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グレーな人間は美しい〜正欲を読んで〜

あなたは白の人間ですか。それとも黒の人間ですか。

そう問われた時に、間違いなく自分は白の人間だ、黒の人間だ、と言える人間なんているのだろうか。
スターウォーズのダースベイダーにもジェダイの戦士だったときがあるし、ロード・オブ・ザ・リングのフロドだって指輪の誘惑に負けたことがある。
どんな人間だろうと内側に白と黒の両方を持ち合わせているはずだ。

だが、社会はそのグレーな人間を白と黒に線引きしようとする。
そうすると、自分の中にある黒の部分を社会が否定しにかかるということが発生する。

それがもしも、自分から簡単に切り離せないものだったら。

朝井リョウさん著「正欲」は、グレーな人間についてを描いた物語だ。ずっしりと重いテーマである。

序盤の独白に近い内容の中に出てくる文を読んだ時に、自分の中にあるグレーな部分が疼いたような気がした。自分から簡単に切り離せるものではなく、誰かに理解してもらえると思えないこと、私にもあるなと。私に想像できないだけで、きっと皆にもあるのだろう。

私は私がきちんと気持ち悪い。そして、そんな自分を決して覗き込まれることのないよう他者を拒みながらも、そのせいでいつまでも自分のことを考え続けざるを得ないこの人生が、あまりにも虚しい。

「正欲」朝井リョウ

だが、読後感はそれほど重くはなかった。
なんというか、彼らのもがき苦しむ姿を美しいと思ったのだ。グレーな世界の中で傷だらけになりながら、それでも必死に希望に縋ろうとする人間の姿は生に満ち溢れていた。

独りでいればたしかに傷つきはしない。けれど、傷つかないと見えないものもある。ついつい外に出ることも人と関わることも億劫になってしまうが、繋がりを作っておきたいと思った。

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