キジと極道妻と小4のワタシ
田舎道を通勤で運転中、
茂みからキジが急に飛び出して、車の前を走り抜けたので、急ブレーキを踏んだ。
轢いてしまいそうになったドキドキと、
もうひとつの理由でドキドキした私。
私は、キジをみるとドキドキする…
あれは私が小4のころ。
帰りの会で担任が言った。
「明日、何か生き物を持ってきてね。みんなで観察しましょう」
犬とかネコはダメ。
昆虫とか、小さい生き物を持ってきて、と。
当時、私はインコを飼っていた。
しかし小1の時に、学校からそれはそれは重い朝顔の鉢を、泣きながら持ち帰らされたトラウマがあった私には、30分の道のりを鳥かごを引きずって歩く勇気はなかった。
しょうがない。
翌朝、庭のカタツムリを3匹むしり取り、
キャベツの葉と共に虫かごに放り入れ、登校した。
学校に着くと教室は大賑わいで、
一番人気は、南米種だとかいう、やたら平べったいカエルを持ってきたT君の独壇場であり、カゴから出したり入れたりするたびに歓声があがっていた。
が、その空気が一変する。
某組組長ひとり娘、Mちゃんの登場である。
Mちゃんが、手に持った紫色の風呂敷包みをうやうやしくほどくと、そこには色彩あざやかな雄キジが凛々しく立っており、歓声と共に一気に生徒が集まった。
「すげー、初めてみたー」
「大きいね」
「これが桃太郎のアレか」
「きれー」
「でも飛ばないの?」
「逃げちゃうよ?」
「うふふ、大丈夫。キジは飛ばないか…」
ら、と言い終わるか終わらないかで、
バタバタバタバタバタバタバタッ
とキジが勢いよく教室を飛び回った。
呆然と目を見開くMちゃん、と私たち。
先生が慌てて教室の窓を全部閉めて、
「みんな、教室からでて!」と叫んだ。
30分ほど大騒ぎしたあと
ボロボロになった先生達や校長先生が教室からでてきて、クラスは羽だらけになっていたが、またあのキジは元通り大人しく風呂敷に包まれていた。
すると今度は、学校から呼び出されたのであろう、Mちゃん母が教室に入ってきた。
「あ、どーも。すみませーん(棒読み)」
とふてくされて入ってきたMちゃん母。
その時、
私はMちゃん母の姿にくぎづけになる。
目も口も、ぱっかり開いていただろう。
Mちゃん母の何に衝撃を受けたのか。
それはMちゃん母の、アフロに長めの襟足という戸川昌子風の髪型ではなく、スナック経営の勲章、酒やけボイスでもなく、
黒革のミニスカから伸びた、網タイツ。
『網タイツ』であった。
キジを抱えるMちゃん母の網タイツ。
網タイツ、
初めて生でみた網タイツ、
なんて、
なんて、
なんて、
なんて破廉恥。
テレビで見るルパンの峰不二子や、
お銀こと、由美かおるの網タイツとは全然違う、生々しさがそこにあった。
大人の性を、Mちゃん母の網タイツにみた小4あびか。これをリビドーの目覚めと呼ぶとか、呼ばないとか。
早寝の婆ちゃんの部屋に忍び込み、
口を開けて寝る婆ちゃん越しに見ていた
『毎度おさわがせします』なんて、もうドキドキしなかった。
それからは、
たけしの元気が出るテレビ!!を見ても、網タイツ。
キャプテン翼がボールと友達になっても、網タイツ。
甲子園に連れていってと朝倉南が言ってても、網タイツ。
タンスにゴンを入れても、シブがき隊が『100%…SOかもね!』を踊っても、網タイツが目に浮かんだ。
だから、今だキジを見ると、網タイツが目に浮かぶのだ。
あゝ Mちゃんのお母様、
今もご健勝でありますように。
〈 本日 R40+ 〉