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小説 やわらかい生き物 11
縁結び
[1]
「2時間は短いな」
「え、じゃあいつも何時間かかってるんだ?」
「いや、私は今回は2時間で充分だったけど?」
ちゃんとみんな、集合した。
というか、時間前に揃った。
時間を優先するタイプだった。
しかし、
「次は?」
何するんだっけ、どこ行くんだっけ、とグダグダになっているのは疲れている証拠だ。
時間を決めて過ごすっていうのは、切替が上手く出来ないと、前の事を引きずったり、次の事が頭に入らないままになってしまう。
「休憩しよう」
「あ、アイス食べたい、買いに行っていい?」
「私も」
「俺もなんかシュワッとしたやつ飲む」
「ベンチないかなー、空いてればなー、あった!じゃ、場所取りで祐ちゃん居てね、シュワッとしたもの、買ってくる!」
朝陽さんが決めてそれぞれの欲しいものを持ってベンチに座る。横に4人並んで、休む。
「大助さん、何持って来たの、紙袋、重くないの?」
「重くないよ、ちょっと包装が嵩張っただけ。重くないから、渡していい?」
誰がどれって決まっていないので紙袋を開いてそれぞれ手を出して持っていってもらう。
「絵手紙を始めるのかな?」
「いや、スケッチブックじゃないの?これは。」
「可愛らしいね!」
「自由に使えるんだけど、切り取りも可能らしい。だから、絵手紙でも正解なんだけど、紙質で言うと色を付けるには薄いんだって。
メモ帳だと少し味気ないけど…ちょっといい落書き帳のつもり。僕から、…感謝の意で。」
「つまり…餞別ですか?」
そう呟いたのは朝陽さんで…、餞別…?まぁそうとも言え「餞別にはさせないですよ!」「そう!住所教えてもらいますから!描いたら送るんで!」食い気味に祐介くんが繋ぎ、「それじゃあ神前にご報告兼ねて、行こっか」と陽菜さんが締めた。
[2]
「どうして、こう、坂の上なんだろうね。」
「階段よりは楽なんだがね。」
「階段だと、あの、じゃんけんのヤツ、やりながらなら、登ってる気持ちより、ラクなんじゃないかな。」
「いや、もうこの体力じゃ無理」
「あのじゃんけんのヤツ、グー出して勝つって、まさに、ウサギとカメだなって、思って、気付いた時、カンドーしたわ」
「それは考えたことも、なかった」
祐介くんが喋りながら歩いているので句読点が息継ぎである。
僕は先に無言で着いてしまったので、 様子を上から聞いている。神社は好きだ。でもここは、自分がたまたま来た場所だからか、狛犬や、お稲荷さんなんかも、目新しく見える。
由緒ある神社もあれば、移されてしまった神社もあるけれど、そこには人の畏怖が残っていれば大丈夫な気もする。
田舎なんかは、なんだかわからない祠が無造作にあったりしたけど、誰かが見ている感じがした。
名前も理由も、詳しく残らないのは、危ういけれど、「なにかのために、ここにある記し」なのは伝わるはずだ。
そういえば、朝陽さんが僕を見付けたアレも、なにかを記した場所だった。
手水舎を済ませ、鳥居をくぐり、賽銭を入れて、神前礼拝を済ます。
「いつも、来るの?ここ」
僕以外はこの街に住むのだから、そうなんだと思っていた。
「違うよ。あれ、あれをみんなでお揃いにしたいな、って思っていたの!」
社務所を指差し、朝陽さんが示していたのは、シックな御朱印帳だった。
今はどこの神社も、独自のデザインやらでちょっとした流行みたいになっている。
本屋にもあるくらいだ。
「最初は、せっかく逢えたのだもの、同じ神社で来ましたから、よろしくお願いします、って言っておいたら、違う神社へ行った時だって名前言うのでしょう? わかるかなって。」
「はしゃぎ過ぎでよくわからなくなってるよ、ちょっと落ち着いて。」
「はい。えーとね。
神社で参拝する時は、朝陽が来ました~、って感じなの。
で、違う神社で陽菜ちゃんが参拝したら、神様の集まる月とかに、朝陽と陽菜が来てましたよって話題になればいいな、と思いました。
それぞれが、何処で参拝しても、みんなをよろしくお願いします、って言っておいたら、私達はお互い安心でしょ?」
なるほど~。
そういう感じなのか。
「じゃあ、絵手紙もそれぞれの神社の狛犬描くか。いろんなのが居るらしいぞ。」
「遠足か…」
御朱印帳と、あと、ここ特有の花福鈴を記念に購入し、いきなり僕らはスケッチタイムを過ごした。
15分という、時間制限付きで。
それこそ、持てる集中力を発揮してなんとかカタチにはなった。
夕暮れになっても、太陽の光が伸びて来る。
夏至はとっくに過ぎて、日没までの時間が長くなった。
いつまでも、残業出来てしまいそうだと感じたのは、いつからだろう。日は長くても、いちにちの時間が変わるわけがないのに。
眩しい光を避けながら、坂を下り、裏路地に入ってみたりして、僕らは時間を使っていた。
ひとつ、不思議だったので、朝陽さんに聞いてみた。それは、祐介くんすら、意外だったらしく「お揃いにしたいって珍しくない?」が一致した。
「たぶん、仲間だなーって思うから。仲間ならきっと、友達や知り合いとは、違いそう。私、友達居たけど、ちょっと流されてて、ただその場にいただけだったかもで、友達同士似たようなことするの理解できなかったけど、なんかね、この出会いは、必要だったんだよ、って、後になっても解るような何かをしたかったんだよね。」
時間が経てば私にもわかる事もある、と朝陽は強めに言った。
みんなで同じものを好き、そういう時もあるしそうじゃない時もあるの、いつまでも一緒と思っていたら、離れ離れってよくあるの、覚え方も思い出になる事も、人それぞれ違うんだろうけど…、同じ物を見た時は同じ場所と人を思い出す確率はあがる…んだよね?陽奈ちゃん!
と、最後は誰に相談したかバレる発言をして、陽菜はわざとらしいピースサインをこちらに向けた。
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