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草間彌生美術館「心の中の詩」-"消滅する自己"、圧倒的な孤独の追体験

 草間彌生美術館(東京都新宿区弁天町)は、2017年10月の開館以来、定期的に訪れている美術館。小さな建物ながら、年2回ほどの企画展が催される。そこでは、ポップアーティストとして誤解されがちな草間彌生の作品が、どんな変遷を経て、今の形に至ったのかが推測できる。そして、一見、かわいらしい作品を鑑賞した際の、ざわっとした違和感が正しかったことに気づく。

■「真夜中に咲く花」(2010年)

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 心の中の詩(~ 2022年8月28日)では「本展では、内からあふれ出すイメージの数々や心の葛藤をありのままに映し出した、シュルレアリスムを彷彿とさせる草間の多様な作品をご紹介いたします」という紹介文がある。

 エントランスには「真夜中に咲く花」(2010年)が展示。(撮影可能作品のみ、スマートフォンで撮影)一見、可愛らしく見えながら、素通りのできない凄みのある巨大な花。どこか「ひっかかり」があって引きこまれる、草間作品のそんなところが好きだ。

■I'm Here, but Nothing(2000/2022年)

 2階、3階(撮影不可)の展示を経て、4階にはインスタレーション作品の展示会場がある。

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 今回の「I'm Here, but Nothing」(2000/2022年)では、ブラックライト(紫外線ライト)によって、水玉で埋め尽くされた女性の私室とおぼしき部屋で、2分の時間を過ごす。人が少なかったこともあって、一人で体験できた。鑑賞者の視界は、写真のようになる。

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 入ってすぐ、これは草間彌生に見えている世界なんだな、と気づく。草間彌生の生家がある松本市の松本市美術館での草間彌生展で、草間の幼少期の人物画の画面全体に、小さな水玉が描かれている作品を鑑賞した。そうした恐怖に対峙するために絵をはじめた、という解説があった。

 まるで、自分自身も、水玉になって消えてしまうのではないかという錯覚。草間彌生にはこれを「自己消滅」と呼んでいる。

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 部屋の中のテレビには、草間の作詞作曲「マンハッタン自殺未遂常習犯の歌」を自ら唄う、草間の姿が映し出されている。

 2分間の間に感じたのは、圧倒的な孤独だ。それと同時に、ここでもし本当に自分が消滅してしまうのなら、それも悪くない気もした。

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 草間彌生の表現する水玉模様の深み、そして凄みは、ここにある。

■命(2015年)

 草間彌生美術館では、4階までの展示で「下り」エレベーターで降りてしまう人が多いように感じる。5階(屋上)にも展示があり、気持ちのいい空間が広がる。

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 今回展示されている「命」(2015年)は、最大のもので2.27mの高さがある、タイル張りの作品だ。

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 心の内面を見せるような企画展でも、最後は青空とともに「生」に昇華される、毎回の展示構成も、とても好きだ。

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