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映画『シン・仮面ライダー』感想 文句を言う筋合いないけど、言わせてもらいます。

 えーと、前もって書いておきますが、個人的につまらなかっただけであり、この作品を楽しんだ人の感性を否定するものではありません。映画『シン・仮面ライダー』感想です。

 秘密結社「SHOCKER」の追手から逃げ続ける男女。緑川ルリ子(浜辺美波)が捕らえられそうになった時、本郷猛(池松壮亮)は初めてバッタオーグに変身し、人間離れした力で追手を皆殺しにしてしまう。自分に覚えのない力に恐れ戦く本郷は、ルリ子の父である緑川弘(塚本晋也)から、バッタとの合成手術を施された事実を知らされる。緑川弘は、SHOCKERに所属する科学者であり、最高傑作として本郷にバッタオーグの手術を施したが、それはSHOCKERを裏切り、壊滅させるためと語る。その時、刺客のクモオーグ(声:大森南朋)が襲い掛かる。緑川は、本郷に娘のルリ子を託し絶命、クモオーグはルリ子の身柄を攫ってしまう。追いかける本郷は再び変身、バッタオーグではなく「仮面ライダー」を名乗り、クモオーグを倒し、ルリ子を取り戻す。2人はSHOCKERに立ち向かうため、日本政府と連携することになる…という物語。

 『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』に続く、リブート作品の第3弾。『シン・ウルトラマン』では脚本のみでしたが、今作では庵野秀明さんが監督を務めています。
 『シン・ウルトラマン』には一定の面白さはあったものの、個人的にはノレない部分も大きい作品であり、あまり期待出来ない気持ちではいましたが、ここまできたら観とくかというくらいの気持ちで臨みました。それだけハードルを下げたにも関わらず、冒頭に書いたようにはっきりと言えば「つまらない」という結論に至ってしまったので、何ともはやな感じです。
 
 個人的に『シン・ゴジラ』は、リアリティのない特撮作品に徹底したリアリティを持ち込んだという点を評価していたわけですけど、『シン・ウルトラマン』に関してはそのリアリティ部分が後退してしまい、残ったのは掘り下げられない人間ドラマだけになってしまったので、あまり評価出来なかったんですよね。ところが、今作ではさらにリアリティが前線からの撤退をしており、残ったものはペンペン草一本生えない荒れ地になってしまったように思えました。前2作にあったぶった切るようにスピーディーな編集も、ただ端折ったもののように見えてしまっています。
 
 作りとしては、かなり昭和の仮面ライダーを踏襲したもののように思えます。ジャンプしての宙返りや、戦っている最中にカットが切り替わると、急に場所が変わっているなど、古い映像で観た事ある場面演出が満載でした。
 ただ、それに対して新しい点があるかといえば、さほどでもないんですよね。あまり、現代で新たにやる意味が見い出せないものになっています。本郷が人非ざる者になってしまった自分に悩むシーンも、原作漫画の石ノ森章太郎イズムに忠実なものとして入れてはいますが、さほど本筋に入り込むこともなく、なし崩し的に迷いを吹っ切っているので、何がしたいのかよくわかりません。
 
 強いて挙げれば、複雑なSF設定部分が旧作にはない要素だと思いますが、これも大して物語の本筋に必須とは言えない部分なので、聞き飛ばしても何ら影響が無いんですよね。そのうえ、設定部分の説明が多いルリ子を演じる浜辺美波さんは、申し訳ないですけど、活舌の悪さが気になってしまい、説明台詞が全く耳に入ってこないんですよね(さ行がかなり言い辛そう)。このキャストの時点で致命的ではと思ってしまいました。
 
 肝心のストーリー面なんですけど、人類社会が危機に脅かされているけれど、結局のところは家族間の関係性の話に帰結していくんですよね。それって結局『エヴァンゲリオン』でやってたことじゃあないですか。敵の目的は結局のところ「人類補完計画」だし、ラスボスの動機や存在感も碇ゲンドウぽいし、ヒロイン的なルリ子が感情をあまり出さないのは綾波レイだし、何か手癖だけで脚本作っている感じがしてしまうんですよね。
 同じモチーフを繰り返す作家性もあるとは思いますが、あれだけ完結アピールした『シン・エヴァ』の後でやられても、繰り返される徒労感が半端じゃないんですよ。
 
 無理繰り良い点を挙げるとすれば、オーグのバイオ機械的なデザイン、サイクロン号のメカ描写なんかは流石の仕事ですね。アニメ的なCG部分はおっと思わせられました。
 ただ、格闘シーンでのCGにしろ、実写にしろ、ニセモノ感が凄まじかったです。昭和ライダーを忠実に作ろうとして、特撮的なチープさを狙ったのかもしれませんが、どうしても効果的には思えませんでした。

 ショッカー構成員が夥しい流血をするのも、新たな演出かもしれませんが、どういう人たちが死んでいるのかわからないので、きちんとした暴力の描き方になっていないんですよね。しかも敵側しか血が流れないというのも、あまり感心しないものです。一般人を巻き込む場面もわずかにありますが、さほど酷い行為は行われないし、そもそも、ショッカーがどの程度社会に影響を与えている組織なのか、今一つ伝わらないので、危機感が伝わってこないんですよね。
 チープさを狙ったなら、B級ユーモアとして受け止める手もありますが、あんまりそこは狙っているようにも感じられないんですよね。だから、ツッコミを入れたり、文句を垂れて笑ったりする楽しみ方も出来ないものになっています。
 
 結局のところ、仲間内で手弁当なインディー制作のような作りを狙った作品なのかなと思ったんですけど、先日放送された撮影時のドキュメンタリーではかなりシビアな撮影空気になっていたようですね。そのドキュメントは未見ですが、その日々を経てのこの作品の出来というのはキツいものがあるように思えます。
 
 ただ、これで庵野監督の才能が枯れたかと言うと、そんなことは無いと思います。完成したもの全てが満足いくもの、全てが受け入れられるものということはあり得ないわけなので、ここが通過点だったと納得できる作品を、またいつか作ってもらいたいと願うばかりです。


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