【CROSS TALK vol.1】AIは人の仕事を奪うの?識者が語るわたしたちの仕事の未来とは 前編
最近、世の中でますます話題になっている生成AI。
それとともに議論されることが多いのが、AIの発展や普及によって人の仕事が奪われるということ。その真相はいったいどうなのか?UI/UXデザイナーの深津貴之さんを招き、日本を代表するプロダクト開発のエキスパートであり、アドビ エグゼクティブフェローの及川 卓也、アドビの西山CDOとともにざっくばらんに語ってもらいました。
その様子を前編・後編としてお届けします。
対談メンバーご紹介
1)AIは人の仕事を奪うの?皆さんの考えを聞かせてください。
深津:まず、「人の仕事を奪うという」言葉の 定義があるといいなと。 たとえば、Photoshopの切り抜きツールも 仕事を奪うし、自動車も人の仕事を奪ったと思います 。もっと時代をさかのぼれば、包丁とか火打ち石だって人の仕事を奪ってきたと思うんですよ。
西山:Photoshopで画像の切り抜きをする仕事を専門にしていた人がいたとしたら、今はその仕事がなくなっているかもしれないです。ですが、それはそのテクノロジーの進化に伴うスキルシフトみたいなこともセットで論じるべきことで、AIが人の仕事を奪うというのは、基本的にそれと似たような話なんじゃないかと思います。
深津:人の仕事が移動するということですよね。別のタスクや別の職種、別の産業に時間軸でシフトしていく。 なくなるっていうのはニュアンスが違う気がしますね。
及川:やりたくないけど、やらないといけない仕事は世の中に溢れているわけですよね。他に手段がないからそれを人が一生懸命やっているのですけれど、AIがやってくれるっていう捉え方はできるわけです。その分には、極めてポジティブですね。
付け加えると、その仕事に対しての価値は少なくなるかもしれないけれど、自分がやりたいんだったらやり続ければよくて、代替手段が出たからといって、その仕事をやっちゃいけないとか、その仕事がなくなるということはないのかと思います。
2)生成AIは幅広い人が使えるツールです。クリエイターの仕事まで脅かしてしまうのでしょうか?
深津:絵を全く描けない人が画像生成AIを使っても 、きれいな画像は生成できるかもしれない。けれど 適切な画像をつくるのは難しいです。また、 きれいな画像を生成しても、その中から どれを使うべきかを見つけるのは難しいですよね。
仕事でグラフィックを扱ったことある人はみんな感じると思うんですけど、求められているのは きれいな絵というより 、 適切な絵だったりするんですよ。なので、画像生成AIがあるから 描く仕事がなくなるとか、写真家が必要なくなるとか 、そういうことはあまりないかなと。まだ現段階のテクノロジーレベルだと、そんなことは起こらない 印象はあります。
及川:審美眼のようなものがないと、生成AIがつくったものを使うのは現時点では危ないと思っています。ちゃんと自分のテイストを持ち、審美眼を持ち、それで生成AIに接したならば、もともとクリエイティブを行っていた人のレベルが一気に底上げされていく可能性は秘めていると思います。
3)生成AIは、プロンプトを上手く入れないと思い通りのものが返ってこない面もあります。今後、プロンプトに代替するものは出てくるのでしょうか?
深津:プロンプトを入力する方法は、そんなに寿命の長くない技術だと思っています。 プロンプトのつくり方そのものには、力を入れない方がいい気がしますね。
西山:僕もそう思います。アドビでもプロンプトの指示を元に画像を生成する、Fireflyというサービスがあるんですけど、実際アドビが目指しているのは、それが最終形ではなくてたとえばphotoshopに実装して、空白を広げた画像に指示をすると、その元画像を参照しながら空白を埋めた画像ができるようなものです。
深津:おっしゃる通りで、実際、Adobe的な生成AIがやることって不要な部分を消しゴムツールで消して、あと何か加工して終わりみたいの。 プロンプト で画像をゼロから生成するとか、Adobeさんにはそういう使いかたのツールはあまり期待しないかなって 。
西山:プロンプトは生成AIに意図を理解させる手段の一つではありますけれども、そこを通過しないと何もできないとかは違うと思うんですよね。
及川:生成AIの使い方は、今お二人が話したみたいにゼロから何か生み出すパターンと、既にある素材をさらに加工をするという使い方があると思います。で、後者に関して言うと、期待するのは自然にツールの中に溶け込んでいって、もはやプロンプトエンジニアリングと言うまでもなく、わずらわしい操作を一切しないで、単に自然言語で指示を出せば思い通りのものが出てくること。その可能性はあるし、そこは期待しています。
深津:一般ユースではプロンプトという概念は、そもそもなくなるかもしれない。あるいは限りなく透明 に近づくと思っています 。1枚の画像を修正するごとに何百文字も 細かく文章を作成するほど 、人類は まめな生き物じゃないと思うんですよね。
西山:そういった機能は、世の中に可能性を見せられる実例になりそうですね。今、世の中でバズってる画像なんかはいい例だけど、面白い以外に何に使うの?みたいなところがあったりするじゃないですか。
深津:業務においてのソリューションたり得ないと思います 。現状はまだソリューションの種がある状況。 ここにどうやってサービスを乗せるか、インターフェースを乗っけるかっていうのがこれからの大きな課題かと思います。
及川:今の生成AIって、ChatGPTをはじめとする対話型のAIのできがあまりにも良すぎるので、まさにそこに自然言語ですべて語りかけることによって解決するっていうところだけがフィーチャーされていると思うんですね。
でもその前に、相手が人の場合、リアルにわたし、今までもデザイナーに自分の意図を伝えるのにとても苦労しているんですよ。サイトやプロダクトのデザインをするときに、わたしがあまりにもあいまいな感じの指示しか出せないときは、実在する画像などをデザイナーさんに見せながら希望を伝えることもある。実際のやり取りでさえ必ずしも言語だけではないのに、こうした生成AIを使うのにはもっと完成された自然言語が求められる。さまざまなものがやはりシードとして加わることによって、そこから上手く生成されていくっていうのが自然だろうなと思います。
深津:そうですね。おっしゃる通りだと思います。
4)イノベーションはビジネスで需要があってはじめて起こるとも言われます。今の生成AIはビジネスではどんな使い方があるのでしょう?
深津:デザイナー業務で考えるならば、今の業務 コストがヘビーなところから 生成AIで代替されると思います。いわゆる僕が考えるアドビさんがやってきそうな生成AIっていうのは消しゴムで消すだけで、そこの部分が適切な何かに入れ替わるような機能*だったり、マスクだったらマスクの方を生成するみたいな。そういったことが起きそうな気がすると想像しますかね。
及川:需要と供給のバランスがとれていないところに、供給側の方を一気に増やすことが可能なんだと思うんですね。わたしの専門のソフトウェア開発にしても、もしくはクリエイティブにしても、そのまあ冒頭の話で言うとAIに仕事を奪われるっていうような心配する以前に、もう供給不足だと思います。需給のバランスがもう圧倒的に足りていないので、もう奪ってもらって、どんどん供給を増やしてほしいという状況になっている。
例えばゼロからの生成っていう部分に関して言うと、人がやれない、やりたがらないようなところを安価なコストで個人でも生成できるようになるというふうに思います。
深津:すごいけど、自分ではやりたくない作業 とかありますよね。アニメで髪の毛を1本1本動かすとか。 AIならやれますよね。 仕事を奪うっていうよりは、なんかもう少し違う使い方 になってくんじゃないかと。
西山:あと、やりたくない仕事と言われると、バリエーション出しとかですよね。こんな感じの絵柄で似て非なるものを出すという要求に応じられるような。これができたら便利ですね。
及川:そうですね。今までも人が苦労してツールを使いまくればできたかもしれないし、最悪写真を撮りなおせばできたかもしれない部分っていうのが、一気に量産することが可能になっているという部分はありますよね。
西山:結局、そこに今までそのコストをかけたくてもかけられないところがあったり。歯を食いしばって頑張るところを生成AIでフォローできるんじゃないですか?みたいなのが、多分アドビが描いている未来のひとつの姿だと思うんですよね。
*本対談は、5月17日に実施されたものとなります。
*いわゆる僕が考えるアドビさんがやってきそうな生成AIっていうのは消しゴムで消すだけで、そこの部分が適切な何かに入れ替わるような機能:
本対談後の5月23日に、アドビはジェネレーティブ塗りつぶしの機能を発表しました。
▼今回のクロストークに参加した西山も参加する未来デジタルラボの詳細はこちらから