虚しき恋
3月は別れの季節。
別れがあるので新しい出会いもある。
なので別れというのは、一時の寂しさからくるマイナス感情に過ぎないのかもしれない。
そしてその感情を洗い流すかの如く雨が降り続いている。
雨が止めば気温は上昇するそうだ。
大地に沁みついた寒さのカケラを洗い流し、本格的な春の温もりをもたらそうというのであろう。
雨は季節の別れと出会いを演出してくれるそうだ。
心憎い。
雨という天地がもたらした産物。
対して人類が発明したものではどうか…。
人々が発明した汽車や電車というのも、何となくだが別れや出会いのニュアンスを内包しているような気もする。
人との別れで駅のプラット・ホームまで見送ったり、車窓越しに手を振ったり、新生活で通勤や通学で新たに電車を利用したりなど。
電車もそのようなニュアンスを持つものだと感じる。
そして現代では人々になくてはならない移動手段でもある。
今では当たり前に世界各地で路線が結ばれ、人々や貨物を乗せて往来を重ねる鉄道。
古くは1802年、鉱山で働く親方の息子であったリチャード・トレビシックが世界初の軌道上を走る蒸気機関車を発明し、1804年にウェールズのマーサー・ティドヴィルにあるぺナダレン製鉄所で初走行させたのが始まり。
ここから運搬の手段として、レールと蒸気機関車を用いた鉄道の研究が活発になったそうだ。
鉄道の研究は改良に次ぐ改良を重ね、1825年に「鉄道の父」と呼ばれる機械技術者ジョージ・スチーブンソンの尽力もあり、イングランド北東部のダーリントンとストックトン・オン・ティーズを結ぶストックトン・アンド・ダーリントン鉄道が完成する。
それが蒸気機関車で営業運転を行う初の鉄道となったそうだ。
イギリスで誕生した蒸気機関車による鉄道は、その後世界に広まっていく。
その当時ではもの凄い画期的な発明だったんでしょうね。
このあと蒸気機関車は主な交通手段や輸送手段として重宝されるのは誰もが御存知であろう。
ちなみに蒸気機関車が先頭にたち、客車や貨車を引っ張って走るのが昔は一般的なわけであったのだが、そのようにして走る系列を「汽車」と呼ぶそうだ。
なので昔は全て汽車と呼べるのであろう。
他に移動手段がまだまだ発達していなかった頃は汽車は大変重宝されていたのではなかろうか。
そして汽車が人々の出会いや別れを演出するものでもあった。
現代のように通信手段が発達していなかった昔は、汽車に乗って遠方に向かうというのは、現代のそれとはその事実の重みが違ったのではなかろうか。
映画のワンシーンのような…。
「むなしい恋」
戦前ブルース・マンで伝説のブルース・マンと呼ばれるロバート・ジョンソン。
ロバートの残した曲で、後にローリング・ストーンズやエリック・クラプトンがカヴァーをし有名になった「LOVE in vain brues」(むなしい恋)。
離れ離れになる彼女を見送りに駅まで見送りに行く様子が歌われている。
手には彼女の荷物だと思われるスーツケースを持って。
そして汽車が駅に入ってきたときに彼女の目を見つめて、淋しさの感情が生まれ泣かずにはいられなかったと続く。
やがて汽車が駅を出た時、後ろに二つの灯りが見え(きっと信号のことかな?)、青い灯は俺のブルースで赤い灯は俺の心と歌っている。
最後は声にならない感情のような淋しさをコーラスで歌って終わっていく「むなしい恋」。
ひたすら「俺のむなしい恋は終わっちまった。」と言っている。
そのメロディーの少ないギターの調べが淋しさを助長し、ロバート・ジョンソンの声も虚しさ満載だ。
この寂しさは彼女と別れることからくるブルーであるのは間違いない。
昔は「LOVE」を自分は”愛”と思っていたので、二人は恋人関係なんだろうと思っていたが、対訳などを見ていると「LOVE」は”恋”と表現されている。
多分内に秘めた恋心を何かの理由で汽車に乗って、どこかに行ってしまう彼女、そう付き合っていて呼ぶ「彼女」ではなく、あくまでも女性を「彼女」と呼ぶニュアンスの方が合っていると思ったり。
その彼女に告白できなかったんでしょうね。
スーツケース運んで、最後に何か一言言いたかったのか?
結局「彼女」は汽車に乗って遠くに行ってしまい、その淋しさのあまり泣かずにいられなくなってしまった主人公。
二つの灯りを自らのブルースと心に例え、最後のコーラスで呻き声として言いようのない感情を昇華させているロバート・ジョンソン。
そんなふうに考えると主人公には「むなしき恋」でだったのだろう。
蒸気機関車から鳴らされる出発前の汽笛はきっと生涯忘れられない「音」になったでしょうね。
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