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泣けてしょうがない、殺人事件

近所で殺人事件があったという。

酒に酔ったうえでの殺傷事件で、
死亡した被害者は34歳の家庭をもつ男性、
加害者は22歳のホームレスの男性とあった。

よくありそうな事件か。

読み飛ばそうとして、ふと、この加害者の名字に見覚えがあることを思い出した。

あわてて大学生の娘に連絡してみたら、
やっぱりそうだった。

このホームレスの加害者は、娘の中学時代に、となりに座っていたM君のお兄ちゃんだった。


当時、中学三年生であったM君の素行の悪さは有名だった。

授業で騒ぐ、ドラッグを売る、
ケンカは日常茶飯事、ある時は、学校の屋根を走り回って警察がきたこともある。

となりの席の娘にも、
「魚くせー」や、「醤油くせー」、
「Made in China」とか絡んでくるらしく、

一度「わたしは日本人や!」と言い返したら、肩をどんと押してきたというので、わたしは学校へいつでも報告できるように、その子の名前を控えていた。それがM君だ。


ある日、娘が帰宅してこんな話しをした。

「今日、わたしがお弁当を食べていると、
Mがじっとこっちを見ていてね。

『お前、いつもそんなの食べてるの?』
て言うわけ。

私はサンドイッチとサラダ食べてて、
で、ああはいはい、嫌味ねと思って、

『夕飯はもっとちゃんとしてるから』
って返してん。そしたら、驚いた顔して、

『さらに夜も温かいごはんを食べるんか?」
って言ってきて。

それでMはね、少し黙ってから

『いいなぁ。オレの親は弁当もめしも作ってくれたことないな』

と言うからびっくりして、

『じゃあ、いつも何食べてるの?』
って聞いたら、

『お菓子とか』
って言うから、かわいそうになって…

『……、このお弁当半分食べん?』
と言ってみたけど、

『それは、お前のMumがお前のために作ったんだから、お前が食え』
って、どこか行ってん。

なんか、気の毒やったわ…」


このやりとりを聞いて、わたしも胸がぎゅっとなった。


そこで、翌朝はお弁当を2つ作った。
そして、「うちの母さんが、アンタが日本のお弁当を褒めてくれて嬉しかったみたい。だからこれはアンタにお礼やって」
とM君に渡してもらった。


その日、帰宅した娘にどうだったか聞くと、「クラスルームの後ろの方に、カラのお弁当が放ってあったから、食べたんやろ?」と。


よーし。それならと、翌々朝も娘にお弁当を2つ持たせた。

だけど、娘はひとつ持ち帰ってきた。

やっぱ、口にあわないか。

そう思ったら、
「Mね、どうも退学になるみたい。
校長先生のFacebookにFワードを書き込みまくったから」

これまでの所業に加え、これでとうとう校長の堪忍袋がきれたということか。

「しかも、近隣のほとんどの中学が、Mの入学を拒否してるって噂やわ」

それを聞いて、なんとも言えない気持ちになった。

そして、私は重い気持ちで、Mが食べるはずだったお弁当を食べたのだった。



時はたって、M君の話は聞かないまま5年が経ち、今に至る。そして今、わかったのは、お兄さんがホームレスで、殺人者になったこと。

それなら、彼はどうしているだろうか、
温かいごはんは食べられているのだろうか、そう思ったら泣けてきた。

中二のM君にもっとお弁当を作りたかった。
そして今は、どこかで毎日おいしいものを食べていてほしい。

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