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長澤靖浩
2019年5月16日 09:42
(ロスアンジェルス 羅府新報 新春文芸コンクール 小説部門一席) 午後から急に重苦しい雲が空を覆い始め、やがてじとじと嫌な雨が降り始めた。雨具を持って来ていなかった私は、小学校の名前が大きく印刷してある黄色い傘を借りて、運動靴をまだ浅い水たまりに湿らせながら、帰宅してきた。 玄関先で音をたてて、雨の滴に揺れる金木犀の厚い葉をふと見た。どの葉もそれぞれ、 雨の落ちる衝撃に上下して、 交響楽
2019年11月17日 22:28
この小説の過去の章は、マガジン「小説」をクリックするとすべて読めます。また、マガジン「小説」をフォローすると、続きを書いたとき、お知らせが行きます。第4章 モラハラ10 同級生の就職先の病院が次々と決まっていく。沙織は「おめでとう」という言葉を発するのがやっとである。焦りに胸が苛まれる。 沙織は自分の不自由な足で松葉杖をついてハローワークに足繁く通った。しかし、障碍者雇用枠による
2019年11月13日 02:39
7 誰もが少なからず両親には愛憎悲喜こもごもな気持ちを有している。子どもに障碍がある時、その濃度は通常よりずっと濃厚になるのは避けられない。 未熟児として産まれ落ち、出産初期の保育器での酸素欠乏が原因で、沙織は脳性麻痺による肢体不自由の障碍を負った。その自分の境遇へのやるかたない憤懣をぶつける相手といえば、両親のほかにはなかった。 地域の小学校で沙織は周囲の子どもたちの剥き出しの残酷さ