雨蛙
(ロスアンジェルス 羅府新報 新春文芸コンクール 小説部門一席)
午後から急に重苦しい雲が空を覆い始め、やがてじとじと嫌な雨が降り始めた。雨具を持って来ていなかった私は、小学校の名前が大きく印刷してある黄色い傘を借りて、運動靴をまだ浅い水たまりに湿らせながら、帰宅してきた。
玄関先で音をたてて、雨の滴に揺れる金木犀の厚い葉をふと見た。どの葉もそれぞれ、 雨の落ちる衝撃に上下して、 交響楽の演奏を見ているみたいだった。
しばらくその楽しい踊りに見入っていた私はやがて 一つの葉の上に吸盤でしっかりとつかまっている一匹の雨蛙を見つけた。黄緑色のつるりとしたその小さな体は、葉が上下するのといっしょに、ブランコでも乗っているように、ユラリユラリと揺れていた。 雨に濡れそぼったなめらかな背中の輝きは、幼い私にとっても、とてもなまめかしく思われた。
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