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【LGBTQ研修×不動産会社】積水ハウスグループが取り組むダイバーシティ&インクルージョンとは?

企業経営のキーワードとしてよく聞かれる“D & I(ダイバーシティ&インクルージョン)”。多様性を認めて受け入れることを指す言葉です。
不動産業界においても推進に注力する企業が増えてきており、各社さまざまな取組みを行っています。
今回は、セクシュアル・マイノリティへの取組みの評価指標“PRIDE指標”の最高評価を4年連続受賞している積水ハウス株式会社にご協力いただき、住宅・不動産企業における試みをご紹介。

積水ハウス株式会社ダイバーシティ推進部の松岡優さん・森本泰弘さんに積水ハウスグループが推進しているD & Iについて、積水ハウス不動産ホールディングス株式会社の田中龍史さんにLIFULL HOME'Sアカデミーと加盟不動産会社向けLGBTQ研修を開催した背景と感想をお伺いしました。


PRIDE指標ゴールドを4年連続受賞 積水ハウスグループのLGBTQへの取組み

積水ハウス株式会社社長仲井嘉浩氏によるアライ宣言

――積水ハウスでは2014年からLGBTQに関する啓蒙活動をスタートさせたとのこと。この取組みを始めたきっかけを教えてください。

松岡:積水ハウスグループでは、あらゆる人権侵害や差別、ハラスメントを「しない・させない・ゆるさない」企業体質を強化するため、全従業員を対象にした“ヒューマンリレーション研修”を毎年実施しています。人権課題がいろいろとある中で、2014年当時、社会的に話題になり始めていたLGBTQをテーマとして取り上げたのがきっかけです。

同時期に、私も参加している、大阪を中心に約50社の企業のダイバーシティ担当者が集まる“ダイバーシティ西日本勉強会”という会合で、LGBTQに関する分科会ができたことも大きなきっかけとなっています。

積水ハウスグループの役員を対象にNPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さんに研修をお願いしたことを皮切りに、ヒューマンリレーション研修でLGBTQにフォーカスした年を設けたり、映画上映会を開催したりと、いろいろな活動をスタートさせました。
そうした活動を通じて、社内でLGBTQに関しての学びの場を提供しています。

――今でこそ積水ハウスグループでは会社全体に向けた活動が多く見受けられるのですが、当初はトップや有志の方々中心の活動だったのですね。

松岡:そうですね。活動を始めた2015~2016年当時は、まだ会社全体に理解が行き渡っていたとは言えないと思います。
ですが、今では積水ハウスグループの人権方針や企業倫理要項の中に、“性的指向”と“性自認”を追記し、非合理なあらゆる差別を行わない旨を公表しています。
また、中期経営計画においても、性的マイノリティの活躍支援をダイバーシティ戦略のひとつとして明記しました。

――具体的な活動として、どのようなことを行われているのでしょうか。

松岡:社内の取組みとしては、2019年9月から同性パートナーにも人事・福利厚生制度を適用させ、それに伴ってLGBTQ専用の社内相談窓口を設置しました。
そのほか、LGBTQアライ(※)であることを表明するステッカーの作成・配布、LGBTQ対応ワークブックやリーフレットの共有、ランチタイムに社内外から講師を招き学びの場を提供する“WEBランチケーション”の実施、LGBTQを主題にした映画の上映会の開催、各地レインボーイベントへの参加などに取り組んでいます。

また、社内施設に順次導入を進めている“だれでもトイレ”に、すべてのジェンダーを表すピクトグラムを掲示するようにもしました。

さらには、積水ハウス不動産グループに加盟する賃貸入居者を仲介する不動産会社(加盟店)をはじめとするビジネスパートナー様と共に、人権尊重の取組みを推進しています。その活動の一環として、お客様に記入いただく書類等には基本的に性別欄を記載しないように加盟店様にもお願いしています。どうしても性別欄が必要な場合には、“男性・女性・選択しない”という3択を用意するなどの配慮をしています。
続柄欄にも、それまで“配偶者”と記載されていた選択肢に“パートナー”を追加する、といった変更を行っています。

加えて、当事者団体へのサポートとして、LGBTQに関連した居場所づくりを行っているプライドセンター大阪の改装をサポートしたり、当社の社会貢献プログラムの寄付のマッチングシステムを通じて、認定NPO法人虹色ダイバーシティに寄付をさせていただいたりもしています。

――多岐にわたる活動ですね。コツコツ積み重ねてこられた印象を受けます。

松岡:まさにそのとおりで、まずは社内の理解促進から始まり、LGBTQとは何かを知ってもらうことと同時に、アライを増やす活動をしていきました。それに加えて、お客様に適切な接客やサービスを提供できるようにしようと実施したのが、先日行われた加盟店様向けの研修です。

※アライ……ally。協力者、支援者の意。

LGBTQ研修 きっかけはグループ全体の多様性に配慮した書式変更対応から

積水ハウス不動産ホールディングス株式会社

――ここからは田中さんにお伺いします。LIFULL HOME'Sアカデミーが提供する、企業向けのLGBTQ研修を今回開催されましたが、その経緯を教えてください。

田中:以前よりLGBTQを含む当社の多様性に関する取組みや考え方を加盟店の方々にきちんと伝えられていない、伝える場をつくれていないという課題がありました。
そうした状況から現場の改善策を思案し、積水ハウス不動産グループの加盟店様に向けた研修を行うに至りました。

LIFULLさんがFRIENDLY DOORの活動にLGBTQフレンドリーを掲げているのを知っていたので、以前から加盟店様向けのブランディングや接遇研修などでお付き合いがあったLIFULL HOME'Sビジネスパートナー推進部の担当の方にご相談し、株式会社IRIS様をつないでいただいた、という流れです。

積水ハウス不動産の賃貸事業に関わるグループ企業や社外の方たちも含めたLGBTQ研修は、これが初めての試みだと思います。

――相談の時点で、研修を行うことを考えていらしたのですか?

田中:いえ。当初は、既に積水ハウスグループ全体で行っているお客様の性別欄を削除するなどの書類の変更を、積水ハウス不動産グループでも規格を統一したら2022年8月から運用をスタートさせようと考えていました。
しかし、IRIS様との打ち合わせを重ねていく中で、「書式を変えるだけでは不十分。加盟店の“意識”を変えていかないといけない。そのためには研修が必要だ」と思い至り、書類の書式変更と研修の両方を行うことに決めた次第です。


実効性を高めるために 1000店舗規模にした背景

LIFULLHOME'Sアカデミーが提供するLGBTQ研修のご案内資料

――アップデートされた書類の統一と接客研修、2本柱とのことですが、どのようなゴールを設定していましたか?

田中:“形を統一するとともに、意識も統一する”というキーワードを掲げて、研修に力を入れました。
IRIS様より、「書類の書式を整えても、意識が伴っていなければ意味がない。現場の人たちの意識が伴っていなければ、かえってトラブルが発生しかねず、企業の価値を毀損することにもつながりかねない」とご指摘を受けました。
そのため、研修については意識の統一に特にウェイトを置いていました。

また、今回の研修は当事者の方々を含め、すべてのお客様がストレスを感じない接客をする店舗を目指すことを目的にしました。

――それにしても1000店舗規模はウェビナーとしてもかなり大きなものに感じます。この規模にすることは、発案当初から決めていらしたのでしょうか?

田中:実のところ、研修を行うからには、募集に関わる人全員に受けてもらう必要性を感じていたので、研修発案時は1000店舗よりさらに大きい規模の研修を複数回開催することを想定していました。
しかしながら、広く意見を交わしていくにつれ、「大規模なものを複数回やって終わり」とするより、意識変革の意志を示すためにもまずは大規模研修を1回開催し、その動画の配信を行うことのほうが効果的だと判断しました。
全員が受けやすい環境を整えて、かつ、継続的に開催することが重要だと考えたからです。

研修の成果は……?

IRISによるLGBTQ研修の様子

――今回の研修について、手応えを感じられましたか?

田中:はい。研修には、1000人が集まってくださいました。
1000人開催の枠に1000人が集まり、加盟店の方々が自分事として受け止めて持ち帰ってくださったこと。
そして、当事者の方々を含めすべてのお客様がストレスのないように対応することの大切さを、加盟店の方に伝えられたことが成果だと思います。

――実際に研修を受けられた加盟店の方々からは、どんな感想が寄せられていましたか?

田中:研修の参加申し込みの際にアンケートを取ったのですが、“当事者の方に適切に対応できるか?”という設問に、「自信がない」「できない」と答えた方が22%いました。
研修終了後に同じ設問に答えてもらったところ、それが2%にまで減少していたのです。つまり、98%の方が「対応できると思う」「多分対応できると思う」と答えたということです。
だからといって完璧に対応できるわけではないと思いますが、それでもそういう意識になってくれたというのは、よいきっかけになったのだと感じています。

――今回の研修を皮切りに継続した研修を行われるとのことですが、今後どのような取組みを進めていかれますか?

田中:直近では、LIFULLの担当の方にご協力を得て、今回の研修の動画を、積水ハウス不動産各社を通じて加盟店の方々に配信しています。
この動画は、当日に参加できなかった加盟店の方だけでなく、当日受講した方、積水ハウス不動産グループの賃貸に関わる全社員に共有し、受講漏れのカバーや研修の振り返りに活用してもらいます。

今回のLGBTQ研修が、加盟店の方々と協力してダイバーシティ&インクルージョンに取り組む本当のスタートです。

――ありがとうございました。


草の根的な活動を続けて世の中をけん引するリーディングカンパニーに

レインボーがデザインされた積水ハウス株式会社オリジナルTシャツを着てTOKYO RAIMBOW PRIDE2022に参加している様子

――田中さんの現場サイドのお話、興味深かったです。再びダイバーシティ推進部のお二人にお話を伺いますが、今後、積水ハウスグループとして、LGBTQの問題にどのように取り組んでいきたいですか?

松岡:当事者の不安や困難を理解し、自分事として受け止めてもらうように、草の根的に今後も活動を続けていきたいと思っています。
そしてLGBTQに限らず誰もが、何の不安も抱かずに過ごせる社会を目指していきたいです。そのためには、まずは会社から始めて、今後はお客様に対して、その先には社会全体にと、積水ハウスグループがD & Iのリーディングカンパニーとして世の中を引っ張っていきたいですね。

――LGBTQのお話をこれまで伺ってきましたが、より広義に住宅・不動産業界におけるD & Iの重要性をどのように捉えていらっしゃいますか?

森本:私たちの事業は生活や暮らしそのものを扱っているため、必然的に日本の慣習や伝統、文化などと根強く結び付いています。しかし、時代の流れや価値観の多様化などとともにそれらの中にあったバイアスもどんどん崩れてきています。
当事者のお客様一人ひとりに対して、固定概念にとらわれることなく向き合っていかなければ、企業価値だけでなく、お客様の幸せを損ねてしまうことにつながりかねません。

D & Iを実践するうえで、自分たちの意識や言動を変えていくことが、住宅・不動産業界、ひいては社会全体の変化につながっていくと思います。
そのためにも、当事者の方々の声を聞いて、どうしたら当事者もそうでない人も皆がストレスフリーな関係でいられるかを考え、行動することが大切です。

会社の中で意識や言動の変革ができていなければ、お客様とのストレスフリーな関係の構築はできません。そのためにも、社内外を含めて取組みを継続していけたらと思っています。

おわりに

「会社が社会課題の改善として制度化したものを社員が利用していくうちに、次第にそれが当たり前のことになって、意識の変革が起きているように感じます」―インタビュー中、一社員の実感として、田中さんはおっしゃっていました。
松岡さん、森本さんの「草の根的に活動を繰り返して定着させていく」という意志と継続的な取組みがあってこそ、田中さんの言葉が出てきたのだと思います。
小さくても歩みを続けることが、次第に大きな輪のイノベーションになる。社会課題を知り、できることから始めてみることでも、幸せになる人が増えるはずです。


プロフィール

森本さんプロフィール

森本泰弘(もりもと・やすひろ)
1997年に積水ハウス株式会社に入社。一戸建て住宅・賃貸住宅の営業を経て、2001年より広報部でプレスリリースの配信や報道機関からの取材依頼などに対応。2012年より総務部で災害対策をはじめ通信環境・機器等の改善等を実施し、2018年からダイバーシティ推進部にて女性活躍の推進や働き方改革、男性育休の取得促進などを担当、現在に至る。

松岡さんプロフィール

松岡 優(まつおか・ゆう)
2010年、積水ハウス株式会社に入社。一戸建て住宅の営業などを経て2014年より人事部にてダイバーシティ推進に従事し、LGBTQの理解促進を目的とした研修の実施や同性パートナーの人事登録制度導入に携わる。2021年、ダイバーシティ推進部に異動し、さらにLGBTQの課題解決に向けた取組みを加速させている。

田中さんプロフィール

田中龍史(たなか・りゅうじ)
2002年に積水ハウス不動産東京株式会社(旧積和不動産株式会社)に入社。神奈川県県央・湘南エリアの賃貸営業を経て、2014年より湘南エリア賃貸営業所長~東京城南エリア賃貸営業所長を担当、2018年より経営企画部、2020年に再び東京城南エリア賃貸営業所長を経て、2021年に積水ハウス株式会社仲介賃貸事業部に出向、2022年2月より発足した積水ハウス不動産ホールディングス株式会社にて賃貸事業推進を担当、現在に至る。


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