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伊藤華英さん(元競泳日本代表)と語る「楽しいからやる、じゃダメなの?」 【作戦タイム】No.5

メダルの色や数ばかり求める風潮は、知らずのうちに選手を追いつめ、スポーツ本来の魅力から遠ざかってしまう。
当事者たちも実感している、そんな矛盾を解消するには?

<スポーツ×人間社会>をつなげていくラジオ【作戦タイム】のシェア。日本学術振興会と大阪大学大学院の研究助成により、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構(ADCPA)がお届けしています。

MC奥村武博(ADCPA代表理事)×岡田千あき(大阪大学大学院人間科学研究科・准教授)。
ゲストは伊藤華英さん(競泳元日本代表)。プロフィールなど詳細はhttps://www.adcpa.or.jp/sakusen-time

ダイジェスト⇩

メダルが絶対の正解になればなるほど、悲壮感で逆効果

選手としても、裏方(組織委員会)としてもオリンピックに携わった伊藤華英さんは、スポーツの価値や在り方の新たなフェーズを期待している。
そのヒントは「スケートボード」。
 
伊藤華英さん
「スケートボードは、国対抗のメダルというより、素晴らしい技を賞賛し合う文化がいいなと思いました。私の時は、ライバルには手の内を明かさない感じだったけど、スケボーは自分の技をSNSに上げるし、楽しんでる感がいい。これがスポーツの在り方なんじゃないかなと思う。そもそもスポーツってやらなきゃ、じゃなくて、自分で選んでやってるはずなのに」

私は、結果出さなきゃでした。周りもみんなメダル狙ってるし、メダルが全て。それが大会間近になると、なんでメダル取らなきゃいけないんだろう、メダルって創られたモノだよね、とか考え出してわからなくなってきちゃって」
 
岡田先生
「日本は苦行が美徳みたいなのがあって、なんなんですかね、この日本のほぼ全員が挫折感を味わわせられる感じ…」
 
伊藤華英さん
「スケートボードは、メダルにこだわってないからこそ、突き詰める楽しさと友情もある。
競争自体はいいし、好きだから一生懸命やろうという雰囲気はいい。メダル取れなかったらダメという空気が良くなくて、メダルが絶対の正解となればなるほど楽しくないから取れなくなる。語弊があるかもしれないけど、自分が楽しくてやってる、というフェーズになればいいなと思います」

負けたらダメなの?戦力外通告、以上、終わり? 成績が全てじゃない

伊藤華英さん
「突き詰めていく選手を出すには、裾野を拡げなきゃいけない。技術、体力の成績が出ることだけが全てじゃないということを、小学生くらいから教えたほうがいいと思います。
楽しいだけじゃダメなの?うまい人だけじゃなくて誰もが楽しんでやれる場が日本にはあまりないですよね」

奥村
「野球の部活に入ると甲子園を目指す熱量が必須になってしまうから、勉強と両立できなくて部活をやめちゃうとか、ライトに野球を楽しむ場がないと聞いた。途中で別のことをやったり、気軽にできる環境や意識ができればいいなと。
どうせモノにならないからって保護者もいる。モノになるかどうかって…」
 
伊藤華英さん
競技力が落ちるとフェードアウトというシステム、『戦力外通告、以上、終わり』って、悲壮感で見られるのがおかしいと思う」

奥村
「戦力外通告という言葉の、こいつはもう使えない、みたいな印象が良くないですよね。僕も野球を楽しくやってたら成績が出たんじゃないかなと思ったりする」

「ガチ」も「楽しむ」も。もっと横断的に

伊藤華英さん
負けたらダメとか、一つのことに頑張らなきゃいけないという苦しさとか、運動は苦手だからできないって意識がスポーツ人口を減らしてしまう。ガチと楽しむを分ける環境や、スポーツには心身の健康とか大事なものがあることが根づいていない」
 
岡田先生
ガチでやるか、ダメならやめる、どっちかしかない。その判断も子どものうちでは早すぎる気がします」
 
伊藤華英さん
横断的になればいい。アメリカだと小学生までは2種目やらなきゃいけなくて最後に選ぶらしいです。オーストラリアのラグビーは素人が趣味でもできるディビジョンもあるけど、日本のラグビーだと、大学に行ってアスリートにならないと。誰でも気軽にできるチャンスはないですよね」

勝ちを目指すのはいいこと。大事なのは、
自ら望んでいるか、強制されているか

伊藤華英さん
「何度私は怒られたか。勝ちたいと思ってんのか!って。10代の頃は楽しくやってて、がんばってなかったから(笑)。
勝負するときってスポーツだけじゃなくて人生にはたくさんあるので、勝ちを目指すことも一生懸命やることも悪いわけじゃない。でも、負けたり力が落ちたら終わり、何もない、みたいな価値観を変えていかないと、スポーツやる人いなくなっちゃうと思う」

奥村
「元々はやりたくて始めたはずなのに、上に行けば行くほど勝利至上主義で苦しくなる。
勝つこと自体はいいことだけど、強制されてるのか、自ら望んでいるのか。上から言われたことが絶対ではなくて、自分がやりたくて選択するということが重要ですね。
スポーツによって備わる力もある、それがスポーツの価値だという認識も大事だと思う」

ノーカット音声はSpotifyで⇩
スケートボードに感じたこれからのスポーツの在り方(#2-3)
スポーツは、ただ楽しくやれるだけじゃダメなのか(#2-4)

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自分の中に「内発的動機」がないと、楽しくないし、力が発揮できない

【アディショナルタイム】 配信考記 byかしわぎ

私がかつて取材していたオリンピック選手からも、今回の伊藤さんと同じような心境を聞いた。
「メダルを取らなきゃ、がしんどい」
「メダルを取る意味って何だろう」
「昔は楽しかったのに」

競うこと、勝ちを目指すことで成長がある

アスリートに限らず、高みに挑もうとするからこそ、考え、工夫する。
失敗や負けから課題や学びが見つかり、その試行錯誤は必ず自分の糧になる。
ライバルの存在は、目の上のタンコブみたいに鬱陶しいこともあるけれど、競う相手がいてこそ、自分の強みや弱みがわかったり、自分の中から思わぬ力が引き上げられ、磨かれる。まさに切磋琢磨。

それは「勝利」や「メダル」だけが尊いのではなく、
「勝ちを目指す経験によって」得られる財産が大きく、人間としての成長はそこにあると思っている。
競技だけでなく、人生では「ここぞ」という勝負どころや、難局に直面することもあって、そんなとき力になるのは、こういう経験だったりする。

勝負を避け、自分の安全圏で安穏としているだけでは、なかなか得られないからこそ、「競う」ことはある程度、人に必要だと思う。

「勝たなきゃいけない」と「勝ちたい」は質が異なる

トップ選手ほど陥りがちな「勝たなきゃいけない」強迫観念。
トップに行けば行くほど、しのぎを削る熾烈な闘いになり、周囲の期待も過剰になっていくからだろう。

それ自体がますますモチベーションになる選手もいれば、自分を見失ってしまう選手も見受ける。
当たり前ながら、負けたい選手なんかいない。
勝ちたいか?と問われれば、望んでいる。
ただ、その「勝利への思いの質」は微妙に違って実はとても大事。

・自ら強く勝利にこだわってその闘争心自体がエネルギーになっているか、
・闘争心よりも、自らを突き詰める探求心の先に勝てることを望んでいるか。

後者だと、外野や上からの絶対勝利の強制は「圧」として"やらされ感"となり、受け身の「闘争心」に疲弊してしまう。場合によっては、好きだったはずの競技を嫌いになってしまうことさえある。

「楽しむ」とは、けっして「テキトーにラクする」ことではなくて、自らが望んで能動的に考え行動しているかどうかだと思う。
ヒリヒリ勝負が楽しい人もいれば、技を突き詰めることが楽しい人もいて、
仲間と共に体を動かすことが楽しい人もいる。

内発的動機がどこにあるかは人それぞれ。
それさえ合致すれば、人は自然と楽しく頑張れる。

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