見出し画像

EP01 - PARK COFFEE

tsumuji が携わらせていただいた空間のエピソードを紹介するEPシリーズ
1回目は 2021年10月 大井町にオープンしたPARK COFFEE です

はじまりは2年前

まず、大井町がどういうところかというと 東急大井町線、JR京浜東北線、りんかい線の3路線の乗り換え駅で、まさにこれから再開発を本格化しようという地域。この物件は2019年末に東急さんから初めて話をいただいた時点で、東急所有地の暫定利用として品川地区現地オフィスと地域コミュニティを創出するコーヒースタンド併設の考えがまとまっていました。

当時、地域コミュニティの創出が主目的であるならば、果たしてオフィスにコーヒースタンドをテナント誘致するだけでいいのか、少々不安でした。地上2階建ての1階にコーヒースタンド、2階がオフィス。もっと街に開いて目的が滲み出すような、街に溶け合うような空間にできないかと。

そこでオフィスエリアに段階的セキュリティレベルを設定して、オフィスと客席の機能を可能な限り曖昧にしたいと提案しました。客席(コワーキングスペース)→シェアオフィス(会員)→プライベートオフィス(東急)とセグメント、機会創出にコーヒーのサブスクリプション提供を組み合わせ、地域コミュニティとハブとなるべくコーヒースタンドオーナーが家守として場を共創していくプランです。

勝手にシェアオフィスプラン

・・・

やっと盛り上がってきたところでした。
新型コロナウィルス の感染拡大が始まり、その他の進行中案件のイレギュラーに対応している間にプランは出しっぱなし、時間だけが過ぎていました。

・・・

それから1年ほど経過した2021年早春、うちも事務所を置かせてもらっている自由が丘で sunset coffee を運営されている 株式会社シードの奥角さん、株式会社YAGOKOROの吉川さん(後にPARK COFFEEを運営する2人)から「大井町で街づくりに関わるコーヒー屋をやる話があるんだけど」と声を掛けていただき、「それうちでやってます!」と、(物件と)久しぶりの再会を果たすことになりました。

sunset coffee 自由が丘

sunset coffee は自由が丘で街づくりの一端に関わるコーヒースタンド。
運営者として白羽の矢が立つのは自然な流れと言えます。

再始動

改めて参加できることになったプロジェクトですが、コロナの影響から鉄道関係事業者は軒並み赤字の厳しい局面でした。御多分に洩れず、予算は最小限。アサインしていただいた時点で設計施工会社専任で、軽量鉄骨造でスクエアな建物のプランはほぼ決定済み。tsumuji は店舗のインテリアデザイン担当の位置付けでしたが、建物本体は外壁のサイディングを貼り分ける案をいくつも検討している段階。正直な第一印象は「住宅みたい」でした。

建築確認も仮受付まで済んでいる(大きな変更ができない)フェーズに新参者がどこまで口を出すべきか悩みましたが、黙っていることもできず 場の在り方、コンセプトの共有 のプロセスに立ち戻り、2021年5月 ついに1年半越しの物件が再スタートしたのでした。

tsumuj の空間づくりはまず、場の在り方を紐解くこと
コアになるコンセプトを共有することは、プロジェクトを進める中で山ほど降ってくる大小の問題、方向転換のシーン、それも多くのメンバーが関わる中で一つひとつ適切な判断を下していく基準になります。

開かれたドア
光を取り込む明るい店内
温もりの素材とコーヒーの香り
気軽に立ち寄れる「居場所」

新と旧
歴史を重ねてきたまちとこれからの基点

「これからのまちを考える場だから、外観は曇りなく真っ白がいい」
在り方からデザイン(を決定)していきます。

感染予防の観点からシェアオフィス案は実現できなかったものの、客席の一部を地域の打合せやワークショップのスペースとして兼用する形で 1Fプランがまとまりました。

ラフプラン

エキモクと引退する鉄道車両

前述の通り、プランは意図するものになったものの、表現をアウトプットする予算がない…
このままだと床はモルタル、壁は塗装、家具・建具は住宅設備の既製品、造作はひたすら簡素化するしかない。絶望的と思えるほど予算検討のフェーズは難航を極めました。

そんな中、東急の熊田さん、阿部さんから送られてきた写真がありました。
池上駅の建て替えで解体した旧駅舎の木材(通称エキモク)。転用を考えストックしてあるからどこかに使えないか?というものでした。

保管されるエキモク

同時にもう1つ。
現役を引退した東急田園都市線の車両があり、使えそうなパーツがあれば外して使って良いとのこと。

車両は長津田の車両基地に、エキモクは綱島の貸し倉庫に、それぞれ関係者で現地に出向き、使い道が見出せないものも含め「とりあえず」一通りピックアップすることにしました。

何もできないんじゃ...と心が折れそうだった局面が、SDGsへの取り組みが積極的な東急さんらしい姿勢で状況が一変しました。

個性が強く大きな方向転換ではあるけれど、使えるエレメントが出てきた!

車両からは、座席のベンチ、手すり、網棚、吊り革、扇風機、吊り広告の金物など、外せるものは片っ端から。
エキモクは加工すればなんとか使えそうな板状のものと、柱や梁だったであろう正方形断面の角材を選定していきました。どう使うかを考えながら。

もう内装工事が動いている中、図面で意思を伝えるのは難しいところまで来ていました。

作業用のジーパンで何度現場に行ったでしょうか…
当然図面などなく(あっても長年使い込まれて変形しているだろうけど)、それぞれ年代も違って形も風合いも異なる材料を現場に納めるには、一つひとつ現場での検証と施工調整が必要でした。

これら一つひとつについては長くなり過ぎるので割愛します汗(写真の中でご紹介します)

呼吸をはじめる空間

こうして新旧のまちを繋ぐ空間が形になり、歩き始めました。

カウンターとベンチ席

顔とも言えるコーヒーカウンターには板状のエキモクを使用。トップは表面加工無しのステンレスを採用、恣意的なテクスチャを目指すことを避けそれぞれの個性を尊重することにしました。シンプルな吊り天井には扇風機を機能として稼働させ、ベンチ席のユニットは網棚を含む一式を丸ごと転用しながら、カフェの客席に相応しくない古いクッションは撤去、エキモクの角材を座面として水平に並べ、座席の下にはコワーキング用にコンセントも設置しました。東急車両に家具用コンセントを設置した初めての事例です。(たぶん)

コミュニティスペース

客席を兼ねる予約制のコミュニティスペース。家具はラワンベニヤのテーブルとアンティークやミッドセンチュリーまぜこぜのチェアたち、時代やテイストを統一せず混在させることで新旧を跨ぐコンセプトを表現しました。

洗い出しの床

店内の床には廃棄されたガラス瓶のチップを散りばめ、洗い出し仕上げで廃材をアクセントとしてリユースしました。透明、青、緑、茶、少しのピンク、ささやかに足元で存在感を放っています。

外観

入口の建具にはヒノキの間伐材を使用しました。色を付けることはせず保護塗装のみで素材の色・風合いの変化は自然に委ねることとしました。これは屋外の木製ベンチも同様です。

パーキングエリアに並ぶ「P」のロゴ

空間づくりとともにお店のアイデンティティも少しずつ形づくられ、「大人になっても立ち寄れる、公園のようなコーヒーショップ」としてPARK COFFEE がスタートしました。

そしてオープンから4ヶ月経った 2022年2月現在、きっぷに見立てたコーヒーの回数券や地域ではサブスク提供も検討しているのだそう。

回数券


これからの空間づくり

PARK COFFEE では、インテリアデザイナーとして携わる設計サイドのプロセスと、試行錯誤しながら正解を見付けていくDIYに似た施工サイドのそれとを行き来するような感覚でした。机上ではできない現地での検証作業の繰り返し。実際に自分で手を動かした作業も少なくありません。通例的なセオリーとは異なりますが今回の表現方法としてはこれしかありませんでした。

効率とか生産性という都合の良い言葉で、汚いものにフタをするのではなく、手間が掛かっても愛される空間をづくり、そしてそれを一緒に楽しむプロセスこそが持続可能なまちづくりのスタートにピッタリですね!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?