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聖地巡礼したくなる…!台湾歴史百合漫画『綺譚花物語』 【マンガクロスボーダーvol.2】

アガサさ~~~ん!
『散歩する女の子①』のご紹介ありがとうございました~~!!

もう…なんか……。

アガサさんの「好き」が詰まってる…!!
めちゃくちゃアツくって私までテンションが上がってきます…!!

まだ記事を読んでない方は是非是非!!

私も特にあてもなく街なかを歩くの好きなんですよね。
今日はいつもとは違う道を通ってみようかな…とか。
細い路地がどこにつながっているのかちょっくら覗いてみようかな…とか。

『散歩する女の子』、そんな私の性癖にブチ刺さる作品でした!

ふだん歩いているときに見ている何気ない風景。
少し視点を変えれば、また違った景色が見えてくる。
そんなちょっとしたささやかな異世界への扉を開いてくれる……!

しかも「にほ」と「まよい」、ふたりの関係も…ほっこり癒される…

にほのちょっとマニアックなお散歩や妄想(笑)を嫌な顔せずに受け入れてくれるだけでなく一緒になって楽しんでくれるまよい(なんてイイ娘なんや…)……。

とっても幸せになれるマンガでした……!

ということで、女子ふたりのお散歩マンガで思い浮かべた台湾のマンガ『綺譚花物語』をご紹介します!!

台湾、台中に旅行に行く機会があったら、このマンガを片手に巡ってみたくなる、ちょっと不思議でじんわり胸に沁みる素敵なマンガです。

『綺譚花物語』の日本語版はクラウドファンディングで海外マンガを翻訳出版する「サウザンコミックス」レーベルの第4弾として刊行されました。
クラウドファンディングのプロジェクトの様子はこちらのページからご覧いただけます。試し読みのページもあります!)

クラウドファンディングの紹介動画もありますので、下にリンクしておきますね。マンガの雰囲気が伝わってくると思います……!

お廟の守り神「虎爺(フーイエ)」を巡る女子ふたり

「虎爺(フーイエ)」をご存じでしょうか?

台湾の神様を祀る場所「お廟」の主神の祭壇の下にいる虎の姿をした守り神。
日本でいうところの狛犬のようなものでしょうか……?

私も『綺譚花物語』を読むまで詳しく知らなかったのですが、お廟によって表情も姿も千差万別!
しかもめちゃくちゃ可愛い…!

『綺譚花物語』(楊双子作、星期一回収日画、黒木夏兒訳)195ページ

ね、めっちゃ可愛い…!

『綺譚花物語』は登場人物の異なる4つの物語がゆるやかにつながる連作マンガ集。
その第4話『夢の通い路』で、お廟の虎爺を探して歩き回るふたりの女の子、蜜容(ミーロン)と阿貓(アーマオ)が出てきます。

ミーロンは民俗学を研究している大学院生。修士論文の執筆に行き詰っていたところ、虎爺の写真をSNSに投稿している妖怪に詳しい小説家志望のアーマオと出会います。
そしてふたりは一緒に虎爺巡りをすることに……。

このマンガの中にはいくつもの特色あるお廟と虎爺の詳しい描写が出てくるのですが、それがすべて実在する場所なんです。

これは……台中に行く機会があったら全部巡りたい……!!

ふたりの会話も良いんですよね~。
マニアックな妖怪談話、台中市の歴史や土地の由来。

そして少しずつ、ふたりの距離が近づいていく。

阿貓の名の通り猫のような、どこか捉えどころのない不思議なアーマオに惹かれていきながら、そのことに戸惑うミーロン……。

果たしてふたりの虎爺巡りの先にどのような結末が待っているかはぜひ本編をご覧ください~!

全編、台中へのリスペクトあふれるご当地マンガ

さて、さきほど『綺譚花物語』は全4編の連作マンガ集と紹介しました。
第4話は現代を舞台にしていますが、第1~3話は昭和11年の日本統治時代の物語になっています。

いまからおよそ90年前の物語になりますが、かつて存在した、または現存するランドスケープがいたるところに出てくるのです。

なかでも第2話『乙女の祈り』

台中高等女学校(現:臺中市立臺中女中)に通う日本人の茉莉と台湾人の荷舟。

ふたりが学校の帰り道を一緒に歩くシーンが印象的です。

女学校の校門から台中公園の方角へと向かって歩くふたりが途中で立ち止まり、台中駅を眺める。

『綺譚花物語』(楊双子作、星期一回収日画、黒木夏兒訳)65ページ

当時、女性は学校を卒業したら結婚して家庭に収まるのが普通。
茉莉も卒業後は日本に帰って結婚することが決まっている。
日本に帰ればきっとふたりは二度と会うことができない。今生の別れとなる。

「一緒に遠くに行こう」

荷舟の手を握りながらそう囁く。叶わないと知りながらもそう強く願わずにはいられない茉莉の決意…。

茉莉と荷舟。ふたりを待ち受ける運命……それはぜひ本編を~(以下略)!

ちなみに『綺譚花物語』翻訳者の黒木夏兒さんが作中に登場する主要な場所を記した地図と、台中市内のランドスケープをめちゃくちゃ詳しく解説した文章を作成してくださっています!
ぜひ読書のお供、聖地巡礼のお供に、一緒に楽しんでください!
(地図は、当店にて『綺譚花物語』をご購入くださった方にお渡ししています。なくなり次第、終了です。ご購入はこちら通販サイトから

日本時代に唯一の対等な恋愛関係であった百合――”台湾歴史百合”

さてこれまで『綺譚花物語』のお散歩マンガ、ご当地マンガ、聖地巡礼マンガとして魅力を語ってきましたが、この作品の神髄はそこではありません。

”歴史百合”モノなんです……!

原作の楊双子(ようふたご)さんは、台湾で「百合歴史小説」という独自のジャンルを確立された小説家。
女学校を卒業後はすぐに結婚して自由を奪われた日本統治時代の女性たちにとって、唯一対等な関係だった女性同士の恋愛として、”百合”作品を書かれています。

楊双子さんの日本語訳作品は『綺譚花物語』が最初だったのですが、その後『台湾漫遊鉄道のふたり』という小説も邦訳されました。

いや…これもサイコー……!
「歴史」×「百合」に「グルメ」と「旅」要素を加え、各方面のマニアを射程圏に入れた快作です!
主人公である青山千鶴子の台湾グルメ食べっぷりが『孤独のグルメ』の五郎さんを見ているような爽快さ…。
もっともっと日本に紹介が進んでほしい小説家です。

そして作画の星期一回収日(シンチーイーフイショウリー)さん。
女同士の友情、恋愛をテーマにしたマンガを手掛け、台湾の金漫賞というマンガ賞で複数回入賞しているという、台湾百合マンガ期待の星!

この記事をアップする頃に『ネコと海の彼方』という邦訳マンガも出ます!

『ネコと海の彼方』は、日本の外務省が主催で海外作品を表彰するマンガ賞「日本国際漫画賞」の優秀賞を受賞した作品でもあるんです!

いじめられっ子の筱榕(シャオロン)は小学校の同級生で人気者の可蔚(カーウェイ)とあることがきっかけで親しくなる。最初は戸惑うシャオロンだったが次第にふたりはお互いにかけがえのない存在になっていく。
百合、というには未分化な、繊細な感情にあふれています……!

『綺譚花物語』はそんな楊双子さんと星期一回収日さんがタッグを組んだ作品です!

もう傑作の匂いしかしない……!


昭和11年、自由に生きることができなかった女性たち。

そんな彼女たちが心から求めた相手との、恋愛というにはあまりにも切なく切実な想いが描かれます!

冥婚、妖怪、怪異譚……オカルト要素満載で綴られる、少女たちを呪縛する「結婚」と「家」

登場人物のそれぞれ異なる4つの短編漫画に共通しているのは、幽霊、妖怪、台湾の民間説話に語られる怪異譚といったオカルトチックな要素です。

第1話『地上にて永遠に』。詠恩(インウン)と玉英(ギョックイン)。
台中女学校の先輩後輩だったふたりは、不慮の事故で亡くなったインウンが「冥婚」という形で嫁いでくることで奇妙な同居生活をすることになる。

第2話『乙女の祈り』。日本人の茉莉と台湾人の荷舟。
女学校卒業後には日本と台湾に離れ離れになってしまうふたり。茉莉は願いが叶うという水鹿の伝説に望みを託す。

第3話『小夜啼き鳥』。妾の蘭鶯(ランイン)と跡取り娘の雁聲(ガンシン)。
自由な将来を閉ざされ、呪われた一族に立場の違いはあれど同じように囚われたふたりは、民間説話の怪異譚に我が身をなぞらえる。

そして幽霊が見ることができる「林家」という血筋……。
それらがゆるやかにこれらの連作マンガをつなげています。


オカルト好きにはたまらない……!!!!


そしていずれの物語も主人公たちを束縛するのは「結婚」と「家」

死しても結婚から逃れられぬ「冥婚」という風習にとらわれる詠恩。

「結婚」によって引き裂かれる運命に抗おうとする茉莉。

呪われた「家」の呪縛を解くためにその身を犠牲にする蘭鶯。

当時の女性たちを縛る枷。その身を任せて流されざるを得ない運命に翻弄されながらも、できる限りの抵抗を試みる主人公たち。

そして、それら古き呪いが解かれた現代を舞台にする第4話『夢の通い路』

女性が自由に自分のキャリアや恋愛相手を選ぶことができ、同性婚も可能になった現代の台湾に生きる蜜容(ミーロン)と阿貓(アーマオ)。

ふたりがどのような決断をするのか……。

4つの短編はそれぞれ主人公の異なる独立した物語ですが、一連のストーリーとして読むと、第4話のふたりの戸惑いや迷いすらも、いとおしく尊い。

『綺譚花物語』はいろいろな読みどころのある作品です。
じっくり楽しんでもらえると嬉しいです。


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