朝季

混沌とした頭の中をどうにかしたい

朝季

混沌とした頭の中をどうにかしたい

マガジン

  • 物語の種

    短いけど物語になりそうなもの

  • 日記

    日々の思ったことを徒然なるままに

  • 読書記録

    読んだ本や漫画の感想

最近の記事

お願いごと

またあの子は来んかった。 今日最後の参拝客の撫でが終わると、赤い目をした撫牛「暁琉」は不服そうに臥せた。 ここ北野天満宮に最近毎日参拝しにくる子どもがいるらしい、と他の撫牛達が噂しているのを耳にしたのは数日前のことだ。 「あの子この前私を撫でに来たわ」 「昨日は私のとこやった」 「あら、私のとこにも来てはったわ」 境内には十数体の撫牛達がいるが、暁琉以外は皆撫でられたことがあるらしい。 (気に入らへん…) 暁琉は「一願成就のお牛さん」という撫牛の中でも別格の存在だ。毎日来るほ

    • あのシュークリームが食べたい

      1人暮らしを始めてもう8年も経つ。 いうまでもなく十分に大人で、社会人として自立して生きている。えらい。 何時まで寝てるのとか、ちょっとは家のことも手伝ったらどうなのとか言われて、私だってやることたくさんあるんだから!とぷんぷんしてたあの頃とは違う。そこは、誰も何も言わない世界。創造主は私のみ。私が動かないと何も始まらない。 本当に何も始まらないのだ。 ある意味気楽で、ある意味残酷。 年をとるほど残酷の比率が若干上がっている気がしなくもない。 創造主たる私が迷うと生活も

      • 「可愛い」という言葉が好きな今日この頃

        ある曲を聴いている時にふとこの言葉を思い出した。たしかに「可愛い」という言葉には愛を向ける対象への「意志」や「可能性」が含まれている。 自分を愛しく思おう、君を愛しく思おう。 自分を愛することができる、君を愛することができる。 とても前向きでひたむきで純真な感情が込められた言葉だ。だから可愛いをまとう曲を聴くと元気が出る一方で、そのまぶしいほどの意志や可能性になんだか涙が出そうになる。 そしてそのまぶしさに当てられて、自分もだんだん可愛く思えてくるのだから魔法のようだ。

        • ラストマイルを観た

          仕事をしているとよく聞かれる。 管理職になりたくないのか。 経営側に興味はないのか。 出世したいと思わないのか。 なりたくないし、興味もないし、出世もしたくない。 だって、自分が自分でいられる時間を失ってまで なぜ働かなければならないのか。 そうまでして、名声を得る必要があるのか。 そんなふうなことを思っているからか ラストマイルの中で一番共感できたのは梨本孔だった。 だから、あのラストが私にはとても恐ろしかった。 期せずして自分にバトンが渡された時に 私は私のま

        マガジン

        • 物語の種
          4本
        • 日記
          15本
        • 読書記録
          6本

        記事

          グレーな人間は美しい〜正欲を読んで〜

          あなたは白の人間ですか。それとも黒の人間ですか。 そう問われた時に、間違いなく自分は白の人間だ、黒の人間だ、と言える人間なんているのだろうか。 スターウォーズのダースベイダーにもジェダイの戦士だったときがあるし、ロード・オブ・ザ・リングのフロドだって指輪の誘惑に負けたことがある。 どんな人間だろうと内側に白と黒の両方を持ち合わせているはずだ。 だが、社会はそのグレーな人間を白と黒に線引きしようとする。 そうすると、自分の中にある黒の部分を社会が否定しにかかるということが発

          グレーな人間は美しい〜正欲を読んで〜

          砂鉄と磁石

          意識が遠のく瞬間を覚えていたいだなんて。 杏子は薄い布団の中に足を突っ込みながら、これはまたやっかいなことになりそうだ、と苦笑いをした。 さあ寝るぞというタイミングで、たまに杏子は絶対に答えなど出ないようなことを考えてしまうのだ。 冷房からポコポコと一定のリズムを刻む木魚のような音が聞こえる。機密性が高い部屋で冷房をつけるといつもこうだ。窓を開けると鳴らなくなるのだが、さすがに窓の開けっぱなしは防犯上よくないから、そのまま大人しく音を聞くしかない。 ガバッと布団の中に頭

          砂鉄と磁石

          美しさは筋肉から

          俳優やモデルだけでなく、普通に道を歩いている人でも目を惹く人はいる。それは、顔の美しさだったり、服の可愛さだったり、纏うオーラだったり。人それぞれポイントはバラバラだろうが、私はとにかく「人体のフォルムの美しさ」に目が惹かれる人間だ。人体なんて言葉を使うと、まるでマッドサイエンティストのようだが、他に言い表しようがない。 きっかけは、何を隠そう羽生結弦くんだった。 あの伝説の2012年仏ニースのロミオとジュリエット。若干17歳の新星が舞う、神がかり的に曲の物語と成長途上の技

          美しさは筋肉から

          部屋の広さは思考の広さ

          「お前、覚えとけよ。部屋の広さは思考の広さなんやからな?」 兄がうちに泊まりに来て、部屋をみた瞬間に釘を刺すように言い放った言葉を、大の字で部屋の天井を仰ぎながら思い出し、絶望した。 外は焼けるような暑さで、命をかけた叫び声のような蝉の鳴き声が響き渡っている。そんな叫び声なんて上げる必要が全くないほど涼しい5.6畳1Kの部屋で、そのとき私はのんきに昼寝をしていた。 夢見心地な頭を玄関のほうへ向ける。玄関から部屋まで約2m。歩幅にして約3歩。この部屋は全てが3歩で完結してし

          部屋の広さは思考の広さ

          What can I do?

          前回の更新から随分と時間が空いてしまった。 この1年、個人的にとてもしんどくて、楽しいことがない日々を過ごしてしまった。仕事以外で外に出て何かをするのが億劫で、変わりたいのに変われない日々を嘆いてばかりだった。 そんな日々ももう終わり。 否応なしに、環境が変わり、関わる人も変わり、そして住む場所も変わる。 変わるならいましかない。 1月に観たtick, tick…BOOM!の30/90じゃないけれど、時計の針みたいに迫ってくる人生のカウントダウンの中で、私は何ができ

          What can I do?

          推し、燃ゆを読んで

          ページをめくるたびに流れていくどこか冷静な言葉に、「ああ、私はこの感覚を、この感情を知っている。」、そう思った。既視感と嫌悪感がじりじりと胸を焼いた。 2021年に生きる人間の姿を、時代を、とても簡潔に表していて美しい文章だった。 ・現代の推しとファンの関係のひとつの終着点の物語燃えたことで、浮き彫りになっていく推しという「人間」の姿と、見て見ぬ振りをしてきた自分という「人間」の山積みの問題たち。 肉体の重さや、静脈を流れる酸素が欠乏した黒い血を感じさせる文章が、美しく軽や

          推し、燃ゆを読んで

          夢のはなし

          なんか書きたいなーって思うのに、書くことないーの矛盾を繰り返すことにさすがに飽きたので、いっちょ夢のはなしでも書く。 つい一昨日くらいに遅めの初詣に行き、神様にご挨拶をしてきた。さあ心機一転やったりますかと気合十分に家路につきご飯を食べて就寝したところ、今年初の夢とやらを見たわけで。 季節は夏。雲ひとつない青空とパラソル。トレーラーハウス暮らしをしている私と母と兄は、お昼ごはんをちょうど作って食べていた。私と母が住んでいるトレーラーと兄の住んでいるトレーラーは別なのだが、

          夢のはなし

          まっしろな世界で、燃ゆる

          2020年を一言で表すなら白だった。 良いことも、悪いことも全部白かった。 【白紙】 いろんなものが白紙になった。オリンピックも、海外旅行も、ライブも、GWと年末年始の帰省も、仕事も。スケジュール帳に書いていた予定を消えるペンで消してもかすかに残った文字を見るたびに、このタイミングでしかできなかったことがたくさんあったんだよと悔しくなった。 【空白】 何もしない、何も生み出さない、ぼーっとする時間がたくさんあった。目を閉じると眠ってしまって気づいたら夕方、みたいな。猫か。

          まっしろな世界で、燃ゆる

          ジブリ美術館で迷子になる

          ジブリ美術館へ行った。 フィルム入場券はハウルが秘密の庭でソフィーの手を引くシーン。 フィルムを眺めながらホールへ続く階段を下りていると、ハウルに手招きされているかのように感じた。 あのとき乗り込んだネコバスを、いまは柵の外から眺める。 夢中で駆け上ったらせん階段を、ヒールで少し背伸びをして登る。 足のすねあたりにある小さなのぞき穴を、しゃがんでのぞき込む。 小さいものたちの世界はどれもきらきらしていた。 屋上にいる巨神兵に会いにいくと、どこかへいってしまったと思ってい

          ジブリ美術館で迷子になる

          CLAMP作品における目の役割について

          『CLAMP作品を読むと性癖を狂わされる。』 まことしやかに囁かれているこの言葉。 Twitterで「CLAMP 性癖」で検索すると、悩ましいながらも本当は特段別に困ってもないときにつくため息のようなつぶやきが日々生み出されているので、なるほど真実なのかもしれない。 そういう私もCLAMP作品を通ってきているので、何かしらの性癖を狂わされているのかなと頭を巡らしてみたところ、ひとつ思い当たるものがあった。 目である。 高校時代、生物の授業で最も好きだった分野は目の仕組み

          CLAMP作品における目の役割について

          萌芽は何処から

          夜と朝が入れ替わるとき、過去と現在が交錯する 2016年冬 京都がまだまどろみの中にいる時間に 私は自転車を走らせていた 耳が痛くなるくらいの寒さと静けさが 寝ぼけ眼の私の五感を尖らせる 眠たげな朱色を放つ仁王門 龍が番をする手水 千年間生きた生き物の匂いがする黒ずんだ舞台 一歩進むたびに軋む音が緊張を煽る 意を決して 深く息を吸い込み目を閉じた まどろむあなたの顔が見える 昨夜遅くまで書いていたのだろうか 筆を手にしたままだ 起こすのは悪いかなと思ったが どうして

          萌芽は何処から

          本が私に読ませてくる感覚

          学生のころ、よく訪れる大好きな本屋さんがあった。 小さくてせまいお店だったが、そこに行くと必ず私は何冊か本を買ってしまうのだ。本の数が桁違いに多いであろう大きな本屋さんではぐるっと見て回っても結局何も買わずに出ていくこの私が。 その本屋さんではそこの書店員さんチョイスの本の紹介文がそこかしこに貼られていたり、その本屋さん独自の特設コーナーがあったり(湖沿いのお店だったのでそこにちなんで鉄道沿線事件ものを集めたマニアックなものなど)と、なんというか温かみと手作り感が満載だった

          本が私に読ませてくる感覚