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そのコンビニは、生と死の狭間で24時間営業中 『光の箱』 【マンガクロスボーダー vol.3】

さて、先月からスタートした企画【マンガクロスボーダー】、今回が第3回目の記事である!

前回の記事で書肆喫茶moriさんがおすすめしてくださった『綺譚花物語』、とっっってもよかった~~~!!!

台湾歴史百合マンガ……、台湾×歴史×百合だぜ……!?
ひとつひとつの要素だけでも味わい深いのに魅惑の掛け算が成され、めーちゃくちゃ楽しく読んだ。

『綺譚花物語』に収録されている4つの物語は、幽霊に怪異に守り神――台湾ならではのオカルティック要素がふんだんに散りばめられていて、まずそこでワクワクが止まらない。個人的には第2話、呪いの物語が好きすぎる。願い事を叶える力を持つという水鹿の角、それを手に入れようと無茶をする日本人少女、彼女を止めようとする台湾人少女。ふたりの間にある恋情はやがて暴走し、呪いは発動してしまう。すべてのページがドラマティック。

原作担当の楊双子先生、女性同士の関係性の描き方、百戦錬磨だな…!?さらに作画担当の星期一回収日先生、画力高すぎてマンガパワーとんでもないな……!??台湾のマンガ家さんは日本式マンガ文法の影響を受けている部分が大きいとのことで、『綺譚花物語』、海外マンガを読み慣れていないわたしでも没入して一気に読んでしまった。面白かったー!

そしてわたくし、オムニバス形式の短編集が大好きなもんで。
何かしらのテーマや共通項で繋がる物語、それを集めて出来上がる一冊。いま我が家の壁と床を埋め尽くす2000冊以上のマンガたち、その約3分の1は短編集&単巻完結本が占めているほどに…!読み切り作品を……!愛しているッ………!

なので、4つの物語が軽やかに絡まっている『綺譚花物語』は、オムニバス形式の作品という点でも私的に嬉しすぎる読書体験だった。短編集、最高。


さてさて。
この企画【マンガクロスボーダー】は、おすすめマンガを受けて更なるおすすめマンガを紹介するルーティン。『綺譚花物語』を読んだわたしが次に語るは……、オムニバス形式で単話でも読めるがそれぞれの物語を繋げる要素が軸にあってしかも摩訶不思議要素を含んでいるマンガ……!
というわけで、今回はこちらを!!


衿沢世衣子先生の、『光の箱』だ。




『光の箱』とは、コミック誌『月刊flowers』(小学館)の増刊号において連載中のマンガ作品である。公式のあらすじを、以下に引用。

生と死の狭間に立つコンビニエンスストア。
その明かりに引き寄せられる人々が最後に買い求めるものは何なのか。
そして、そこで働く青年二人の秘密とは――

そう、舞台はコンビニ。
しかも、生と死の狭間にあるコンビニ。
その名も「ハザマストア」。

死は、思いもよらぬきっかけで突然襲い掛かることもあれば、自然の流れで訪れることもある。どちらにせよ、完全に彼岸へと足を踏み入れてしまう直前、自分がその淵にいるとも気付かぬ状態で、ふと目の前に現れるのがハザマストアなのだ。

働きすぎてる女性、決められない男性、追いつめられる女子たち、etc…
死の淵にいる客が次々とコンビニにやってきては、スムーズに買い物して何処かへ消えていったり、時にアクシデントを巻き起こして店員が対応したりする。そこにピリリとふわりと効くのが、衿沢世衣子節。物語に充満しているはずの死の臭いが、シリアスとコミカルの絶妙なバランスで中和され、大傑作に仕上がっている。

リアルとファンタジーの境界。
≪SF≫…≪すこし不思議≫で包まれた、まさに狭間の物語。


……んーと、何つーか、

とりあえず読も?読んどこ???


ハァアアアアーーーン!
何度読んでも面白すぎて眩暈がするわい。

マンガを読む上で何を醍醐味とするかは人それぞれ。例えばストーリーの面白さ、絵柄の美しさ、言葉の選び方、画面の魅せ方 etc…、嗜好ポイントは無数にあれど、わたしはページめくった瞬間に「ウオオオオオオオオオオオオ天才……!???!!!!!!!!?」ってマンガ表現の巧さにメッタ刺しされる快感がたまらなく好きだ。衿沢世衣子氏のマンガを読んでいると、そのタイミングは頻繁に訪れてくれる。

マンガならではの表現技巧をフル活用したページの使い方。わたしのその嗜好に基づくと、『光の箱』Episode.3 の冒頭6ページは、マンガ史に残る至高のイントロとして脳髄に鮮烈に焼き付いている。

出典:衿沢世衣子『光の箱』P.44-45

「はじめまして私は店長です」


表紙めくって唐突な見開き2ページでこのインパクト。からの、ページめくって次の見開きでめまぐるしい情報量。からの、ページめくって次の見開きで、この先に生まれる物語を知らずにはいられなくなる展開。しかもセリフはたったひとこと

「…働きます!」だけ……!!


この合計たった6ページの冒頭を読むたび、わたしの脳内ではにわかに【欽ちゃんの仮装大賞】バーチャル会場が出現し例の得点バーが軽妙な電子音と共に次々とオレンジ色に光り輝いて一気に合格ラインを突破しめでたい音楽が轟音で鳴り響きそこら中から歓声が上がり誰も彼も喜びを全身で表現する古き良きあの光景、あの光景が流れるんだな毎回、いやまじで。

【欽ちゃんの仮装大賞】って何やねんという若者たち、ググったらアイデア爆発番組と出会えるはずなので、是非味わってくれ。あの高揚感を。しかもなんと今年は3年ぶりに開催されるらしいぜ仮装大賞。

兎にも角にも、仮装大賞はさておいて。
『光の箱』をはじめとする衿沢世衣子作品、マンガとしての起爆力と構成力に毎度唸るしかない。最高。


あと細かく最高ポイントを挙げるならば、ワードセンスだ。

セリフ・モノローグの鋭さがずば抜けている。マンガ家は物語を展開させていく時、「このページでこの情報を読者に伝えたいならば、コマ割・絵・セリフ・モノローグをどう駆使するのが最適解か」という編集作業を逐一行っているわけだが、「この言葉、嗚呼、そういう意味……!」「なんて端的なのに情報量の多いセリフ……!」「アアア、すごい、アアア……!!」と読みながらわたしは何度も身悶えてしまう。

マンガ家のよしもとよしとも先生が述べておられる通り、衿沢先生の言葉のチョイス、痺れるしかない。コンビニを『光の箱』と称するところからしてセンスの良さがゴリゴリに際立っているが、他作品のタイトルも総じてヤバい。

『制服ぬすまれた』『新月を左に旋回』
『向こう町ガール八景』
『ベランダは難攻不落のラ・フランス』
『1年1組 うちのクラスの女子がヤバい』

タイトルだけで読みたくなりすぎる。キラーワードの宝庫。

あと猫、猫がヤバい。


黒猫キャラクター界のトップは私的に、まず不動の『魔女の宅急便』ジジ、そして栄えある2位は『美少女戦士セーラームーン』のルナだと思っているのだが、次なる3位は『光の箱』のヤミネコで間違いない。いやもうそれしかない。そもそもヤミネコは猫ではないかもしれないがそこはまさに闇に包まれているのでヤミネコの生態を知るためにもネコ好きの人類はもれなく『光の箱』を読もう。読んで。わたしもヤミネコ飼いたい。踏まれたい。コクラうらやましい。

ヤミネコの魅力、小学館flowers編集部が公式サイトに【編集者からのおすすめ情報】としてわざわざ「猫好きな方も必見!」と明記するくらいである。猫好きまっしぐら、それがヤミネコ。

出典:衿沢世衣子『光の箱』P.66-67

あと、単行本の装丁デザインも最高。
表紙カバーを外すと現れる内側表紙、ここに描かれる小ネタにグッとくる。本編を読んだ後に眺めると二度おいしい。噛み締めて膝を打つこと間違いなしだ。

『光の箱』というタイトルロゴも、センスよすぎて頭抱えてしまう。「光」の文字の光ってる感。しかもただ光っているのではなく、闇の中で確かに灯る、目印となる光。まさにハザマストアの存在感を包含したナイスロゴ。

そして何より最高なのは、去年に続編となる②巻が単行本として発刊され、連載もゆるやかに続いていることだ。『光の箱』は2020年刊行の際、巻数表記がなかったのである。物語の先を知ることができる保証、この上ない僥倖。

『光の箱』②巻では、これまでよりも「魔」「闇」について掘り下げるストーリー展開が多く、③巻への期待が高まる。ハザマストアがこの先どうなるのか見逃せない。しかし依然として、単話としての魅力も冴え渡っている!特に〔Episode.7 さえずり〕と〔Episode.9 失恋〕は、しっかりと衿沢世衣子節が効いていて超昂ぶる。

誰かの言葉で自分の視界が切り替わり、ふと光が射し込んで少し遠くの方まで見渡せるような。そんなささやかな喜びを、シリアスにコミカルに描き出してくれるのだ。


『光の箱』、単行本①巻目ラスト3ページで明らかになる新事実に、わたしはニタニタと喜びが溢れ出た。きっと今この記事を読んでくれているほどにマンガ好きであろうあなたも、思わず口角が口裂け女くらい吊り上がるのではなかろうか。是非その目で確かめてほしい。



衿沢先生の作品、どれもこれも良すぎるので全部手を出してほしいが、まずは連載中だったり媒体的に手に取りやすい作品をいくつか並べておこう。レッツ試し読み!

『弱火の魔法』は、今年発売の『月刊flowers 3月号』に掲載された読み切り作品。これまた、膝を1回打つどころでは足りない。ボンゴの如く膝を叩きまくるレベルで良い。過去のコミック雑誌は手に入りにくいが電子書籍で読めるぜ!クゥ〜〜〜!!

【マンガクロスボーダー vol.1】の記事では、街歩きマンガ『散歩する女の子』を紹介したが、衿沢先生も過去に街歩きマンガを描いておるのだ。その名も『ちづかマップ』。女子高生が、古地図を手に東京の街を歩く歩く!

『2年1組 うちのクラスの女子がヤバい』ー。
これは頼むから読んでほしいヤバい。面白すぎてもうわけがわからない。こんなヤバい物語を描けてしまう作者がヤバい。どうかこの世界、実在しててほしい。

最後に『制服ぬすまれた』も読んでおこうぜ!
衿沢先生の公式Twitterアカウントで1話まるまる掲載されたところそりゃもうしぬほどバズり散らし、結果、単行本重版に至るという好事例を生み出した超名作読み切りだ。夏の日の、想像を飛び越えるクライムサスペンス。

単行本『制服ぬすまれた』、この表題作以外もすべて大傑作。読むべし読むべし。



最後に、と書いたくせに、あともうひとつ。
語っておきたいことがあった。

下記に引用するのは、衿沢先生が『制服ぬすまれた』単行本あとがきページに書いた文章だ。

衿沢世衣子『制服ぬすまれた』P.189

雑誌に読み切りを描くのは、山奥の小さな湖にそっと紙の船を浮かべるみたいな、ひっそりとした表現方法みたいで、好きです。

なんと美しい言葉だろうか。

マンガ雑誌の連載作品たちの隙間で静かに、または、とっておきの目玉としてドカンと発表される読み切り作品。4ページから16ページほどの原稿でこちらのツボを狙い撃ちしてくるパターンもあれば、40ページくらいで濃厚なめくるめく世界を描く作品もあり、時には60~80ページ超えの大作で情緒を殴ってくることもある。

短編マンガをこよなく愛する人間としては、作者がこんな風に読み切りを捉え、これから先も読み切りを生み出す意志を提示してくれること、まるで祝福を受けたかのような気持ちになる。

いつか光の箱に出会ってしまう前に、できるだけたくさんの物語に出会いたい。わたしの人生。

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