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松のおじちゃんと梅のおばちゃん、そして竹のおれ

梅崎信一さんと何度も連絡しながら形を作っていく。
おれの家で覗き見パフォーマンスをする事が決まり詳細をどんどん詰めていく。ユニット名、日時、覗き見のルールなどどんどん決めていく。

タイトルはそのまんま、おれの家の

「青葉荘 竹」


そして、この家での体験も交えようといろいろ振り返ってみた。


青葉荘は松、竹、梅、桜(なぜ?)の4部屋。
一階は今は閉まっている駄菓子屋(のちにここを使って駄菓子屋をするのは先の話)と版画教室。

松には高齢のおじちゃんが住んでいて、竹はおれで、梅には高齢のおばちゃん、桜は一階の版画教室が物置としてつかっていた。

松のおじちゃんはけっこうボケていて、あまり会話は出来なかったけど、けっこうな頻度でドアが開いていたので挨拶したら笑顔で返してくれていた。

このおじちゃんは目の前の公園で子供達が遊んでるのを見るのが好きで、しょっちゅう子供達を見てニコニコしているのを見かけた。いい笑顔だったなぁ。

ある日飲み過ぎて昼位まで寝ていたらドアの向こうがドタバタうるさい。

何事かとドアを開けたら、茶髪の若い兄ちゃん達が土足で松のおじちゃんの部屋を出入りして階段を上り下りしている。


※一応説明すると青葉荘の2階は階段上がって靴脱ぐところがあり、それぞれの部屋という家の作りになっている。


寝起きのおれが一番に思ったのは


「靴脱げよ!」


なんか腹立ってきたんだよね。

でもだんだん脳が起きてきたら事の異常性に気づいてきた。なんで松のおじちゃんのところに何度も出入りしてるんだ、それも土足で…

茶髪の兄ちゃん達は汗流しながら一生懸命だったのでとりあえず階段降りて、冷静になろうと外に出た。

そしたら軽トラがあり、そこに少し話しやすそうなおっちゃんがいたので聞いてみた。

「何かあったんですか?」

「あ〜亡くなっちゃんたんだよ、だから遺品整理」


その若い兄ちゃん達の仕事は早く、あっという間に遺品整理を終えて軽トラは颯爽と去っていった。

階段を上がり靴を脱いで、若い兄ちゃん達の靴跡に憤りを感じながら、部屋に帰ろうとしたら松のおじちゃんのドアが開いていて中が見えた。

そこには何もなかったが、松のおじちゃんが万年床で敷いていた布団の場所の畳の色が変色していた。


梅のおばちゃんとはしょっちゅう顔を合わせて挨拶したりいろいろ話していた。

おばちゃんはりんごが好きで実家の長野から送られてきた際は毎回隣にもっていくと喜んでくれてお返しにと煎餅とかもらったりもしていた。

おれは基本朝早く家を出て夜遅くに帰っていた。

それは単純に家にいたくなかっただけなのだが、梅のおばちゃんはそれを勘違いしていた。


「あなたは働きもんだねぇ。朝早くから夜遅くまで。本当に感心するよ」


「いやいや違います。そんなに働いてないですから」


「いいって、いいって。これ持っていきな。今日も頑張ってね」


こんなやりとりを何度もしていて、その都度甘い飴だったり、チョコだったりを貰っていた。

勘違いだとしても東京でおれの事をこうやって褒めてくれるのはこの梅のおばちゃんだけだったので毎回ちょっと嬉しい気持ちになっていた。

時には夜遅く酔っ払って帰ってきて家で大きめな声で電話したり、その当時つき合っていた彼女を家に泊めたりして、うるさかったと思うけど、隣の梅のおばちゃんが文句をいってるのは聞いた事がない。

松のおじちゃんが亡くなってからはここに住んでるのは実質二人なので(桜は物置)共同トイレも暗黙のルールみたいなのが自然と出来ていた。

掃除はおばちゃん

トイレットペーパー購入はおれ

これも話したことはないけど自然にそうなってた(これは今考えるとなんか凄い)


青葉荘はどの部屋もエアコンが付けられないので夏が一番住みにくい。恐ろしい暑さになる。

朝早く出て涼しい夜に帰るおれでさえ暑さでやられそうになる。

梅のおばちゃんは夏でも仕事が終わったら夕方前には家にいてドアを開けて扇風機にあたっている。

タフだなぁと常々思っていた。

ある夏の時期おれは台湾に1ヶ月ほど滞在制作に出て家を留守にした。

日本に帰ってきて、いつものように部屋に入り疲労のあまり速攻眠った。

例の如く朝早く起きて家を出たら近所のおばちゃんがなぜか話しかけてきた。

「大変だったねぇ」

「え?何がですか?」

「いや、おばちゃん亡くなっちゃったでしょ」

「え、どういう、おれいなかったんで」

「そうなの。なんかけっこう時間たってたんだって〜〜」


後半はなんかよく覚えてない。
そのおばちゃんもいつの間にかいなくなってた。


え?亡くなったの?梅のおばちゃんが?


階段を登り靴を脱ぎ梅の表札がかかってるおばちゃんのドアを見つめる。

なぜかわからんがおれはドアをノックしていた。


「おばちゃん〜!おばちゃん〜!」


ドアノブに手をかけてガチャガチャ回してみたが開かない。鍵が閉まっている。

おれは何をしているんだろう。


近くに住んでる大家さんに聞きにいった。

職場から電話があり大家さんが発見したらしい。


この日は家に帰る気にならなかった。


自分の中では梅のおばちゃんとは毎日って位ドア越しに顔合わせて挨拶して少しお喋りする…なんていうんだろう…友達?違うなぁ…親しいお隣さん?…う〜ん…このボロい青葉荘の仲間って表現が一番合ってる気がする。


そんな人が亡くなって松のおじちゃんの時より喪失感がジワジワ胸を覆ってきた。

次の日家に帰った。

もうおれしか住んでない家に。

昼間は意外となんともなかったけど夜がとてつもなく寂しくなっていくのに気づいた。

両隣が孤独死という体験はなかなかないんじゃないかとむりやり笑って、むりやり眠りについた。




体験を振り返っていたらこんな事を思い出した。
覗き見パフォーマンスに活かす事ができるのだろか?

思い出していたら長くなってしまった。そしてやはりちょっと寂しい気持ちには今でもなるなぁ。



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