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DAY 93:「このままでいい」 "BLUES WALK" LOU DONALDSON BLUE NOTE 1593


2月になり、手帳の新しいページをめくる。

…2月になってからめくる、というのも、
少し違和感がある。

だいたいは、そう、1月の半ばあたりには、
早ければ、去年のうちにはそのページを開いて、
何らかの予定を、書き込んでいたはずだ。

だけど今は…やることがない、というよりも、
ほぼやることは決まっていて、
〆切に追われる仕事や、
誰かと会うアポイントメントは入っていない。

だから手帳は、まっさらだ。

月替わりで開いても、何にも違和感がない。


休職に入る前の手帳を見返してみた。
毎日、ぎっしりと埋まる時間ごとのアポイント、
そしてその間に行うタスク、電話。
残業もして、翌日や、
先々に会うクライアントとの
打ち合わせに、しっかり備えていた。


今は、それがない。
基本的には簡単な来客対応と、
データ入力と分析だ。

でも、それでいい。
申し訳ないが、
今の私にはこれでもいっぱいいっぱいだ。
忙しくなると、またその文字通り、
心を亡くしてしまう気がするし。

今の仕事でも毎日、自分の無力感や劣等感、
孤独感、組織にいる自分の存在意義を考えて、
またそれと精一杯戦って、
自分の中で折り合いをつけている。

でもやっぱり不安になる。

私はずっと、このままなんだろうか?

病気になってから、元気がなくなった。
精神的な体力がなくなった、と
ひしひしと感じる。
Twitterでは元気に振る舞っているけど。

プライベートで人と会うのは、
嫌いじゃないけど疲れてしまう。

外出もそう。
外に出るのは好きだけど、
疲れてしまう。

前はあんなに、
子どもと公園に出かけていたのに。
今は、少しずつできるようになってきたけど、
去年はほとんど、できなかったなあ。

今は少しずつ、本当に少しずつだけど、
良くなってきている気がする。

でも焦る。

私はずっとこのままで、いいのだろうか?

良くはないだろう。
早く前みたいに、仕事も家事も育児もバリバリ
できるようになんなきゃ…
そんなことを、ずっと考える。


「オレは、このままでいいのかなあ」

夕飯の時に、気がついたら声に出していた。

"BLUES WALK"のレコードが、
ターンテーブルの上を回っている間。

少し間を置いて、妻が口を開いた。


「このままでいいのよ。
 ずっと、このままではないから」


…ずっと、このままではない、か。

少し心が軽くなった。
良い方向へ、向かっていけるといいな。

娘は2歳に近くなり、イヤイヤ期ど真ん中。
食べ物の好き嫌いも出てきている。
遊び食べも始まり、ご飯に牛乳をかけたり、
牛乳の入ったコップに
おかずを入れたりしている。

息子は本を読むのが好きで、
それはとても良いことなんだけれど、
集中してしまうと、
まわりの声が聞こえなくなってしまう。
ご飯の席に着くまでに、ちょっと時間がかかる。
自分も昔そうだったから、強く言えないけど。

娘が牛乳をひっくり返した。
おかずの入った皿をぶん投げる。
息子は話したいことが山積みで、
食事もそこそこに、ポケモンの話を熱弁する。
食事を食べるよう注意しても、あまり聞かない。
そんなちょっとしたカオスな食卓。
少し雰囲気は悪くなってきている。

そんな中、
ちょうどレコードのA面が終わった。

娘のこぼした食事を片付けて、
息子に食事をするよう言い、
レコードを裏返して、B面に針を落とす。

ユニークなコンガの音が、
みんなの耳に入る。
それに合わせて、体を動かしてみる。
娘も、息子も、微笑みをたたえて、
私を見る。
それを見て、妻も微笑む。

そして、
流麗なアルトサックスの音が流れ込む。
食卓の空気が、明らかに良くなった。


ずっとこのままじゃないから、
このままで、いいんだな。


なんとなく、そうおもった。


その夜、子どもたちといっしょに
お風呂に入り、
いっしょに布団に入った。

右手には娘、左手には息子の手が
繋がれている。

しあわせだなあ。

子どもたちの眠りが深くなるにつれて、
その手がほどかれていく。


ずっとこのままじゃないから、
きっと、このままでいいんだな。


ありがとう。

こんどは強く、そう思った。


いっしょにいられるうちは、
できるだけ、手をつないで、歩いていこうね。


私は、夕食の雰囲気を変えた曲の、
次の曲ー"Autumn Nocturne"を思い出して、
眠りについた。

それは、冬の長い夜にも合う、夜想曲だった。

ここまでお読みくださり、
ありがとうございます。

今後も、
あなたのちょっとした読み物に、
私のnoteが加われば、
とても嬉しいです。

ボンボンバカボンバカボンボン。

きょうもあしたも、あなたにとって
かけがえのない、一日でありますように。

アイ

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