優雅に、獰猛に
2009年。
今から15年前のことになる。
その年の夏の風物詩であるサマー・ソニックが10周年を迎えると言うことで、いつもなら2日間開催なのだが、周年記念ということで3日間開催で行われた。
ヘッドライナーはビヨンセ、リンキン・パーク、マイ・ケミカル・ロマンスと迫力のラインナップだった。
そうだそうだ、そんな事もあったな~。
自分も大阪のサマソニに観に行って、その10周年の空気感に高揚したもんだ。
ちなみにどうでも良いけど、目当てのバンドがあって、その日に参戦したのだが…。
当時20代で若かった自分は、そのバンドを最前列で観たいと思い、前へ前へと進んで行った。
人はいっぱいで進んでいくの大変だったが、それなりに前へ行けたので一安心して知人と談笑していた記憶がある。
そしていざ、ライブが始まると…。
まあ、凄い盛り上がって人々と一緒にもみくちゃになりながらシンガ・ロングを喉が枯れるまでやっていたわけで…。
いや~、あの人々の圧は凄かった(笑)
今でも忘れられない楽しい思い出だ。
そんな思い出深いライブのお目当てであるバンドは「カサビアン」。
2000年代のUKを代表するバンド、カサビアン。
11歳の時にボーカルであるトム・ミーガンとギター兼ソング・ライターのサージ・ピッツォーノが英レスターでバンドを結成する。
後にベースのクリス・エドワーズ、ドラムのイアン・マシューズが加わり、カサビアンの形となる。
2004年に「カサビアン」でデビューする。
アルバムは本国でダブル・プラチナム・セールを記録し、その勢いは日本でもサマソニでデビュー前にも関わらず入場規制を起こすなど、旋風を巻き起こしていく。
翌2005年にはOasisの全米ツアーで、オープニングアクトに抜擢されるなど怒涛の流れで歩みを進めていく。
2006年にはセカンドアルバム「エンパイア」をリリース。
アルバムは全英初登場1位を記録し、ダブル・プラチナム・セールスを記録する。
アルバムを引っ提げて行った来日公演も好評を博し、サマソニやフジ・ロックのメインステージに出演するなど、バンドの迫力や規模を大きくしていた時だ。
なので2009年はノリに乗った状態でサマソニに出演したわけだ。
エレクトリックを前面に押し出して、上手くバンド・サウンドに落とし込み獰猛にも聴こえるギター音や、電子の音を前面に押し出した迫力あるサウンドが特徴的だ。
印象的なリフや、ビートが癖になり、音の迫力と相まってライブ映えのするバンドだと思います。
サージが繰り出すキャッチーなメロディーに、トム・ミーガンのアジテーションたっぷりな言動や歌い方にエレクトロニカの破壊力を兼ね備えた、まさしく21世紀だからこそ生まれたバンドなんでしょうね。
会場を独自のビートで掌握し、数々のアンセムを降り注ぎシンガ・ロングを生む…。
そのサウンドは破壊力を秘めていつつも、極めて優雅になりつつ、かつ獰猛でもある。
そんな感じか。
UKの直近の諸先輩方、プライマル・スクリームやストーン・ローゼス、Oasisなどの系譜を受け継いでいるとも言えるのかな。
実際Oasisのメンバーとは仲良かったし。
ちなみにカサビアンは現在はボーカルのトム・ミーガンが脱退し、サージがフロントマンとして活動している。
さて、2009年の話に戻るが、その年カサビアンは「ルナティック・アサイラム」という通算3枚目のアルバムを発売している。
凄く特徴的なジャケだと思う。
果たしてどのような世界感をアルバムで見せてくれるのか…。
アルバムを手に取った時から聴くのが楽しみで仕方がなかった。
ちなみにアルバムのオリジナルタイトルは「WEST RYDER PAUPER LUNATHIC ASYLUM」である。
これは19世紀のウェストヨークシャーに実在した精神病院の名前から取っているそうで、サージ曰くテレビを見ていたらこの精神病院が紹介されていたそう。
作品を「狂った」感じや、狂気を潜めたニュアンスのものにしたかったので、このタイトルが絶好だと感じてつけたそうだ。
なので、中世の雰囲気をイメージしたジャケットというわけか。
さらにアルバムは温故知新、昔のヨーロピアンなムードを漂わす楽曲もあるので、余計にこのジャケットの示した世界感は打ってつけというわけである。
そして作品は今まで自分達が培ってきた経験を生かしたサウンドになっており、尚且つエレクトロニカの無機質さは過去作品よりも抑えられている。
その分、選び抜かれた音達の研ぎ澄まされ感は過去作を含め、2009年までのカサビアンの作品でピカ一だと自分では思っている。
アルバムは日本盤だとボーナストラックを含め、16曲収録されている。
なので本編は12曲目の「ハピネス」で終わる。
作品を「ロード・ムービー」みたいなものにしたかったと、サージがライナーノーツで述べているが、一聴してみると確かに全ての作品が地続きのようにも感じられ、尚且つ一つ一つの楽曲のまとまった感や、培ってきたキャッチ―さも相まって、一つの作品感は素晴らしいと思う。
流れが良いのかな?
1曲目の「アンダー・ドッグ」の歪んだエレクトロニカの電子音が不穏さを演出させて、本編ラストの「ハピネス」の優しい調べと女性コーラスが作品の救いの部分を引き受けているようでならない。
そして散りばめられる「狂気」とヨーロピアンな香り…。
今聴いていても自分的には聴き飽きない、好きな作品だ。
ってなわけでアルバムの中から好きな曲をちょいと書かせて頂きます。
先ずはオープニング・ナンバーで作品の世界感を築くためにも重要な1曲目は「アンダー・ドッグ」。
不穏な電子音を放ち、サージの歪んだギターのノイズにも似たリフが腹の底から鳴り響く。
野太いベース・ラインに、トムの声が絶妙な気がする。
特徴的なサビと、ダーティーな雰囲気を上手く演出させて「俺は負け犬さ。これが俺の人生だ。」と言い切るアンダーな感じは、楽曲のテンポや雰囲気にメチャクチャ合っている。。
これは完璧なオープニング・ナンバーだ!
初めて聴いた時にそんな事考えてたっけ。
2曲目の「ホウェア・ディッド・オール・ザ・ラブ・ゴー?」。
混沌とした世界に、愛はどこへ行った?
俺には分からない。
そんな事をメロディアスな曲に乗せて歌うトム。
曲が進むにつれ、ストリングスの音色を挟んだりして、そのサウンドの奇麗さがより潜んだカオスを捉えているのかもしれない。
何よりサージの弾くアコースティック・ギターが西洋の香りを纏わせている気がする。
3曲目のインスト・ナンバーを挟んでの4曲目の「ファスト・フューズ」。
その昔Kー1ファイターでハイキックを武器に活躍していたピーター・アーツの入場曲「Misirlou」を想起させるような、カタルシスに満ちたご機嫌なナンバー。
「俺は生まれつき気が短いんだ」っと始まり、野太いリフがひたすら突っ走っていく。
やはりこういう曲を歌うトムのフロントマンとしての魅力は、大げさに言うが、他の追随を許さない側面を持ち合わせていると思う。
当然のことながら、ライブの時はもの凄い勢いになる。
ええ、もみくちゃになりました(笑)
アップテンポな曲で固めた序盤から6曲目の「シック・アズ・シーブス」でしっとりと聴かす。
憂いを帯びたギターの音色と、それに合わせて歌うトムの声が何ともブルーな感情を呼び起こす。
まるでどっかの場末の酒場で一杯ひっかけている風な…。
いや~、ブルーですね!
曲の後半に入るサージの「ラララ~」っと歌うコーラスが余計に哀愁を起こすんだと思う。
そしてやはりヨーロピアンな感じだ。
舞台はヨーロッパの酒場か?
なんちゃって。
ある意味このアルバムに入っている曲の中で一番のアンセムともなっている11曲目の「ファイア」。
「俺は燃えている」っとぶち上げ、サビの部分の破壊力を増幅させている曲の展開も好きだ。
静かに立ち上がり、空間的な広がりを感じさせながらも、サビの部分で一気に爆発!!
コーラスの「フ~フ~フッフ…」の部分でバンドと観衆は一体となるのがライブのお約束。
こういう曲を生みだすのもまたカサビアンの魅力でもある。
以上、ざっと自分なりにアルバムを振り返ってみました。
他にもリフがひたすら耳に残る曲や、「ハピネス」などのバラードなどもあり、全ての曲の流れが聴き応えのあるアルバムだと思ってます。
一聴して耳に残るキャッチ―さを保ちつつ、破壊力や獰猛さを繰り出し、尚且つエレガントに、優雅に作品を展開させる…。
相対する面を孕んだそのアルバムは確かに、紙一重の「狂気」を演出しているような気がする。
そして全てを昇華させるようにして終わっていく最後の「ハピネス」。
今一度カサビアンのライブを観たいと思う。
ちなみにボーナストラックで、サージが歌うデル・シャノンの「Runaway」が収録されている。
曲は1961年に全米1位、全英1位を獲得したデルの代表曲。
こうやってオールディーズの曲もカバーしている辺り、何かカサビアンの懐の深さみたいなものを感じてしまう。
そのカバー・バージョンも味わい深いんで、動画をつけてみました。
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