「育児ってかっこいい」の土壌を作り出すベビー用品

画像8

2020年11月にローンチしたベビー用品のブランドANDROSOPHY(アンドロソフィー)代表の山田麻木です。


ANDROSOPHYは「男性の育児を当たり前に」を理念に掲げ、その実現の手段として、男女で兼用しやすいデザインのアイテムを販売。その第一弾として、ブランドのリリースと共に、性別に関わらず満足できるベビーキャリアを発売しています。

リリース直後にも関わらず、多くの方にご注文いただき…「すごくカッコいい」「軽さに驚き」「フィット感がいい」「全然重さを感じない」などのお声もいただけました。前回の記事では、私自身の紹介もかねて、なぜ、私がベビー用品を作ろうと思ったのかを書きました。今回は、どのようにベビーキャリアを構想し、実際に形にしていったのかを振り返りたいと思います。

ようやく商品化、発売にこぎつけたベビーキャリア。満足いくものを作り上げるまでには長い道のりがありました。

毎朝、保育園を手伝い見えたもの

ベビー用品のブランドを立ち上げて、私自身がようやく意識の上でも「父親になれたかな」と感じるようになったのは、前回の記事にも書いたとおりです。

「父親は仕事、母親は子育て」といった、いまだ根深く残るジェンダーロールに囚われず、子どもとのコミュニケーションを増やすこと。それをまずは自分から実践していこうと考え始めた私は、妻に任せきりにしていた子育てに少しずつ取り組むようになりました。

あとは本当に基本的なことで恥ずかしいですが、おむつを替えたり、朝ごはんを作るようになったり。作った朝ごはんを娘と一緒に食べ、着替えを手伝い、保育園へ。日常のほんの一部ではありますが、実際に子どもが何を食べてるのか、どんな服を好むのか、どんな友達がいるのか、なんてところから勉強でした。

画像6

そして、もうひとつ始めたのは、娘を送っていったあとの朝の2時間を保育園のスタッフとして手伝わせてもらうこと。会社からは「なんで朝来ないんだ?」なんて言われましたが、保育や育児の現場を見て、実際に送り迎えされるお父さん、お母さんの様子を知り、話を聞きたかったんです。また、さまざまなクラスに入って手伝いをさせてもらったりもしました。最初は軽いリサーチのつもりだったのですが、結局1年ほど続けました。

そこで多く出会ったのは、自分と同じように子どもを送りにくるお父さんたちです。スーツ姿に子どもを抱え、自分のビジネスバッグと子供用の荷物、しわにならないように手持ちのジャケット。スーツとかわいいベビーグッズという、少しちぐはぐな印象の彼らに話を聞いていると、星柄や花柄、水玉模様のベビーキャリアやバッグを持つことに抵抗を覚えている人が多くいることがわかりました。

もちろん気にならない男性もいるとは思います。ただ私自身も、妻が選んだ水玉模様のベビーキャリアやかわいい花柄のマザーズバッグを持つことに多少抵抗があったのは事実です。

小さなことだけれど、日々使うものであれば気に入ったものをと思うのは自然なことだと思うのです。育児に興味を持つ入り口になり得るベビーグッズに、男性が自ら進んで「使いたい」と思えるものがほとんどないんだな、と思いました。

さらに、自分も娘の送り迎えをするようになってわかりましたが、子どもって本当に荷物が多い!そこに、幼い頃は子ども自身をも抱えなければいけないから尚更です。もっと軽く、スタイリッシュに。男女ともに使いやすいデザインで、重さを感じさせない構造や身体が楽な造りのベビーキャリアがあればいいのにな。

娘と一緒に保育園で過ごす日々から、私たちが作りたいベビーキャリアの方向性が見えてきました。

20191108 だっこひも横入れライプ ラフ画 ②

画像7

「宝物」を運ぶものだから、妥協したくなかった

さっそくベビーキャリアの制作に取り掛かろうとしましたが、私たちは鞄を作るプロであっても、人を運ぶ製品は初めてです。しかも、それが生まれたての赤ちゃん——人々にとって大切な宝物であれば尚更、安全性に妥協はできないと考えました。

そこでベビーメーカーへ協力を依頼しようとしたが、62社に連絡し協力に手を上げてくれたのは、たった1社でした。その1社も結果的に一緒に製品化まで至らなかったため、完成までのハードルはかなり高いものでした。

その後、なんとか形になってきた製品の安全性を証明するため、「日本繊維製品品質技術センター」に協力していただきました。そこでは製品自体の着用試験をはじめ、耐久性や伸び方や壊れやすさの試験を行います。ベビーキャリアに使用する全ての素材についてもチェックしていただきました。

初回サンプルでクリアできたのは、40ほどある項目のうち30項目。クリアできなかった項目に関しては、都度電話で確認し「どこがダメなのか?どうすればクリアできるのか?」を聞きながら、ひとつひとつ改善していく地道な作業を繰り返しました。

開発を重ねるうちに、ベビー用品には使えない素材や部品が多いことがわかり、素材メーカーの選定のしなおし。また部品によっては、赤ちゃんの顔から何センチ以上離さなければいけないなど…知らないことばかりでした。少しずつ、一から勉強していきました。

結局、デザイナーさんや縫製職人と苦労を重ね、20回以上試験を行いようやく全40項目をクリア。安全で、使い心地がよく、スタイリッシュな男女兼用デザインを実現しました。

土屋鞄のランドセルは、子どもが使うものであっても「大人も選ぶもの」という認識でデザインを行っています。ベビーキャリアも、赤ちゃん用のものではあるけれど選ぶのは大人で、身につけるのも大人です。だったら、水玉や花柄じゃなくてもいいのかなと思い、コンセプトどおり男女共に使えるベビーキャリアとしてスタイリッシュなデザインにしました。

画像3

画像4

また、あまり知られていませんが既存のベビーキャリアって男性にとっては背中のバックルの着け外しがとてもやりづらいんですね。どうしても手が届きにくい。研究するうちに肩幅や柔軟性の問題だと気付いたんですが、。ANDROSOPHYのベビーキャリアでは、デザインだけでなく造りや特徴においても性別関係なく使いやすい工夫をしています。

その他にも、土屋鞄のランドセルを参考にした背中へのフィット感であったり、登山リュックからヒントを得た食い込まない肩紐の構造であったり、多くのものを取り入れて、今まであった「ベビーキャリアってこういうものだから」という妥協のないベビーキャリアを目指しました。

私たちが考える、理想の育児

「男性の育児を当たり前に」というと、やはり男性も育児休業を長期で取りやすくするなどの制度的な面でのアプローチが必要です。今後、そういった制度改変にも主張できるように努めていきたいと思いつつも、やはりまずは当事者たちの「意識」を変えたいと考えています。

今、私たちが考える理想の育児は、役割を“分担”できていること。全てを男性、全てを女性という育児ではなく、体力面や体格差、性格や特徴に応じた育児の分担ができないかと考えています。今まで女性が担うことの多かった育児を、男性も当たり前に担っていく。そんな世の中を目指したい。

例えば、男女にはどうしても身体的な違いがあります。そう考えると、自分の身体に関わる出産やその後の病院とのやりとりを女性がし、どんどん重たくなる抱っこは体力的な観点で男性が……という育児分担は自然なものに感じます。

育児において、現在は「お母さんができること」だらけで、その中の一部を「少しずつ男性が手伝っている」という側面が強いように思います。だったら、まずは男性が得意な分野で育児を担えるような商品やサービスから開発していこう、とANDROSOPHYは考えています。

ブランド名「ANDROSOPHY」は、ラテン語で「男性」を意味する「Andro」と、「役割」という意味をもつ「philosophy」を掛け合わせたもの。育児“参加”や“手伝い”ではなく、男性も自分にできる育児を当たり前にやっていく。その役割の手助けをするのがANDROSOPHYです。

図1

ベビーキャリアをつけた自分をみて「かっこいいな」と思ってほしいんです。それはそのまま「育児をするってかっこいい」ってことだから。小さなことだけど、それが当事者意識——「父親になること」につながるのかなと思っています。

10年後のライフスタイル、その中で子育てはどのように変化しているのか。僕自身、楽しみにもしているんです。

未来のライフスタイルを生み出したい

最後に。今、デザイナーと一緒に10~20年後のライフスタイルをイメージし、その中で育児はどのように変化しているのか、ベビーグッズはどうあるべきなのかを考えています。

未来の育児を想像し、ベビーグッズを創造する。変わっていく未来を想像してベビーキャリアを作るのではなく、そのベビーキャリアを使うことが当たり前になるような育児の文化に導いていくようなやり方をしていこうと思っています。

「育児をする男性が増えてきたから男性向けベビーグッズを作る」のではなく、「育児をする男性を増やすためにベビーグッズを作る」。ANDROSOPHYがそうやって立ち上がったように、これからも一足先の未来から商品を届けていきます。

画像6

ANDROSOPHYの最新情報を下記よりご覧ください

今後、noteで定期的に発信させていただく予定ですので、良ければフォローください


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?