【#NIKKEI】DX推進は重要だが、提供価値に立ち返ることは、もっと重要

 引用いた記事の内容は、書店の物流にDX(デジタル技術を用いた革新)を行うというもの。具体的には、需要予測に基づいて発注を行い、返本数を減らすというもの。また、背景にはAmazonの出版社と直接取引や紙の出版物の減少、といったものがあるという。

本のPlace戦略の前提

 今回の焦点になっているのは、本の販売場所であるが、本自体の価値は購入場所によって変わることはない。あっても多少のキャンペーンの違いである。
 そもそも、同じものを売っているのだから、販売店の独自性を出さなければならないが、それも気持ち程度のポイントカードの持つ効果は薄いだろう。
 それぞれの価値について記述していく。

ECの価値と書店の価値

ECの価値
 
ECの価値であるが、リコメンド機能と膨大な扱い数、である。EC、とりわけAmazonの取引数は膨大であろう。こうした膨大な購買データを用いることで、消費者に最適な書籍をリコメンド、オススメすることが可能である。また、オススメする書籍を膨大な数から選定されるため、対応できないということもないだろう。
 つまり、ECにはデータを活用したマーケティング能力と扱い品目数に分がある。また、コンビニをはじめとして、受け取りに様々な選択肢が用意されている。確かに受け取りまでに多少のラグがあるものの利便性は十分である。

書店の価値

 書店の価値であるが、新しい出会い、であると思う。売り場面積は限定的であるから、書店員によって売れる本、オススメの本が並べられると考えている。
 そこで、Amazonと同じなら、正直、厳しいと思う。レビューも含めて、Amazonの上位に表示されるものは、ほとんどの場合、レビューなどで情報の取得が可能である。だからこそ、書店ならではの目利きでオススメの本を並べ、一言のコメントPOPを設置することで独自性が出るのである。

DXの落とし穴

 近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉に代表されるように、デジタル技術の活用を重点戦略として掲げる企業は少なくない。しかし、そこに落とし穴がある。よく分からないから、という理由でシステム開発を外注し、そして、デジタルが重要っぽい、という理由でDXを推進するのは失敗の再生産であり、非常に危険である。
 今回のケースの場合、書店が需要予測に基づいて発注したところで、取り扱う商品はAmazonと同じになるのではないか、という疑問である。そもそも、社会的なレベルでの購買データを有するのがAmazonであるから、不利な方法で同じ土俵で戦って勝てるのだろうか。総合商社ならではの秘策があるのだろうか。デジタル時代のオフライン書店の成功事例になる、というのなら難しいように思う。

私の考える書店のDX

 先にも挙げた通り、書店の価値は、新しい出会い、にあるように思う。そして、書店の強みは、大量の従業員を複数の地域で雇っていること。さらには、インタビューなどの顧客とのコミュニケーションが可能なことである。
 例えば、従業員同士の交流の場をオンラインで用意して、様々な情報や知見を全国規模で共有するのはどうだろう。データをとって統計処理によって行動指針を決める方法は確かに実効性は高いが、書店においては難しいように思う。
 他にも、インタビューをして、全国の高校生のオススメ参考書コーナー、全国のビジネスマンによるオススメビジネス書コーナー、などを作ってもよいと思う。
 一貫して言えることは、数値による合理的なものよりも、具体的な反応などを分析して改善していく、と言った方が良いのではないだろうか。

まとめ

 提供価値に立ち返ることで、DXは必要なのか/不必要なのか、答えが出てくるのではないだろうか。今回のケースでは、完全にAmazonの土俵にオフラインで入る、という恐ろしい行為に出ているように思う。インターネット上で注文すれば、明日には届く時代に、なぜ人は書店に行くのか、という問いにどれだけ答えられるかが、今後の書店の強さになるであろう。

#日経COMEMO  #NIKKEI

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