「霊感体質な家族」
夏を迎え、昔ほどではないが心霊番組なども放送する季節になって来た。
僕の知り合いには幽霊が見えるという男がいて、今ではほとんど会うことはないが、心霊番組などを見るとふと彼のことを思い出すことがある。
彼と一緒にいる時など、いきなり「ワーッ!」と叫び声を上げることがあり、どうしたのかと訊ねると、黒い人影が後ろに立っていたのだと怯えて答えたりするのだった。
ただ通常と違うのがそういった反応の頻度が異常に多く、二時間一緒にいると五〜六回はその男の叫び声を聞く。
その度に目の前を黒い影が通っただとか、隣から睨みつけるような視線を感じたと騒ぎ立て、最終的には「大丈夫?」と僕に肩を叩かれたことに驚き、「ウワァー!!」と叫び腰を抜かしてしまう。
「ちょっとびっくりさせないで下さいよ!」と泣きそうな彼を、僕はただ冷めた表情で見下ろしていた。
彼曰く、家でも頻繁に金縛りにもかかるそうで、頻度としてはこれも週に四〜五回と、もはや学生アルバイトの数と同じぐらいである。その現象は実家に居る頃から続いており、しかも両親と妹、さらにはおばあちゃんも含めた家族五人が全員同じように金縛りにかかるという。
家族全員だとすれば、マックスで週に二十五回金も縛りにかかるのだ。多分ギネス記録だよ。
霊の存在にも家族全員が敏感らしく、おばあちゃんが庭で軍服を着た男を見たと叫ぶと、妹が押入れに人が居たと二階から駆け下りて来て、その二人の話を聞いた両親と彼の耳に、今度は女の不気味な笑い声がこだまするらしい。
それもう霊が見えるとかではなくて、ただ単純に家族全員の感受性がとてつもなく強いだけではないだろうか。
彼の普段の態度やその話から嘘を吐いてる様子はなく、本当に実家でそんな自体に陥ってるのは確かだったのを憶えている。
しかしそれはやはり霊が見えているのではなく、誰かの僅かな言動や、目に映る小さな変化への反応が敏感で、現実に影響を与えるほど想像力を働かせてしまうのではないかと思う。恐怖や不安というネガティブな感情はより伝播する力が高く、感受性の突出した彼の家族は、一種の集団パニックのような状態に陥っていたのではないだろうか。
その証拠に当時は家族みんな仲がよく、誰一人ケガも病気もすることなく健康に過ごしていて、すでに二十八歳を迎えていた彼は、そんな悪魔の住処みたいな実家へ、月に一度は必ず母親の手料理を食べに帰っているらしかった。
実家に帰る時にはきっと数々体験した怪奇現象のことなど全て忘れて、みんなが笑顔で食卓を囲み、ガタンッという僅かな物音をきっかけに家族全員がパニックに陥る。
誰よりも純粋で思いやりがあって、絶対に関わり合いたくない家庭がそこにあったと記憶している。
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