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不動産企業のDE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)大東建託グループの取組み

SDGsの広まりも後押しし、「ダイバーシティ(Diversity・多様性)」「エクイティ(Equity・公平性)」「インクルージョン(Inclusion・包括性)」の重要性が学校教育やメディアで取り上げられるようになりました。企業間においても、DE&Iへの取組みが企業価値を高めることにもつながっています。

今回は、大手不動産会社 大東建託グループの取組みにフォーカス。グループ内で推進されているダイバーシティ事業の各担当者にプロジェクトの内容や運用の舞台裏などを伺いました。


入居者様ダイバーシティに向けたグループを横断した取組み「Open Room Project」

Open Room Projectのとりまとめ役を務める、大東建託パートナーズ株式会社 マーケティング企画部 部長の櫻庭沢海さん

――Open Room Projectとはどういったプロジェクトなのでしょうか?
 
櫻庭さん:賃貸においてお困りごとの多い「LGBTQ」「高齢者・障がい者」「シングルマザー・ファザー」「外国籍」の方々に寄り添い、入居者様のダイバーシティに向けた、グループ会社を横断した取組みです。
私が所属する大東建託パートナーズ株式会社(以下、パートナーズ)は大東建託が設計・施工建築した賃貸住宅の管理会社です。あらゆる人々が安心して暮らせるよう、建物だけでなく、ソフト面でもサービスを提供していけたらという視点で推進しています。 

引用:大東建託2023年4月18日 ニュースレター「【ダイバーシティ】入居者様ダイバーシティに向けた新たな取組みを開始 『Open Room Project』で十人十色のくらしをサポート」

――Open Room Projectはどういった経緯でスタートしたのでしょうか?
 
櫻庭さん:Open Room Projectは2024年6月に大東建託が創業50周年を迎えるにあたり、お客様に対するダイバーシティ推進が発案されたことから始まりました。
2022年10月ごろに大東建託グループ各社で選出されたメンバーによるチームが発足し、翌年4月から具体的な活動がスタートしました。
このプロジェクトでは管理会社のパートナーズと賃貸仲介会社である大東建託リーシング株式会社(以下、リーシング)が主導となって、メンバーが各自課題を持ち寄り、共有・分析し、我々ができることを精査して具体的な内容を詰めていきました
 
できること、できないこと、段階的に進めるべきことや、実施するための具体的な計画も立てていきました。これにより、幅広い層のお客様に対応できるような取組みが実現されました。
今後も新たな課題が浮かび上がった場合は、既存のサービスの運用に並行して柔軟に対応していく予定です。

――パートナーズの場合、物件オーナー様とのお取引もあると思います。オーナー様からの反応はいかがでしたか?
 
櫻庭さん:オーナー様に向けては、Open Room Projectのニュースレターの配布や、オーナー様の代表の方をお招きして報告会を開催しました。
報告会では「こんな取組みもされているのか」と称賛の声をいただいています。
 
――素晴らしいですね。ただ、オーナー様の中には、外国籍の方の入居や高齢者の方への拒否感がある方もなかにはいらっしゃると聞きますが、そういった場合の対応はどうしていますか?
 
櫻庭さん:確かに抵抗感のある方はいらっしゃいます。ですが、お一人ずつ丁寧に説明してご理解いただくよう努めています。
例えば、パートナーズでは4年ほど前から外国籍の方の入居に関して特に取組みを強化しており、オーナー様から外国籍の方の入居の同意を得ているかを確認しています。
管理物件の社内データチェック時に、「外国籍の方入居不可」であることが判明した場合、その理由をヒアリングし、ご納得いただけるよう説明しご了承をいただく活動をしています。
 
石川さん:補足させていただきますと、国籍だけを理由に入居をお断りすることは人種差別にあたり違法、と既にいくつかの判例が出ています。とはいえ、オーナー様からすれば「家賃はきちんと払ってもらえるのか」とか「生活マナーは守ってもらえるのか」等、不安な点があると思います。
そこに関しては、リーシングもパートナーズも6言語それぞれに精通したスタッフがきちんと説明したうえで、理解をいただいてから入居契約することで、トラブル回避に努めています。そういった安心を担保したうえでオーナー様には外国籍のお客様の入居に理解をいただいています。
結果として、現在では管理物件の約99%のオーナー様に外国籍のお客様の入居について承諾をいただいています。
 
櫻庭さん:残り1%の物件のオーナー様にどうご理解いただくか、ですね。ノウハウがあるわけはないので、都度地道に対応しています。

 ――Open Room Projectの概要を拝見すると、実施内容と時期が段階を追っているように見受けられました。タイミングが異なるのには、何か理由はありますか?
 
櫻庭さん:段階を追っているのは、社内のシステム構築や連携する他社様・お取引先様との調整に時間を要したためです。もっと早くリリースしたかったですけどね(笑)。
例を挙げると、「入居申込時の入力・記入項目から性別を削除」についてはシステムや開発のスケジュールから2023年4月リリース、高齢者に関する「セキュリティ会社が提供する安否確認サービスのご案内促進」に関しては、警備保障会社との交渉で2023年9月リリースとなりました。 

不動産会社専用の物件情報検索において、大東建託パートナーズで管理する全物件に「LGBTQフレンドリー」の表記をしているそう

櫻庭さん:性別欄を削除するといっても、ただ消せばいいだけでなく、マーケティングや入居後の管理システムなどとも連携していたため少し大変でした。しかしシステム運用自体にあまり影響はありませんでした。
 
――Open Room Projectの外国籍の方向けの取組みにある「身元引受人不在の外国籍入居様向け 賃貸保証プランの新設」、こちらは具体的にどのようなプランになりますか?
 
石川さん:当社のルールとして外国籍のお客様には、連帯保証人の他に身元引受人を設定していただくことになっています。連帯保証人は、主に家賃の未払いが発生した時のために設定いただいているのに対し、身元引受人は緊急時の連絡先として設定いただいているものです。外国籍のお客様に関しては、連帯保証人や身元引受人を用意することが困難な方も多くいらっしゃいます。
連帯保証人に関しては、大東建託グループの保証会社であるハウスリーブ株式会社をご利用いただくことで連帯保証人が不要になるサービスを既に提供していました。そしてこの度、身元引受人に関してもハウスリーブの料率を少し上乗せするかたちで、設定不要にするというプランを設けさせていただきました。
 
――留学生など、初来日で日本の賃貸システムに慣れていない外国籍の方にとっては、心強いですね。


大阪府との「外国人材の受入促進に係る連携・協力に関する協定」

大東建託リーシング株式会社 グローバル事業部 部長の石川義人さん。外国籍の方に特化した賃貸住宅の仲介を行うインターナショナル店などを展開しています

――次に、2023年10月に締結された、大阪府との「外国人材の受入促進に係る連携・協力に関する協定」についてお伺いします。不動産企業と地方行政が大々的にタッグを組むのは、珍しいかと思います。この取組みの背景はどういったものだったのでしょう?
 
石川さん:もともと大阪府が外国人材の受け入れに積極的だったことと、2022年6月に【OSAKA外国人材受入促進・共生推進協議会】を立ち上げるといった情報を入手したことがきっかけでした。
その前年の2021年6月、大東建託リーシングでは外国籍のお客様のお部屋探しを専門に扱う「いい部屋ネット インターナショナル店」を東京の新大久保に出店していました。翌2022年3月にコロナ禍による外国人の入国規制が緩和され、事業が軌道に乗り始めていましたので「次は大阪にインターナショナル店舗を」と検討していたところで、この大阪府の取組みを知り、すぐに大阪府の担当部署にご提案をし、協議の末、協定が実現しました。
 
――協定締結後、具体的にどんなプランを進行されているのでしょうか。

大阪府主催の留学生向け合同企業説明会などで配布されている資料の裏側に、インターナショナル大阪店の案内をプリント。左下には共同キャンペーンの告知も

石川さん:現在は大阪府で働きたい留学生と、外国人を雇用したい大阪府の企業とをマッチングするイベントで共同キャンペーンを行っています。
就職する=お部屋を新たに探すタイミングでもあるため、このイベントを通じてインターナショナル大阪店をご利用いただいた方への特典をご用意、留学生を受け入れる企業様へプロモーションを行っています。
 
他にも、大阪府内の小中学校に着任予定のALT(外国語指導助手)の方のお部屋探しもお手伝いさせていただいています。
 
どの自治体にも当てはまると思いますが、今や日本の労働力は外国籍の方たちに頼らないと立ち行かなくなってきています。
もはや「先進国だから外国籍の方が日本へ働きに来る」時代ではなく、日本は来てもらわないといけない立場だと思います。そういった意味においても東京に人材が集中しやすい現状において、関西圏にさらに人材を呼びたいという大阪府の強い意欲をヒシヒシと感じています。
 
 
――大阪府に限らず、今後の外国籍の方に関する取組みの予定や施策はありますか?
 
石川さん:外国籍のお客様については、「既に日本にいる外国人」と「初めて来日する外国人」と大きく2つに分かれます。
国内の在日外国人のお客様に関しては今あるサービスを活用して、より良いお部屋探しを提供していきたいと思います。また、海外から来られる方に関しては、留学生をメインに中国・韓国・台湾・ベトナムの留学エージェントと連携しながら受け入れを促進していきます。


大東建託の社内におけるDE&Iへの取組みとこれから

大東建託株式会社のダイバーシティ推進部にて、チーフを務める宮崎 緑さん

――企業のダイバーシティということで、大東建託社内での推進についてお尋ねします。特設サイトを立ち上げるなど、かなり力をいれていらっしゃいますが、何か契機があったのでしょうか。
 
宮崎さん:大きな契機は、2016年に女性活躍推進法が施行されるということでした。国の大きな変革に弊社も対応しなければと動き出したのが始まりです。
弊社は昔から女性社員の採用・人事評価を続けているのですが、ライフイベントにキャリアが左右されやすい女性にとっては男性と同じ働き方ではどうしても就業継続が難しく、結果キャリアが途絶えるという課題がありました。女性が活躍できる会社になるために、まず両立支援制度の充実や長時間労働の改善等の労働環境を整備しなければいけない、と進めてきました。
 
――女性の活躍推進がきっかけとのことでしたが、拝見すると、男性に向けた育児休暇にも積極的ですね。「男性育休100%宣言」はインパクトがありました。
 
宮崎さん:女性が社会で活躍するためには、男性も家事・育児等の家庭の仕事を担い、女性の家庭内の負荷を軽減させることが必要不可欠であるという考えから、昨今の政府の政策が進む前から大東建託内では男性の育児休業取得を推進しています。
 
また、育児だけでなく介護休暇にも力を入れています。
介護に関して社内アンケートを取ったところ、5年後・10年後に介護に直面する可能性がある人が多いことがわかったのです。しかも、会社にとって重要なキーパーソンである管理職層がそのゾーンに多く含まれるため、仕事と介護の両立支援プログラムを導入し、体制を整えています。
 
――櫻庭さんと石川さんは一社員として、こうした変革をどう感じていますか?
 
櫻庭さん:大きく取組みが始まる前と比べて、ライフイベントや社内通知など、ダイバーシティに関する社内情報に触れる機会が増えた実感がありますね。
ここ2~3年、世の中でダイバーシティが頻繁に取り上げられていますが、そうした時代の変化を柔軟に取り入れながら、お客様により良い住まいや暮らしを提供していけたらいいなと感じています。
 
石川さん:Open Room Projectで社外に向けたダイバーシティの取組みを進める前に、社内でできていないと説得力がないですよね(笑)。
そういった意味でも、専門の部署があり、社内で意識浸透しているのは誇らしくもあります。
 
――大きな企業ほど、ダイバーシティに関する取組みでは社内の温度差が生じがちとも聞きます。みなさんのお話をうかがっていると、その懸念はなさそうですね。
 
宮崎さん:大東建託グループはもともと1社が分社化した組織のため、今でもグループ間での情報連携は密に取っていますし、「グループ全体で売り上げを上げていこう」という意識が経営層にも強くあります。ですので、根底にグループ全体でのコンセンサスが取れていて、取組みやすい風土があると思います。
 
――大東建託グループの一社員として、皆様それぞれDE&Iに対してどういった展望をお持ちでしょうか?
 
櫻庭さん:私がOpen Room Projectに携わる中で感じたのは、お客様が抱く、お部屋探しに対する不安や不動産業界に対するネガティブなイメージは、昨今だいぶよくなってきたものの、まだ完全に払しょくできていない、ということです。
大東建託グループが安全・安心・健全なお取引ができる企業だと知っていただき、個々のお客様に寄り添い、お客様・オーナー様に喜んでいただけるサービスや企画をつくっていけたらと思っています。
 
石川さん:私の場合、ダイバーシティの中でも外国籍の方にクローズアップして取組んでおり、「日本でお部屋を探すのは難しい」という現状を、大東建託グループの管理物件だけでなく賃貸住宅業界全体で、改善されるような働きかけをしていきたいと思っています。
住居を探しやすい、契約しやすい環境を作っていくことが、日本の外国籍の方の受け入れ促進につながり、ひいては日本の労働力確保にもつながるのではと期待しています。
CSRとしても、しっかり取組んでいきたいと思っています。
 
宮崎さん:マイノリティの方に寄り添うというのがダイバーシティの考え方ではありますが、最終的には誰もが自分らしく個性を発揮できる会社が、企業として目指すところではないかと考えます。
人生100年時代と言われる今、長く働くうえで自分らしさが発揮できないと、自己成長なども見込めないでしょう。会社とともに自分も成長していくという意味でも「自分らしさ」と「成長」がキーなのではと思っています。
そうして多様な価値観や考え方を受け入れる中で得た気づきを、商品やサービスに生かしていき、企業としても持続的な成長をしていきたいですね。


おわりに

Open Room Project実施後のお客様からの反応を伺ったところ、櫻庭さんより「『FRIENDLY DOOR検索から大東建託リーシングの店舗を見て来ました』というLGBTQ当事者のお客様がいらっしゃいました」とのお話もありました。住まい探しに不安を抱える人と、彼らに寄り添う取組みに真に努めている企業をつなぐことができ、FRIENDLY DOORとしてもうれしい限りです。
社の創立記念や行政の動きなどはきっかけのひとつで、社員一人ひとりにDE&Iの意識が根付いていることが、迅速な対応を可能にしたのだと、櫻庭さん、石川さん、宮崎さんのお話から感じました。
企業の責務としての取組みという以上に、個々の社員の熱意が、企業価値を作り上げているのかもしれません。


プロフィール

櫻庭 沢海(さくらば・たくみ)
1997年大東建託株式会社入社。東北地方の支店のテナント営業課にて従事したのち、2016年より本社賃貸営業推進部に勤務。2021年より大東建託パートナーズ株式会社に配属し、現在はマーケティング企画部部門長として業務執行にあたっている。 

石川 義人(いしかわ・よしひと)
1997年大東建託株式会社入社。中京・中部地方の支店のテナント営業課にて従事したのち、2011年より本社テナント営業推進部に勤務。2019年より大東建託リーシング株式会社に配属し、現在はグローバル事業部にて、外国籍の方に向けた賃貸仲介に携わる。 

宮崎 緑(みやざき・みどり)
2006年大東建託株式会社入社。山口県内の支店のテナント営業課にて従事したのち、2012年より本社にて教育指導部門に従事。2016年以降ダイバーシティ推進課(現在はダイバーシティ推進部)のチーフとして大東建託におけるDE&Iの取組みをけん引している。
 

 参考リンク

▼大東建託株式会社

▼大東建託パートナーズ株式会社

▼大東建託リーシング株式会社

▼大東建託【ダイバーシティ】入居者様ダイバーシティに向けた新たな取組みを開始『Open Room Project』で十人十色のくらしをサポート

▼6言語に対応した「入居者向けよくあるご質問(FAQ)」

▼大東建託のダイバーシティWEBサイト 


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