果名誉の負傷を遂げて手と精神の均衡を失ってしまったクライドをジミーは大切にしています。

 クライドを馬鹿にしたマックスに殴り掛かったのは完全に愛です。そしてそんなジミーを見て完璧な連携でマックスの車に火をつけるクライド。

 マックスは「二人で一人前」と兄弟を馬鹿にしました。いいえ、彼らは「二人で一人」なのです。お互いに足りないものを補い合うために兄弟が一つになる。こんな神々しいセックスが他にありましょうか?

 しかもクライドは独り身、ジミーも離婚して女日照り。なら手近なところでというのは当然の帰結です。

 何よりメンタルの弱った相手を黙らせるのにはセックスが一番です。かくしてジミーはケツのエンドゾーンにクライドの股間のミサイルをタッチダウンさせることで事を治めるのです。

 フィッシュとサムの罵倒にもジミーは怒りを爆発させました。俺のクライドは俺と国の為に身を捧げたのです。たとえ共犯者であろうと、侮辱するものは許せないのです。愛は金では買えないのですから。

 そして二人の愛はローガン家の呪いを打ち破り、二人は大金を手に入れました。そして女どもを帰した後クライドの店は二人だけのゲイバーに変身するのです。あのハイテク義手がどんな邪な用途に使われるのか、想像は尽きません。


ジョー×クライド
 BL的にはジミーじゃなくてクライドが主人公です。クライドのほうが想像を掻き立てられます。

 ジョーは高名な犯罪者なので刑務所では男に不自由しないわけです。新入りのケツを爆破するのは彼の役得に違いありません。

 健康に悪いからと医者に塩分を止められ、減塩の塩でゆで卵をしょっちゅう食べています。それも必ず二つセットです。意味深です。

 クライドは刑務所に入ってジョーの脱獄を手引きしました。当然二人には友情が芽生えます。クライドが刑務所に入って無事で済むはずがありませんが、他の囚人はジョーの手前手が出せません。

 そうしてなかなの名コンビぶりで金を手に入れたというのに、ジミーはその金を捨ててしまいます。ジョーは当然怒ります。その怒りは何処に向くのか?勿論クライドの尻です。

 クライドの性格からして強く迫れば断れません。そもそも極限下である戦地で上官に美味しく頂かれていたとしても驚く事はありません。クライドに女っ気が無かったのも説明が付きます。どこかブラッドにも余所余所しかったのも納得です。

 しかし、クライドにはジミーという本命が居ます。頭の良いジョーはそのくらいは分かるはずです。メリーに接近したのもそこから説明が付きます。

 クライドの幸せを壊すわけにはいきませんので、彼女は代わりです。ジョーはメリーにクライドの面影を見ていたのです。クライドというQの前にはメリーもボンドカーに過ぎません。

 出所後もジミーではなくクライドを先に訪ねました。金の事なら直接ジミーを問い詰めればいいのに、そうしなかったのは、ジョーの中でも金より愛が勝っていた証拠です。あの夜、やっぱりクライドの店はゲイバーに変身したのでしょう。


ジョー×ネイマン
 ジョーはネイマンに暴動という危険な賭けを持ち掛けました。アメリカの刑務所で暴動など起こせば撃ち殺される危険もあります。出所も近いというのに、たかがゲームオブスローンの為にあんな危険な賭けに応じたのはなぜか?ネイマンはジョーのアンコだったからです。

 当然ジョーはジミー達に「俺のアンコが暴動を起こす」と伝えたはずです。優しいジミーはだからこそネイマンにも分け前をリムジン付きで寄越したのです。

 運転手はネイマンに行き先を尋ねましたが、ネイマンは答えませんでした。しかし行く場所は決まっています。ジョーの家です。

 二人の共同作業で掴んだ大金によっていきおい興奮は倍加され、二人はお互いのゆで卵を貪るのです。ゲームオブスローンズなど事後に使うティッシュの代わりでしかありません。


マックス×デイトン
 また、モータースポーツというのは金持ちのバカ息子が乗っかって騒がしく一瞬でも早く達そうとする行為です。大変にお金がかかるので、若手はスポンサーを必死で集めて参戦資金を作るところからスタートです。

 往々にしてこのスポンサー集めが腕よりも重視されます。ホモ社長にケツを差し出すくらいの覚悟は必要です。

 また、NASCARはモータースポーツ数ある中でも最もホモソーシャルなカテゴリです。何しろレースクイーンが居ないのです。そして選手も客もホモフォビアばかり。レースではオカマを掘って前の車をクラッシュさせるのが基本です。ホモのホモ嫌いにはなんとも居心地の良い場所である事が想像できるはずです。

 なのにデイトンのライフスタイルはNASCARドライバーの平均とは大きくかけ離れています。ヨーロッパの高級車を何台も並べ、ヨガに食事制限。これは「デイトンはホモだ」と仲間内やファンからは噂されているに違いありません。そういう思想の人間の為のスポーツです。

 そしてマックスも大概ホモ臭い男です。野郎の取り巻きをどこにも連れて歩きます。彼らは性的ペットである事は言うまでもありません。

 そこでデイトンはNASCAR参戦の為にマックスにケツを差し出したのです。エナジードリンクを飲んで飲ませ、デイトンの尻にもエナジードリンクをぶち込んで行為に及ぶマックス。食べ物飲み物で遊んではいけませんが大丈夫、遊びではなく本気です。

 夢の為に屈辱と痛みに歯を食いしばって耐えるデイトン。やがて一流ドライバーとなりました。2年も休んで戻ってくるなどというワガママが許されるのは相当の腕利きです。

 こうなるとデイトンも掘られっぱなしは面白くなくなってきます。腕が上がればチームを好きに移れる立場になります。しかも「自分はアスリートだ」「自分のソフトウェアをアップデートした」などとヤバい思想に被れているのです。

 そんなデイトンをマックスは今まで通り性具扱いしようとしますが、デイトンは言う事を聞きません。チームを選べるということは、掘らせる男も選べるという事ですから。

 そして痴話喧嘩の末、二人は最悪の形で決別します。デイトンはクライドに殴り倒されたマックスを見捨ててしまいました。今後は移籍してNASCARの鶴太郎として存分に腕を振るうのです。


クライド×デイトン
 NASCARは軍との関わりが深く、軍がスポンサーになっているチームも存在します。つまり、退役軍人のクライドとNASCARドライバーのデイトンは最初から赤い糸で結ばれていたのです。

 クライドは地元では結構有名人なので、デイトンが調べればすぐ身元は分かるでしょう。大嫌いなマックスを殴り倒してくれた国家の英雄にお礼を言うべく、デイトンはクライドの店を訪れるのです。

 「君のおかげであの糞野郎と縁切りできたよ」とデイトン。お礼は身体で払う物です。明らかにNSACARのマシン(数十万ドル)より高そうな義手がデイトンのV8エンジンに迫ります。

 かくしてホモセックスへの認識を「金の為」から「喜びの為」にアップデートさせたデイトン。退役軍人局がスポンサーになったレインボーカラーのマシンが三度ゲイバーになったクライドの店を疾走します。カーナンバーは勿論"69"でしょう。ティム・クックもびっくりです。

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