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過去の成功は、忘れた方がうまくいく

在学しているアメリカの大学から、ベルギーに留学した時に学んだ。
「新しい環境でうまくやっていくためには、過去の成功体験をすべて忘れた方がいい」ということを。

成功体験をたくさん積んで「こうすれば成功する!」という方法をたくさん知っている人ほど、それらを手放すのは難しいように思う。

私自身、進んで住む環境を幾度か変えてきた。皆と違う中学校へ行き、高校進学と同時に実家を離れて、大学は海外進学をして。新しい環境に馴染むのはもう得意だと思っていた。

けれどベルギーに行って、その自信は綺麗さっぱり砕かれた。


大学四年生の秋、ベルギーに三ヶ月間留学した。世界中から学生が集まる、大きな大学街。
指定された寮に住み始めて三日目、隣人トラブルに巻き込まれ、警察に行った。それ以来、軽い人間不信に陥った。

初めて気がついた。私は今までずっと、閉鎖的で守られた環境にいたと。
笑顔と親切心を忘れず、一生懸命働いて、自分が無害であることを周囲に主張し続ける限り、事は円滑に回った。日本でもアメリカでも、私の住んだ環境ではそれは共通していた。勤勉、正直、親切の三つが、どの環境でもうまく生きていける秘訣だと思っていたのだ。

都会に近く、多人種の集まる場所では、そうはいかなかった。私がどれだけ周りに優しくして、信頼を見せ、正直であっても、それらの目に見えない「投資」が自分に還元されているとはあまり感じなかった。

それでもベルギーで、日本やアメリカで上手くいっていたコミュニケーションの方法を、私は使い続けた。
今までずっとその方法で周りと接してきたから、それが自分の思う「自分らしさ」と一体化していたのだと思う。

「自分らしさ」を手放すのは、誰だって少しは、怖い。けれど、


新しい環境に、うまく自分を順応させていくには、「今まではこれで上手くいっていた」というこだわりや方法を、いちど捨ててみるのが有効だったりする。


留学三ヶ月目に、やっと「自分らしさ」へのこだわりを一度全部忘れて、ベルギーの留学先で知り合った人たち(日本人留学生も、現地ヨーロッパの学生もみんな含めて)が、どう行動しているかを注意深く観察できるようになった。そこで気づいたことがある。

ほとんどの人が、他人の人生を気にしていなかった。仲の良い人はいるけれど、いつも一緒にいるというわけでもない。生活のタイミングや趣味が合うから、一緒に時間を過ごすこともある、というくらい。

そして、自分の考え方や価値観を、疑わない人が多かった。自分と価値観が合わない人とはつるまなければいい、気があう人とだけ話せばいい。考え方がシンプルで、いい意味で自分本位な人が多かった。

そんな大きな町での人付き合いは、私にとって馴染みが深い田舎の、優しくもあり、閉鎖的でもある人間関係とは違っていた。閉鎖的なコミュ二ティでは、周りに自分を溶け込ませないと、疎外感を味わう。
逆に都会の環境では、他人が何をしているかなんて、いちいち深くは気にしない。多様な人が居すぎるから「あなたと私が違うのは当たり前」という姿勢が貫かれていたのだ。

周りの人を見習い、全て自分本位で行動するようにしていった。自分がどう人と接するべきか、自分がどう行動すべきか、というのは一切考えないようにして、話したいと思った時に、ただ思ったことを素直に言うようになった。そうしたら、だんだんと息苦しさが減っていった。


新しい環境に順応したいと思ったら、少なくとも方法は二つある。

一つは、一旦今までの経験や知識を全部忘れて、周りの人の振る舞いを観察し、片っ端から真似すること。

もう一つは、周りの目を気にせず、自分の直感、価値観に従って言動すること。

どちらかだけでなく、両方をバランスよく使いながら、ゆっくり、新しい環境に慣れてゆけたらいいんだ。ベルギーから帰って来て以来、そう思えるようになった。


読んでいただき、ありがとうございます!