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新しい神話の断片- 久保寛子[鉄骨のゴッデス](-6/9)

 某日、銀座。

 銀座一丁目。ポーラミュージアムアネックス。


 作家のステートメントから。

∥作家ステートメント∥

鉄骨のゴッデス

2024 年の元日、大きな地震が能登半島を襲いました。自然災害を目の当たりにするたび、私たちは自らが築いてきた ものや、自ら自身の脆弱性を痛感します。高層ビルや地下鉄、人工衛星などの技術も、先史時代の土器や石像、洞窟壁 画と同じく、厳しい自然に対抗し、適応し、祈りながら生きてきた人類の生の証です。 柳宗悦は民藝論を通じて、民衆が生み出す実用品にこそ美が宿ると説きました。すなわち「用の美」です。それに対抗 するものは、「用」から離れて「美」のために作られた美術品や、「利」のために生み出された工業品であると言います。 宗教美術や民俗芸術も、人間の精神的な必要性、いわば「心の用」から生まれた民藝です。 私が作家としてこれらを手本とする理由は、現代の合理性では計り知れない、豊かな神話的思考の具現であり、今も なおヒトはこのような思考を必要としていると感じるからです。 神話や民藝を失いつつある現代。効率化された工業製品の中に、ゴッデス(女神)を見出すことは可能でしょうか。 私は身の回りにある素材から道具や偶像を生み出してきた古人に倣い、いま身近にあるもの、例えばブルーシートや軍手やワイヤーメッシュを使って作品を作ります。それらが新しい神話の断片となり、女神像の身体となることを信じて。

2024 久保寛子

工事現場で見かけるブルーシートや鉄、コンクリートなど、身近な素材から創り出された神像や土器。久保寛子は、農耕や偶像をテーマに、古来日常にあった祈りのかたちを現代に置き換えた彫刻作品を発表しています。 近年では、瀬戸内国際芸術祭 2016 やさいたま国際芸術祭 2020 などで、その土地に呼応したダイナミックなイ ンスタレーション作品を発表し、注目を集めています。先史芸術や文化人類学の学説などを着想源に創り出され る作品は、厳しい自然に耐えながら営みを続ける人びとの心の支えをモチーフに、ポジティブな生のエネルギー を携えています。それは自然災害など「いのち」を考える岐路に立つことが多い今、心の拠り所を模索する私た ちの“心の用”に応えてくれるようです。 本展では、防風ネットを使った新作「鉄骨のゴッデス」を含む、約 60 点を展示します。コンクリートで出来た アミュレット(魔除け)やブルーシート製の土器など、数々の立体作品をご紹介するとともに、ポーラ銀座ビル 1階のウィンドウでは、会期にあわせて平面作品の展示も予定しています。


青い尖底土器 シリーズ

 自然光が射し込む空間。工事中のようにグリーンの網が張られ、入り込む光は柔らかだ。

 「土器」が並ぶ。素材は工事現場などで見るブルーシートと糸。

 土器は、土器であるがゆえに、(また、長い年月を経たり、出土したときに欠損することで)その形そのものの美しさを見ていなかったと思う。こうして違った素材で形だけが再現されることで、「用の美」であった土器の、シンプルな形の美しさに気が付いた。


ストリートアミュレット シリーズ

 アミュレット(魔除け)。

 あたかもどこかから出土した、歳月を経たもののように見せながら、素材はセメントと真鍮。そして素材とは関係なしに、作品たちは、魔除けとしての雰囲気をを纏っている。


私たち

 素材は木粉粘土、鉄、そしてプラスチックネット。


母子像 & 土のう土器 シリーズ 

 母子像はセメント製、土のう土器は素焼きだ。


ヘッドライト シリーズ

 何かの準備中といった「現場」感。しかしライトに浮かび上がる動物たちの頭部のシルエットが、不思議な、そして不穏な空気を醸し出している。

 近寄ってみれば、素材は鉄、プラスチックネット、投光器など。動物たちの頭部のオブジェは、切り取った頭部のようにも、被り物や面のようにも見える。やはり呪術的ななにかが感じられる。


ホモエレクトス

 軍手を糸で縫い合わせている。素材を判りつつも、頭蓋として表現されていると触れてはいけない何かのような佇まいが漂う。


Blue Lips

 ブルーシートの端切れは、これほど美しくセクシーに。


container

 そして、作品番号のさいご。

 シート越しに、そのシルエットが見える。


鉄骨のゴッデス

 鉄のワイヤーを骨に、プラスチックネットを皮膚として纏った、現代の女神が出現する。

 観ているわたし自身の感想を差し挟む余地もなく、ただ感じる、そんな作品たちだった。

 畏怖や信仰を表現したいと熱望し、手近な材料を入手しようとするならば、かつては土や石や木材、そして現在は工事ネットやシート、ワイヤーになるのは自然なことだ。

 作家のステートメントの最後の部分を。

「 神話や民藝を失いつつある現代。効率化された工業製品の中に、ゴッデス(女神)を見出すことは可能でしょうか。 私は身の回りにある素材から道具や偶像を生み出してきた古人に倣い、いま身近にあるもの、例えばブルーシートや軍手やワイヤーメッシュを使って作品を作ります。それらが新しい神話の断片となり、女神像の身体となることを信じて。」




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