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小説 やわらかい生き物

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記事一覧

小説 やわらかい生き物 11

小説 やわらかい生き物 11

縁結び
[1]

「2時間は短いな」
「え、じゃあいつも何時間かかってるんだ?」
「いや、私は今回は2時間で充分だったけど?」

ちゃんとみんな、集合した。
というか、時間前に揃った。
時間を優先するタイプだった。
しかし、
「次は?」
何するんだっけ、どこ行くんだっけ、とグダグダになっているのは疲れている証拠だ。
時間を決めて過ごすっていうのは、切替が上手く出来ないと、前の事を引きずったり、次の

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小説 やわらかい生き物 10

小説 やわらかい生き物 10

コーディネート
[1]
物事を調整することは、毎日気付かずに続けていることだ。
夕食の献立を、冷蔵庫の中身だけで組み立てたり、風呂が沸くまでの時間で明日の服装を考えてみたり。

当たり前すぎて、それが、「誰でもできる簡単な事」だと認識されている。
努力も要らない、誰でも自由に、好きなように「出来ること」

そんなものは、本当に共通にあるとしたら、生命活動だけだと思う。
呼吸の仕方を、改めて考えたこ

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小説 やわらかい生き物 9

小説 やわらかい生き物 9

転々と吉
[1]
ぼやぼやしているうちに、来週の予告になる、もう後半過ぎているのでただ流しているだけ。祐介くんにいたっては部屋に積んである本をめくっていた。

「聞き方悪いけど、今日何かの話があったんじゃ…」と僕が口にすると、彼はハッとして、今思い出しましたな表情をしていた。

「すみません、居心地良すぎてちょっと忘れてました。普段、人といるとこうならないんですがねー、えへへ~。」

手にあった本

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小説 やわらかい生き物 8

小説 やわらかい生き物 8

仮隣
[1]

「そろそろこちらでの仕事も終わるね、助かったよ、また頼むことがあった時には、よろしくお願いしますね。」

そろそろ盆になる頃に、僕の仕事は終わりになるようだ。また頼まれたら伺います、とすんなり言葉を返すことが出来た。

彼女と最後ランチを食べてから、僕は少し自分を見直してみた。

砂の落ち切った砂時計をひっくり返し、僅かながらに周囲に気を配り、その様子を見た。

自分には接点の無さ

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小説 やわらかい生き物 7

小説 やわらかい生き物 7

影響変化淘汰

[1]
「おや、一人?」

後日、というか、わりと足繁く例のカフェに食事に来ていたある日、宮坂陽菜と会った。
先に席に居た僕に彼女が気付いた形だが、相席することになった。

「今日は、一人?」と僕も尋ねる。
内心は緊張感が糸を張る。あれ以来会ってないし、連絡先を交換することもなく、しかもあの話の流れから、支払いは彼女がしてくれたのだ。

お礼の仕様もなく、ごちそうさま、などとありき

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小説 やわらかい生き物 6

小説 やわらかい生き物 6

気の置けない人と

[1]
 食事も半ば終わり、それぞれに食後のデザートやら紅茶やらが運ばれて、ようやく初めまして、と相成った。

「自分が、宮坂祐介、動物看護士見習い、27歳、で。」

「あたし、宮坂陽菜、修士課程理系、まだ就職は考え中です、そして、飯田朝陽ちゃん、なんともうすぐ30歳、見えないよね、可愛いでしょう? 」

朝陽は、まだケーキを食べていて、ぺこりと頭を下げる。確かに、三十路という

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小説 やわらかい生き物 5

小説 やわらかい生き物 5

巡り合わせ

[1]
 昼食もまだと言うことで、ランチタイムに滑り込み、ピークを過ぎた店内の、ゆったりした席へ案内された。

値段も手頃だし、プランも豊富だった。
また来るかはわからないが、一人でもいいレイアウトで、僕としては気に入った店だった。

食事の注文も、あれこれ悩むのかと思った女性陣は早くに決まり、意外なことに彼が一番悩んでいたことには、笑みが漏れたし、初対面でのこの場の和みは、心地良か

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小説 やわらかい生き物 4

小説 やわらかい生き物 4

軌道を描いて

[1]
『何かいいことないかなぁ』
『誰か好きになってくれないなぁ』

たまにではあるが、結構耳にする会話ではある。
「キミはそういう会に、参加してみたの?」
と繋がるのはよくある返しだろうが、そういう会に参加した結果、自分に合わなかったらそれはそういう「待ちたい、見つけて欲しい」と言う気持ちにもなるのは、誰でも一度は覚えがあるのではないだろうか。

学校ですら、全員仲良し、なんて

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小説 やわらかい生き物 3

小説 やわらかい生き物 3

違いは個性か?

[1]
他人が目に止めないことがある。
それは、見えているが、重要でないもの、興味のないもの、気づくことすら出来ない小さいもの。

しかし、目に留まる人には、理由もなく目に入るものだったりする。
小さな小さな花だったり、色だったり、文字や形、意味を持たないものだとしても、視界にはくっきりと映り、記憶に蓄積される。

後にそれが、発見だったりして初めて注目、評価になるのだけれど、大

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小説 やわらかい生き物 2

小説 やわらかい生き物 2

慣れない土地

[1]
「出張…と言うか出向ですか?」
 滅多にないことなので、少したじろいだ。
なにしろ、今の職種は会社という現場に来ようが、家でも出来る、他の場所に行くことは滅多にない。

まして、旅行すらあまり出ない自分に対し、そのような指示が出るとは思いもしなかった。

とはいえ、上司も先方の申し出なので当人に確認してみる、と配慮をしてくれた。

苦手としている事を理解してくれる人間だから

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小説 やわらかい生き物1

小説 やわらかい生き物1

心の在処

[1]
クラゲには心臓がないらしい。
でも生きている。
フワフワしているようで、あれはキチンと決まった動きをしている。

それが「鼓動」と同じになる。
クラゲには脳がないから目的もなく生きてるのか? 
 ちょっといいな、と、僕は思い、見つめていた、真っ直ぐな水槽を。

単純な造りをしている生き物には、余計なものがない。
生きることだけを、そして命を繋げていくことを、生まれて死ぬまで繰り

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