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保育士の給与を上げるための新政策:現金給付を伴うバウチャー制度の導入


はじめに.

近年の保育に関する政治目標は、"待機児童数ゼロ"であり、政府や各自治体の働きにより、待機児童数は大きく減少いたしました。

しかし、依然、様々な問題が残っているのは事実です。

そして、その根底にあるのが、"保育士の低賃金問題"となります。

ですから、本noteでは、まず、保育の現状について説明し、最後に、私の掲げる保育士の給与を上げるための政策について、述べてさせていただこうと思います。


1.待機児童数は確かに改善した

2001年に、小泉内閣によって、"待機児童ゼロ"の目標が掲げられて以降、それ以降どの内閣も、待機児童を減らす方針を取り続けておりました。

そして、待機児童数は、見事に、2018年以降大幅に減っております。(図1)

図1.待機児童、過去最少2944人 : 5年前の9分の1まで減少

待機児童数の減少に大きく貢献したのが、2015年に成立した子ども・子育て支援新制度になります。


そして、この制度を解りやすく説明すると、下図で示したように、一般的にイメージされるような通常の公立保育園とは異なる、土地や建物、設備等の規制を取り払った簡易的な保育サービスの種類を増やすための制度と言えるでしょう。(図2)

図2.「居宅訪問型保育」ってなに?マンツーマンで行う新しい保育のカタチ


2.それでも改善されない各種問題

ですが、依然、認可保育園の人気は高く、保活と呼ばれるような、子供が産まれる前から保育園を探す活動も活発に行われているそうです。

認可保育園が人気の理由は、保育サービスの質が高く保育料も、所得に応じた額を払えば良いので、安く済むからです。

そして、現状では、認可保育園でなくとも、代替え的な保育サービスを子供が享受出来ていれば、待機児童数にはカウントされないのですが、認可保育園に入れずに困っている子供達の数は、依然数多く存在するとのことです。


また、実際に保育園に子供を入園させる際、各地方自治体の選考に通らなければなりません。

そして、その選考に採用されているのが、ポイントシステム制であり、一見しただけでは解りにくい非常に煩雑な制度となっております。

ポイントシステム制とは、以下の画像のように、各両親の就労状況等によって、各ポイントが与えられ、そのポイントを多く稼いだ世帯から順に、保育園に入園出来るといったような制度です。(図3)

図3.シングルファザーが認可保育園の入園に必要な点数

ポイントシステム制が採用される大きな理由としては、各地方議員の斡旋や、各地方自治体職員の、恣意的な入園者の選定を防ぐためだそうです。

しかし、こういった仕組みを採用する事自体、"子供を産むな"と、社会が主張しているように感じられる酷い制度だと思っております。


また、子ども・子育て支援新制度によって、保育サービスを提供する施設は確かに増えましたが、保育士不足については、ほぼ何の改善もしておりません

実際に、近年の保育士の有効求人倍率を見ても、2.0~3.86という非常に高い数値を記録しており、基本的に、人の寄り付かないような仕事であると解ると思います。(図4)

図4.保育士が不足している原因や解決策は?データをもとに現状を解説


そして、その大きな要因となっているのが、低賃金であるとのことです。

公立保育園に勤めるような保育士(公務員保育士)の方々は、40代で、平均年収621万円だとされております。

ですが、公務員保育士と言うのは、普通の公務員と殆ど変わらず、公務員試験を突破し、各自治体に採用されなければなる事が出来ませんので、そういった限られた一部の方々以外は、基本的に、私立保育士として、勤務する事になります。

そして、私立保育士の平均年収が、大体300万円台だと言われており、他職業と比べて、非常に低い年収だと言われております。

更に、2011年時点で、約40%の公立保育園が、非正規労働者を雇っていると回答をしている報告もあり、保育園に勤める方々の賃金が低くなってしまっている事は、容易に想像出来ます。


また、認可外の保育園や保育サービスが増えた事により、保育事故も多発しているとのことです。


そして、以上のような問題を総括すれば、"全ての要因は、保育士の給与が低く、保育士の数が足りない"事で起こっている問題だと考える事が出来ます。

なので、その改善案として、現金給付を伴うバウチャー制度の導入を提唱したいと思います。


3.現金給付を伴うバウチャー制度

まず、簡単に、私の考える政策の概略を説明すると、"保育園を利用する全家庭に対し、毎月5万~10万円の現金給付を行う"という単純なものです。

現金を給付する点で、完全なバウチャー制度ではありませんが、肝心なのは、保育士や保育園に直接資金を投じるのではなく、各家庭に現金を給付し、入園する保育園を選ばせると言う点です。

その事によって、競争原理が働きますから、投じた資金が、各保育士の給与に還元されず、各園の役員の懐に入ってしまったというような事態が起こる可能性も最小限に出来ると思います。

ただ、制度の悪用を防ぐため、各家庭が、各保育サービスに金銭を払い、利用した後、配布される証明書をもって、前月分が翌月に振り込まれると言うような、後払いの方式にする事は必須であると思います。


結局、保育士の給与を上げる方法としては、"各保育士に、ベーシックインカムを給付する"か、私が述べた通り、"各家庭に、より高い保育園料を払えるように給付を行う"の二択しか方法は無いと思っております。

そこで、前者のベーシックインカム案を取った場合、競争原理が後者に比べて働きませんので、保育士の給与は上がったは良いものの、保育サービスの質は向上しないというような事が起こり得ると思います。

さらに、制度が悪用される可能性も、大幅に上がってしまうと予想されます。

ですから、"各家庭に、より高い保育園料を払えるように給付を行う"方式を取るべきであると思っております。


まとめ.

やはり、保育士は、どの国においても、儲かる職業ではないため、保育予算の拡充無くしては、その給与が上がる事は無いでしょう。

また、日本においては、富の大半が50歳以上に集中している事からも、公的資金投入の必要性は更に高いと言えます。


そして、下図の通り、他の先進各国と比べ、日本の保育予算は少ないと言われております。

子どものための支出「GDP比3%超は必要」 現在はフランスの半分しかなく… 東大・山口教授に聞く

ですから、個人的には、出生率を上げると言う観点や、富の再分配を行うと言う観点においても、保育予算は、GDP比2.5~3.0は計上されるべきだと思っております。


そして、私が保育制度を調べている中で、最もおかしいと感じたのが、2章で述べた保育園利用希望者の選考制度です。

選考対象となるのは、各両親とはいえ、実態としては、産まれたばかりの子供に対する大学入試のような仕組みでしかありません。

やはり、少子化が進み、子供の数も減っているんですから、国や自治体が、誰でも、何時でも利用できるような、質の高い保育サービスを提供する事は当たり前ではないでしょうか。

逆に、それが無ければ、"子供は産むべきではない"と感じるような国民感情は払拭できず、少子化は増々加速すると思います。

何故なら、子供の保育園入園と言うのは、子育ての登竜門であり、そこから厳しい試練が与えられるのであれば、誰も子育てをしたいと思わない事は明らかでしょう。


ですので、私が言いたい事としては、勿論、私の提唱したように、保育園利用者に直接現金給付するやり方も実現されてほしいですが、それに関わらず、保育予算は更に積み増すべきだという事です。

そして、その為には、高齢者向けの社会保障費削減消費税増税も止む無しであると考えております。


参考文献.

・「子育て」という政治 少子化なのになぜ待機児童が生まれるのか? (角川新書)

・保育園問題 待機児童、保育士不足、建設反対運動 (中公新書)

・図解入門業界研究 最新 保育サービス業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第4版]


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