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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙

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ある日突然、〝弟〟から〝私〟に手紙が届いた。30年以上音信不通だった〝弟〟はカトリックに改宗し、山中の無言の行を行う修道院にいると言う。 弟はなぜ、修道士の道を選んだのだろうか?…
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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第4章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第4章

 4度目の便りは、それから1ヶ月後に届いた。


 お姉さん、お元気でお変わりなく過ごされていることをお祈り申し上げます。僕がこの修道院に入ってから、もうすぐ1年が経とうとしています。僕は元気です。少なくとも、表面上は……。
 相変わらず、祈りの日々を続けています。夜11時30分に起き、自分の房で祈りを捧げ、零時15分には礼拝堂に移ってほかの修道士たちと朝課を行います。午前3時になるまで賛課は続

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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第5章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第5章

 戻りました。再び、僕は始めなければなりません。朝のミサに行ってきたので、だいぶ心が静まりました。聖歌は心も魂も清めてくれるのです。では、始めましょう。
 お姉さんが裕人兄さんと結婚することになっていると告げられてから、僕の生活は一変してしまいました。何をしていても頭のなかにそのことがちらつき、何も手につかなくなりました。僕は注意散漫なまま大学を卒業し、心ここにあらずの状態のまま商社に就職しました

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