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たけなわアヤコ
2020年4月22日 13:21
君の家。君の部屋。君の机で。君の切ってくれた梨を僕は君と食べていた。一切れつかんで、一かじり。じわりと口の中にたっぷりの水分と酸味が広がる。 (ああ、おいしい)僕も君も思ったことは同じだったようで、すぐにまた一かじり。二口、三口ほどで一切れを食べ終えれば、僕の手も君の手も、透明で平たく丸い皿に乗った次の一切れへと伸びた。元より会話の少ない僕たちだけれど、おいしいものを食べているときは
2020年4月22日 13:10
向かい合ってソファに座る君の強気なつり目がちの瞳に今、映されているのは僕――じゃなくて単なるファッション雑誌。そんな流行だとか何だとかなんて、全然気にしていないくせに。ペラリペラリとページをめくる彼女のスラリとした指を見つめながら、僕は手持ち無沙汰に自分の親指の爪を噛んで。大好きな人が目の前にいると言うのに、僕は一人のときよりもつまらなさを満喫する。あれ? 僕は彼女の恋人じゃあなかったっけ?